玉城ティナ・足立梨花・沢尻エリカ!三世代の女性がガンバる3本の映画!

いつの時代でも、さりげなく誰かがガンバッている映画を見るのは心地よいものです。


奇しくも6月22日から23日にかけて公開される3本の日本映画、10代、20代、30代と、それぞれの世代のヒロインが健気にガンバる姿、が微笑ましくも気持ちいいものばかりなのでした……



  (C)2018「キスできる餃子」製作委員会


《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街vol.315》

10代web小説家(玉城ティナ)『わたしに××しなさい!』

20代バツイチ餃子屋さん(足立梨花)『キスできる餃子』

30代元アイドル(沢尻エリカ)『猫は抱くもの』

そう、みんなガンバッているのです!

恋を知らない10代S系web小説家が
『わたしに××しなさい!』と命令?




(C)遠山えま/講談社 (C)2018「わたしに××しなさい!」製作委員会 


まず『わたしに××しなさい!』は、累計部数212万部を突破し、第36回講談社漫画賞を受賞した遠山えまの同名コミックの実写映画化です。

いわゆるキラキラ映画の1本ではありますが、主人公・氷室雪菜(玉城ティナ)が高校生女子にして人気web小説家という設定がユニークです。

そんな彼女が初のラブ・ストーリーに挑むことになったものの、実は恋愛経験がないもので、悩んだ挙句に導かれた答えは、疑似恋愛すること!

折しも、雪菜は学校一のイケメン北見時雨(小関裕太)の、あるドSな秘密を握ってしまい、それをタテにして彼に疑似恋愛を強要し、さまざまなミッションを開始するのです。

恋を知らない女の子が疑似恋愛していくうちに、やがて本物の恋に落ちて……というのはこの手の作品のパターンではありますが、実体験しないと創作活動を続けられないのではないかというジレンマは、こちらもモノカキのはしくれとして、気持ちは痛いほどよくわかります。
(もっとも、そういった私小説作家的な論理だけでいくと「ならば人を殺さないと、殺人ミステリは書けないのか?」みたいな屁理屈にも結びつきかけないのでご用心)

玉城ティナの、いかにも「男も世界も人生も知らなさげ」なカタブツ的メガネっ子姿が実に映画的に可愛く映えていて、そこにこの手の映画ならではのドロドロなのに妙に微笑ましい三角関係やら四角関係が絡み合い、いわゆるリアリティとは一線を画しつつも少女漫画原作ならではのポエミーかつ繊細な思春期的躍動感は、クライマックスのライバル作家・北見氷雨(金子大地/え、役の名字が小関優太と同じ“北見”って……?)まで見事に持続していきます。

『グッモーエビアン!』(12)『猫なんかよんでもこない』(16)などで知られる山本透監督の演出は、階段などの上下の構図を用いて、キャラクターのそのときそのときの力関係などを巧みに示唆しているあたりが妙味です。

男運のない20代バツイチ餃子屋さん
『キスできる餃子』を開発?




  (C)2018「キスできる餃子」製作委員会


最近の日本映画には珍しいオリジナル・ストーリーで勝負する『キスできる餃子』の舞台は、餃子の本場・栃木県宇都宮市。ヒロインの藤田陽子(足立梨花)は残念なイケメンばかりに恋をし続け、ついにはバカ夫に浮気されて離婚するも慰謝料の請求にも失敗してしまうという、ついてないバツイチ・シングルマザー。

そんな彼女が5歳の愛娘・美咲を連れて故郷の宇都宮に戻り、一度は親子の縁を切った父(浅野和之)の餃子屋で1年前に廃業した「ふじた」を継ぐことを決意。

しかし、かつて名店と謳われた父の味がなかなか出せず四苦八苦する中、陽子はまたまた懲りもせずにひとりのイケメンと出会い、心動かされてしまいます。

そのイケメン、実は若き天才プロゴルファー岩原亮(田村賄久)であることを、世間知らずの陽子は知りませんでした。

そして彼が現在、一大スランプ中であることも……。

宇都宮の餃子を世に広めるご当地映画としての要素も兼ね備えつつ、ここでは恋に恋し続けたダメンズ10代の失敗の数々にようやく気づき、今ならまだ人生をやり直すことができるとばかりに帰郷して奮闘するヒロインの奮闘が、見ているこちらも声援を送りたくなるほどに微笑ましく描かれていきます。

