『アリー/ スター誕生』レディー・ガガ主演と見せて、実は男の生き様を描く傑作!



(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC



人気俳優ブラッドリー・クーパーの初監督作にして、世界的な歌姫であるレディー・ガガの初主演映画『アリー/ スター誕生』が、ついに日本でも12月21日から全国公開された。

過去に何度もリメイクされてきた古典的ラブストーリーを、文字通り最良のキャスティングにより見事に現代に蘇らせた本作。果たしてその内容と出来は、どうだったのか?



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ストーリー


昼はウエイトレスとして働き、夜はバーで歌っているアリー(レディー・ガガ)は、歌手になる夢を抱きながらも自分に自信が持てなかった。ある日、ひょんなことから出会った世界的シンガーのジャクソン(ブラッドリー・クーパー)から歌を高く評価される。アリーは彼に導かれてスター歌手への階段を上り始め、やがて二人は愛し合うようになるが、ピークを過ぎたジャクソンは、徐々に歌う力を失っていく…。


予告編


実に3度目のリメイク! 時代を超えて愛されるその理由とは?



自分の隠れた才能を埋もれさせていたアリーが、憧れの大スターであるジャックとの運命的な出逢いによりその才能を見い出され、ついにスターの座を手にするが、その代償に失ったものとは…。

1937年のオリジナル版、そして1954年のリメイク版では、映画業界を舞台に物語が展開。その後1976年に製作されたリメイク版では、主演のバーブラ・ストライサンドとクリス・クリストファーソンの実像に合わせて、舞台設定が音楽業界に変更された、この永遠の名作『スター誕生』。

スター誕生(字幕版)



今回主演にレディー・ガガを迎えたことで、1976年のリメイク版と同様、音楽業界を舞台に男女の恋愛物語と、歌手としての栄光や挫折が本作でも描かれている。

元々が1937年の作品のリメイク版だけに、実はネットのレビューにも、「始まってすぐに先の展開が読めた」などの意見が並ぶ本作。

確かにストーリーは古典的だが、愛のために自身のキャリアや成功を犠牲に出来るのか? や、真実の愛は富や名声に左右されるのか? など、時代を超えて人々の心を打つ普遍的な内容であるのも事実。

そう、お互いの社会的地位が逆転した時に、真の愛情が試されるという本作のストーリーこそ、正に恋愛ドラマにおける王道の展開なのだ!



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しかも後述する様に、今回は女性向けの恋愛映画としてではなく、男性観客も充分に感情移入出来る内容に仕上がっている本作。

涙と感動の古典的ラブストーリーが、果たしてどんなアレンジで現代に蘇ったのか? その内容は是非劇場で!

アラフォー以上の映画ファンには懐かしい、あの俳優が出演!



少ない出演シーンながら本作で印象に残るのが、アリーの父親・ロレンツォの存在だ。

アリーの才能に対する良き理解者であるロレンツォ。実は本作鑑賞中、ずっと「この人はどこかで見た顔だな?」そう思いながら観ていたのだが、終盤でやっと「あ、アンドリュー・ダイス・クレイだ!」と思い出した次第。

そう、アラフォー以上の世代にとっては、主演作『フォード・フェアレーンの冒険』が日本でも歴史的大コケに終わり、更に女性蔑視の発言が大炎上を招いてしまったため、その後のキャリアを棒に振ってしまった伝説のコメディアン、アンドリュー・ダイス・クレイの名前をきっと憶えておいでだと思う。

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幸いなことに、最近ではウディ・アレン監督の映画、『ブルージャスミン』にも出演するなど、名脇役として再び脚光を浴びている、アンドリュー・ダイス・クレイ。昔の攻撃的な芸風やアクの強さはすっかり消え、娘を想う良き父親を見事に演じた現在の彼の姿は必見です!

実はブラッドリー・クーパーのカッコよさを愛でる映画だった!



今回、初監督だけでなく、製作・脚本にも参加しているブラッドリー・クーパー。しかも楽曲を自ら歌うという熱の入れ方には驚かされた。

実際、冒頭のライブシーンの迫力は、『ボヘミアン・ラプソディ』を思い出してしまうほど!

もちろん、『ボヘミアン・ラプソディ』とは一味違って、本作ではステージの裏側から撮影するなど、観客が演者と一緒にステージに上がっている様な臨場感が味わえるのが見事過ぎる!



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実は今回、予告編や宣伝文句の通りレディー・ガガ演じるアリーの歌と恋愛が見所の映画と思って、鑑賞に臨んだ本作。

ところが、映画の冒頭で披露されるジャックの迫力のライブシーンや、その後もアリーの成功の物語と同時に、ジャックの過去や苦悩の物語がほぼ同じ分量で描かれていくのを見て、実は今回のリメイク版がジャック側の物語であることに、次第に気付かされることになった。

実は過去の『スター誕生』においては、恋人と自分の人気やキャリアが逆転していく辛さから、男の方が酒に溺れて自滅していく、という設定となっていた。

だが、今回のリメイク版が素晴らしいのは、ジャックが酒とドラッグに溺れていることに対しての理由が、ちゃんと設定されている点だろう。

実際この秀逸なアレンジにより、ジャックが単なる酒びたりのトラブルメーカーではなく、自身の秘密とキャリアの終焉に怯えながら、それでもアリーを愛し続ける男として描かれることになるのだ。



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アリーへの愛と彼女が築いたキャリアを守るために、最終的にジャックが選択したものとは何か?

過去のリメイク作品とは違う、現代にも通じる愛の名作として見事に蘇った今回の『スター誕生』。

本作を女性向けの感動ラブストーリーと思って、鑑賞を躊躇されている男性の方には、是非心配しないで劇場に足を運んで頂きたい。

迫り来るその日に怯えながら、それでもステージに立ち続ける男の姿が、きっと『クリード』級の感動を呼ぶはずだ。

最後に



前述した通り、始まってすぐ展開が読めるとの声がネットのレビューでも多かった本作。

だが、ブラッドリー・クーパー自身も加わった今回の脚本は、現代社会に合わせたアレンジや非常に細かい心理描写など、現在でも充分通用する内容になっていて、実に見事なのだ。



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例えば、今回非常に印象に残ったのが、リハビリ施設で初めて自分の弱さや本音を語り、涙を見せるジャックに対して、アリーが見せる冷たい反応の描写だった。

それは例えるなら、身も心もボロボロでもう走れない状態の人間に、私と一緒にレースに出てまた走りましょう、と言ってしまうのと同じことなのだ。

劇中のセリフにもある通り、荒波の中を航海してきたジャックが、初めて自分の心の内と弱さをさらけ出し、自分にとっての港をアリーに求めたのに対して、それを許さず「自分と一緒にまた航海に出ましょう」、そう告げられたジャックの心の内はどれほどのものだっただろうか。

今やスターの座にいるアリーが、知らない内に昔とは違ってしまっていることを、見事に表現したこのシーン。

こうした細かな心理描写に注意して観ると、今回のリメイク版が実はジャック側の物語でもあることが、次第に分かってくると思う。

実際、アリーの恋愛物語としては盛り上がりに欠ける、という意見もネットには多かった本作だが、その様な意見を持たれた方は、是非ジャックの方に注目して再度鑑賞してみてはいかがだろうか?

実は今回、予想外に男の生き様と美意識が観客の胸を打つ内容となっている、この『スター誕生』。

アリーの幸せを願うジャックの行動に、果たしてあなたは共感出来るか?

男の器の深さが試される本作、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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