女優が目指すゴールといえる濡れ場を堪能。世界的女優が魅せる『白河夜船』
とてもとても静かな映画。匠の2人の濡れ場はエロより芸術を思わせる。
これほどまで静かな映画があるだろうか?
「ミッション・イン・ポッシブル」を観たあとだと、音量違いすぎて脳みそシャカシャカになります。
いい意味で、ある程度の映画好き以外は距離を取ってくる名作。
『白河夜船』
よしもとばななが1989年に発表した同名小説を、『星影のワルツ』の若木信吾監督がメガホンをとり、実写映画化。「白河夜船」とは、なにが起きても気づかないほど、ぐっすり眠っていることのたとえである。
恋人の岩永(井浦新)と不倫関係を続ける寺子(安藤サクラ)は、仕事もせず毎日家で岩永からの電話を待つだけの日々を送っている。岩永の妻(竹厚綾)は、交通事故にあって以来ずっと植物人間状態にあった。
岩永との関係は進展することもなく穏やかに続いていたが、寺子にとって最愛の親友・しおり(谷村美月)が死んでしまったことだけは彼に言えずにいた。大学時代に一緒に住んでいたしおりとはどんなことでも話せる仲で、岩永との関係についていつも親身に相談に乗ってくれたのも彼女であった。
しおりは男たちにただ添い寝をする“添い寝屋”という奇妙な仕事をしており、まるで天職のようにその仕事に夢中になっていた。そんなしおりが自ら死を選んでしまったことに寺子はショックを受けるが、なぜか岩永に言い出せずにいた。
しおりと過ごした日々を思い返しているうちに、寺子の眠りは徐々に深くなる。どんなに深い眠りのなかでも岩永からの電話だけは聞き分けられるのが自慢だったが、ついに彼からの電話にも気付かなくなってしまう。まるで何かに取り憑かれたように眠り続ける寺子。やがて彼女は、夢と現実の境目すら曖昧になっていく……。
段差が無い濡れ場
正直全編気怠い。気怠いという表現があってるのかどうかはさておき。
ここまで気怠いかと思うくらい気怠い。
全員が全員ナルシズムに溢れていて、まったりと静かで…要は気怠い。
急に大阪のおばちゃんが出てきて、「えーい!あんたらええ加減にしいや!」って頭パコーンってしたら爆笑起きるんじゃないか?ってくらい気怠い。
しかし、この気怠さがとてもとても大事で、この作品の根幹だと思う。
そしてその気怠さのままの濡れ場。
すげえ失礼なのかもしれないけど、はっきり言ってエロさはゼロ。胸も惜しげも無く出してるし、服着てる時も全編ノーブラの安藤さん。
しかし、エロさというより、この寺子の危うさや悩みや葛藤が気怠さの中にあふれていて、結果淡い綺麗な濡れ場になっている。
濡れ場に段差がないのである。ごくごく自然な濡れ場。あれだけ脱いでたら「ここのバストショットいる?」と言う事もあるけどそれが全くない。
あの濡れ場の頻度でそう思わせる安藤サクラがすごい。
『万引き家族』で確実に世界的な女優となった安藤サクラ。
もはや僕の中での香川照之さんのように「安藤サクラが出てるならいい映画だろう」という高みに登っている。
その片鱗が全編に散りばめられているかのごとく『白河夜船』は素晴らしく気怠く美しい。
手持ちのカメラやあえてのピンボケも、この作品を象徴する気怠さを際立たせている。
女優が目指す濡れ場のゴールなのでは無いだろうか?
そのあたり、ぜひ観て欲しい。
(文:南川聡史)
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