やっぱりラージャマウリ監督は凄い人だった!『マガディーラ 勇者転生』はインド映画の入門にもピッタリ



© GEETHA ARTS, ALL RIGHTS RESERVED.



2018年前半の国内映画界を牽引し続けてきたインド映画『バーフバリ 王の凱旋』。6月1日に『バーフバリ 王の凱旋<完全版>』が公開され、さらには「バーフバリ」サウンドトラックの発売が11月28日に決定するなど、いまだ熱気冷めやらずといったところだ。そんな超大作「バーフバリ」の“原点”と謳われる映画『マガディーラ 勇者転生』の順次公開が、8月31日からスタートした。

本作の監督を務めたのはS.S.ラージャマウリ監督で、もちろん『バーフバリ 伝説誕生』『バーフバリ 王の凱旋』を世に放った人物だ。「バーフバリ」旋風の後押しを受けて来日も果たしたラージャマウリ監督が2009年に手掛けた作品で、本国では1000日を超えるロングランヒットを記録している。今回は、「バーフバリ」ファン待望の公開が“結願”した『マガディーラ 勇者転生』の魅力を紹介したい。



© GEETHA ARTS, ALL RIGHTS RESERVED.



ラージャマウリ監督の才気は既に爆発していた!



『マガディーラ 勇者転生』の舞台は、1609年のウダイガル王国と400年後の現代・ハイデラバード。2つの時間軸をメインにストーリーは進むのだが、やはり見どころはラージャマウリ印ともいえるスペクタクル・アクションだろう。特にウダイガル王国の伝説的戦士・バイラヴァと王国を手中に収めようと企む軍司令官・ラナデーヴの対立は、国王の娘・ミトラ姫の存在も絡み合ってドラマ的な背景にも支えられている。対立する正義と悪意、その狭間に置かれる女性という作品構造はまさに“「バーフバリ」の原点”と呼ぶに相応しく、バイラヴァが見せる威信と誇りをかけた壮絶なバトルシーンは、「バーフバリ」シリーズのスペクタクルシーンに全く引けを取らない。



© GEETHA ARTS, ALL RIGHTS RESERVED.



確かにスケールという意味では「バーフバリ」よりも規模は小さくなるものの、刀を手にして退路を断たれた状態で100人の敵を迎え撃つ場面は、実に壮観かつ圧巻。平面的なアクションではなく、大胆なカメラアングルや構図を生かした高低差のあるラージャマウリ監督特有の視点は本作の時点で既に披露されていて、視覚面や感情面など観客に圧倒的な情報量を提示する。このラージャマウリ監督の視点こそ観客の興奮を呼び覚ます起爆剤として抜群の効果を持っていて、バイラヴァの“100人斬り”はその意味以上の高揚感を観る者に与えてくれる。約10年前の作品ながら、そういった視点は現在の流行的な映画シーンとなんら遜色のない魅力を放っている。



© GEETHA ARTS, ALL RIGHTS RESERVED.



本作は「バーフバリ」と同じく監督自ら脚本も手掛けているが、ラージャマウリ監督の描くキャラクターの“人間らしさ”もまた観客のハートを掴むポイントだろう。バイラヴァのカリスマ性とラナデーヴの純粋悪はやはり「バーフバリ」に通じるし、それは現代へと舞台を移して、それぞれハルシャ、ラグヴィールへと転生してもその血が薄れることもない。バイラヴァを最後の瞬間まで愛し、その愛を貫き通すミトラ姫もまたインドゥへと転生して一層の輝きを増す。またバイラヴァと対峙したある人物(このキャラクターもまた憎めない魅力がある)が現代に転生し、ハルシャと交わる設定もなかなかドラマチックで、「バーフバリ」で見せたサブキャラクターに至るまでの描き込みが既に本作で光っていて、やはり“原点”の名に相応しい作品となっている。

馴染みやすい“ラブストーリー”



先に挙げたように、『マガディーラ 勇者転生』の軸にはバイラヴァとミトラ姫のラブストーリーがある。これに横恋慕したラナデーヴの策略がのちに悲劇的な結末を導き出し、舞台は現代へと移る。バイラヴァはバイクレーサーの若者・ハルシャに、ミトラ姫は女子大生・インドゥに転生。顔も合わせたことのなかった2人がハイデラバードの街中で偶然指と指が触れ合うという演出が心をくすぐり、ラブコメディのような展開を見せるのも胸を躍らせる。指が触れ合った瞬間電気のようなものがビリリと走るというのも「今どきそれをやりますか」と突っ込まれてしまいかねないが、そこはラージャマウリ監督マジック。ハルシャがその電流によって前世の記憶が断片的に浮かび上がり、彼が自分の内に秘められた“何か大切なもの”に気づくと同時にインドゥに恋に落ちるという見せ方は、もはや演出の古臭さがどうという評価は気にもならない。



© GEETHA ARTS, ALL RIGHTS RESERVED.



