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『風の谷のナウシカ』を深く読み解く「5つ」の事実

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4:宮崎駿がアニメ映画版につけた点数は“65点”!
“宗教的に見える結末”に悩んでいた?



実は、宮崎駿監督本人はアニメ映画版の『風の谷のナウシカ』を高く評価しておらず、新聞のインタビューでは “65点”という厳しい自己採点をしているという事実があります。その大きな理由はラストにあり、「ナウシカが蘇るところ、その場面に今でもこだわっていて、まだ終わった感じがしない」「(自己犠牲で命を投げ打って死んでしまった)ナウシカが王蟲に持ち上げられて朝の光で金色に染まると宗教絵画になっちゃう、あれ以外の方法はなかったのかとずっと考えている」というものであったのだとか。

実は、初めに宮崎駿が考えていたアニメ映画版のラストは「空から飛んできたナウシカが王蟲の大群の前に降り立って、暴走していた群れが止まって、エンドマーク」だったのですが、この終わり方はないだろうと鈴木敏夫と高畑勲は喫茶店で8時間ほども話し合ったのだそうです。結果的に「娯楽映画として感動させるなら主人公が蘇るべきだろう」と案が宮崎駿に持ちかけられ、それが採用されたのだとか。



このアニメ映画版の“宗教的にも見える結末”を宮崎駿が気に入っていなかったことが、後に11年をかけて完結することになるマンガ版に反映……というよりも、宮崎駿を大いに悩ますことになります。

どういうことかと言うと、宮崎駿自身は映画が公開された後のマンガの執筆において、「僕自身が宗教的な領域にどっぷりと浸ってしまって、“これはヤバい”と深刻に追い詰められた」「マンガのナウシカの困惑は僕の困惑でもあるんです」などとも語っており、実際のマンガの内容も生命や人間とは何か、ほぼ神のようなものまでに言及した内容になっていくのです。つまり、アニメ版の宗教的に見える結末に満足をしていなかったはずの宮崎駿が、後のマンガ版では意図せずに宗教的な内容を描かざるを得なくなったという、何とも矛盾した製作過程があったのです。



さらに、宮崎駿は「映画は風呂敷を広げてそれを閉じてみせる必要があるから、それ以上はやれない。映画でやるのはそこまでと決めていたけど、自分の中でにその枠では収まらないモヤモヤが多すぎて、整理がつかないんです」とも語っています。

そして、宮崎駿はマンガ版の製作を「ずっと描くのをやめたかった」などとインタビューで答えていたにも関わらず、国民的アニメ作家となりスタジオでのアニメの仕事で手いっぱいになっていても、結局は寝る間を惜しんででも描き続けていたそうです。

映画のその先を描くマンガ版を、その後に11年もかけて完結させることができたのは、映画の枠では収まらなかったモヤモヤに決着をつけるため、そのラストが納得できなかったから自分の手で決着をつけたいという、宮崎駿の“意地”でもあるでしょう。

5:宮崎駿監督の作家性にある“矛盾”とは?



マンガ版『風の谷のナウシカ』において、宮崎駿の中で矛盾するような製作過程があったと前述しましたが、この“自身の中での矛盾を作品内で問い直そうとする”こともまた、宮崎駿の重要な作家性と言えます。

その宮崎駿の中にある矛盾で最もわかりやすいのは、「兵器は大好きであるのに、戦争は批判している」ということでしょう。例えば『紅の豚』では多数の戦闘機を登場させながらも殺人も戦争も良しとはしない主人公を追い、後の『風立ちぬ』ではまさに戦闘機の設計者を主人公にした上で戦争の無残さを訴えていたりもするのですから。そもそもの“ジブリ”というスタジオ名も、第二次大戦中にイタリアが用いた軍用の爆撃機から取られています。



『風の谷のナウシカ』においても戦車や軍用機が登場しており、やはり兵器への偏愛と戦争への批判という矛盾したものが同居していることはもちろん、そのマンガ版ではさらに宗教的な考えについての矛盾を、宮崎駿は問い直そうとしていたのではないでしょうか。

映画版しか観たことがないという方は、ぜひマンガ版も読んでみてほしいです。映画では描かれなかったキャラクターの顛末、世界の成り立ちについての衝撃的な事実などもありますし、何より宮崎駿の中にある矛盾および作家性について新たな見識も得ることができるでしょうから。簡単に語ることは決してできない多重性と奥深さを持つ物語が展開しており、『風の谷のナウシカ』のさらなる魅力を発見できることは、間違いありません。

参考図書:ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ(文春ジブリ文庫)

(文:ヒナタカ)

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