また餃子とゴルフがどう絡み合うのかといった問題も難なくクリアされており、戯曲活動と並行してTVドラマ「ドラゴン桜」(05)などの脚本や「アンフェア」シリーズ(06~)原作などで知られ、2016年『クハナ!』で映画監督デビューを果たした秦建日子(ちなみにハタ・タケヒコと読みます。男性です)ならではのストーリーテリングの妙で、過剰に劇的なわけではないけど、慎ましやかな人の幸せというものが柔らかなタッチで追究されているのが好感の持てるところ。

何よりも、足立梨花が持ち前の明るさで好演しています。

彼女の魅力あってこそ成立し得た作品ともいえるでしょう。

ちなみにタイトルの『キスできる餃子』とはいかなるものか? それは映画の最後まで見ればわかりますので、ぜひ劇場でご確認ください!

30代元アイドルと擬人化された猫たちの
ささやかな心の交流『猫は抱くもの』




(C)2018「猫は抱くもの」製作委員会 


さて、三世代それぞれ魅力的な作品群ですが、個人的に今回もっとも強く推したいのは、この『猫は抱くもの」です。

とにもかくにも沢尻エリカがいい!

と、ついつい興奮しがちなほどに彼女が可愛くもいじましく映えわたっている快作なのですが、その役柄はかつてアイドル・グループ「サニット」に属しつつ、今はそのキャリアを隠して田舎でスーパーの店員を務めている孤独な女性・大石沙織。

明確に30代とは劇中言われてはいませんが(プレスシートの解説にはアラサーと表記)、時代背景的な描出などから、やはりそのくらいであろうと推察されます。

若き日の夢に破れ、どこか投げやりな日々を送り続けている沙織の唯一の話し相手は、ロシアン・ブルーの猫・良男(吉沢亮)……。

え、なぜ猫なのに、役者の名前が?

実はこの映画、猫を擬人化させ、役者が猫を演じながらそれぞれの心情を吐露させていく実験的かつ意表を突いた趣向が図られているのです(もちろん猫そのものの姿も登場します)。

だから劇中、吉沢亮はいつも沢尻エリカの膝の上に頭を乗っけていて、それはそれは実にうらやましい光景でもあるのですが(?)、それはさておき、ある日沙織はスーパーで万引きした少女の保護者でもある画家・後藤保(峯田和伸)と知り合い、どことなく心惹かれつつも、そんな中で突然「サニット」1日限りの再結成の誘いを受けてしまいます……。

一見、人生に達観しているようでいて、実は心の中の希望の灯を消し切れていないヒロインの憂いを、沢尻エリカが見事に演じています。

かつて『パッチギ!』などで若手女優として栄光の座をつかんだものの、その後のさまざまなスキャンダルに翻弄されていくうちに、いつのまにか角を隠す術を覚え、丸みのある情緒を醸し出す女優として蘇った彼女、昨年はTVドラマ「母になる」が注目を集め、今年も映画『不能犯』で主演の松坂桃李を追いつめる刑事役でも好演しており、再び彼女の時代が到来してきたかのような感もあります。

また銀杏BOYSでの音楽活動と並行して、昨年はTVドラマ「ひよっこ」でも注目を集めた峯田和伸の存在感も特筆もので、特に映画の後半は彼が巧みに引っ張っている印象を受けます。

監督の犬童一心は、かつて映画&ドラマの『グーグーだって猫である』を手掛けた猫映画の達人でもありますが、ここでは吉沢亮をはじめとする芸達者に猫を演じさせることで、『キャッツ』ではありませんが舞台劇的な情緒も盛り込みつつ、かつて若き日に撮った愛らしくも実験的自主映画の数々を彷彿させてくれています。

原作は城戸賞受賞のキャリアを持つ大山淳子、脚本は『そこのみにて光輝く』(14)や『オーバーフェンス』(16)など、最近の秀作には常にこの人の名前ありと謳いたくなる高田亮。

さらには、ひらのりょうのアニメーション、伊藤雅子の舞台美術など、さまざまな分野の達人が結集して、人の心の寂しさにそっと手を添えてくれるかのような、ささやかな喜びをもたらしてくれる秀作、それが『猫を抱くもの』です。

このように三世代女性それぞれの魅力を放つ3本の作品を見通して思うのは、やはり最近の日本映画は面白くなってきたなということです。

新しい才能もどんどん現れてきています。

あとはそういった次代を担う才能を大きく伸ばすにたる企画をピックアップしていくかにかかっているのでしょう。

(文:増當竜也)

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