本作は意外にも王道的なラブコメ展開を見せつつ、ようやくハルシャはインドゥと再会。いよいよ現世においても2人は結ばれるのか、と思いきやその仲を切り裂くのが、ラナデーヴが転生したインドゥの従兄弟・ラグヴィールだ。前世の関係がそのまま現代に持ち込まれる形だが、やはりラグヴィールの悪意は筋金入り。本作の現代パートで国を巡るようなスケール感はもちろんないのだが、それでもしっかりとラグヴィールが“悪”たる理由が説明されており、その辺りに関してもラージャマウリ監督は抜かりがない。そんなラグヴィールは当然のようにインドゥに横恋慕し、ハルシャと相まみえることで前世の禍根が(知らずのうちに)再燃する。

「バーフバリ」では過去と現在どちらの面でも恋愛描写が大きな役割を果たしたが、本作ではラブストーリーが前世と現代を橋渡しするための鍵となっているので、よりバイラヴァとミトラ姫の悲恋は感情に迫る部分がある。作品全体を俯瞰しても2人の愛が一貫して描かれているのがはっきりしているので、本作はスペクタクル・アクションという切り口よりもラブストーリーという目で見ると、前世と現世の構成や3人の絡み合う運命がいかに緻密な脚本によって構成されているか、唸らされるばかりだ。



© GEETHA ARTS, ALL RIGHTS RESERVED.



これぞインド・エンターテインメント



豪胆ともいえるラージャマウリ監督の手腕、壮観なアクションシーン、そして時空を超えたラブストーリーという構図が見事に合致した『マガディーラ 勇者転生』。それだけでも十分にエンターテインメントとして成立しているが、やはりインド映画といえばダンスシーンも忘れてはいけない。本作では「バーフバリ」では見られなかった喜劇調のダンスシーンが現代パートに用意されていて、ファンにとってはラージャマウリ監督の新たな一面を垣間見ることができるのではないだろうか。4月に来日し、帰国した直後にラージャマウリ監督は日本のために自ら本作の編集を行い“ディレクターズカット版”を製作したわけだが、当該ダンスシーンはカットされることなく本編に残されたので、たっぷりとダンスチューンを堪能することができる。そのダンスシーンが現代パートと密接につながっているのかというと実はそうでもないのだが、この場面は主人公の2役を演じたラーム・チャランの実父で、“メガスター”と呼ばれるチランジーヴィのカメオ出演を引き立てることにもなっているので、合わせて楽しんでほしい部分だ。



© GEETHA ARTS, ALL RIGHTS RESERVED.



なおラーム・チャランは本作で日本初登場となったが、精悍な顔立ちと見事なアクションで知名度を上げそうで、なおかつラージャマウリ監督の最新作『RRR』(仮題)に主演するということなので名前を覚えておいた方が良いかもしれない。またミトラ姫とインドゥの2役を演じたカージャル・アグルワールの美貌もさることながら、その演技力にも注目したい。特にバイラヴァへの深い愛情表現は、物語の登場人物だけでなく観客の感情にも訴えかけてくるはず。むしろ彼女が貫き通したバイラヴァへの愛こそ本作の物語を支える柱となっており、それを体現してみせたアグルワールは作品と観客を精神的にコネクトする役割も担っていた。本作の魅力はビジュアル面だけでなく、「バーフバリ」シリーズと同様に、日本ではまだ馴染みがないながらもキャスト陣の存在感が確実に光っている。



© GEETHA ARTS, ALL RIGHTS RESERVED.



まとめ



「バーフバリ」の原点を知るためでも良し。ラージャマウリ監督の魅力を知るためでも良し。観客によって楽しみ方はそれぞれだが、もちろん「バーフバリ」シリーズを観ていなくても十分に楽しめるし、むしろインド映画の入り口として『マガディーラ 勇者転生』はより入りやすい作品となっている。現在のところ東京・大阪・名古屋・札幌などの劇場で公開がスタートしており、今後全国各地域でも順次上映が始まるので、ぜひ壮大な世界観をスクリーンで味わってほしい。

(文:葦見川和哉)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

RANKING

SPONSORD

PICK UP!