『映画 めんたいぴりり』は、戦後昭和の博多を笑いと涙で活写する人間讃歌!



(C)2019めんたいぴりり製作委員会 



最近、地方発の映画やドラマ、演劇などが話題になることが増えてきています。

本作『映画めんたいぴりり』もそのひとつで、タイトルからご想像がつくように、日本で初めて明太子を製造&販売し、博多名物として世に広めた福岡・博多「ふくや」創業者の川原俊夫をモデルにしたものですが(ちなみに劇中では「ふくのや」の海野俊之)……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街356》

これが実にコミカルで味わい深い、厳しくも温かな人間讃歌の快作に仕上がっているのでした!

博多明太子を開発した男と
その周囲の人々の秀逸な人情劇



『映画めんたいぴりり』の時代背景は昭和30年代。

戦時中、日本の統治下にあった朝鮮半島・釜山で生まれ育った海野俊之(博多華丸)は、戦後最大の引き上げ港でもあった福岡に移り住み、焼け跡となっていた中洲の一角に小さな食料店「ふくのや」を開業し、妻の千代子(富田靖子)とともに営んでいます。

もっとも、「与えた恩は水に流せ、受けた恩は石に刻め」を座右の銘にしている俊之は、困っている人を見ると何かと世話を焼きたがるお人よしで、しかしそれゆえに貧乏ながらも周囲の人に慕われています。

そんな彼が日々作り続けているのが明太子。

幼い頃に釜山で親しみ続けた明卵漬(ミョンランジョ)をヒントに明太子を開発し、改良を続ける彼ですが、味のほうはまだまだ万民に受け入れられるところまで達しておらず、時にへこむこともありますが、まあ基本的には明るく楽しい愛すべきオヤジであります……。

本作はそんな俊之と周囲の人々が織りなす集団劇を基調としており、明太子が世に広まっていく過程なども多少は描かれますが、だからといって決して肩ひじ張った立身出世ものの域に陥ることなく、あくまでも涙と笑いの人情あふれる群像劇として屹立させながら、戦後昭和のヴァイタリティを活写させているのが大きな魅力なのです。



(C)2019めんたいぴりり製作委員会 




福岡県人大挙出演!
才人監督の見事な手腕



実はこの作品、2013年にテレビ西日本で、地方局には珍しい連続ドラマとして放送されて地元福岡で人気を博し、日本民間放送連盟賞優秀賞やATP賞ドラマ部門奨励賞、ギャラクシー賞奨励賞を受賞。2015年には続編『めんたいぴりり2』が作られ、さらには同年『めんたいぴりり~博多座版~』として舞台化もされています。

つまりは福岡で知らぬ者はないと言っても過言ではないほどのご当地人気作であり、その勢いを日本全国に知らしめようと作られたのが、今回の劇場版なのでした。

主演の博多華丸と富田靖子はTV版からの登板で、実に息の合った夫婦を好演。

せっかく作った明太子の味を他人に盗まれても怒りもせず(実際、モデルの川原俊夫は明太子に関して商標登録も製造法特許も取得せず、地元の人々に進んで製造法を教えていったことで、後々博多名物として定着していくのでした)、しかしかつてはこういうオヤジはいっぱいいたよなと思わせる博多華丸。

かたや、そんなおひとよし亭主を気丈に支え続ける富田靖子の肝っ玉母さんぶりも頼もしく、また彼女が当時福岡を拠点にしていたプロ野球・西鉄ライオンズの稲尾選手の大ファンであるという微笑ましいエピソードのオチも実にパンチが利いています。

またこのふたりをはじめ、本作は田中健やでんでん、吉本実憂など福岡県出身の俳優が大挙出演し、故郷にエールを送っているあたりも、ひとつのパワーと成り得ています。

ちなみに博多華丸が主演となると、相方の博多大吉は? これがもう実に素敵な役回りで大いに見る者の笑いを誘ってくれています(TV版を見ている方なら、すっかりおなじみのキャラとのこと。正直そちらも見てみたい!)

監督も、福岡出身で地元を拠点に映像制作に勤しみ続ける江口カンが、TV版に続いて登板。

堕落した元野球選手が競輪選手として再起をかける熱い快作TVドラマ『ガチ★星』(16)を再構築した劇場版『ガチ★星』が2018年に劇場公開されて大いに話題を集めるなど、この監督の名前は今後のためにも覚えておいたほうがいいでしょう。

本作に関して注目すべきは、やはりバイタリティあふれるキャラクターたちを見事に交通整理しながら、戦後昭和の貧富の差などの光も影もさりげなく描かれていることで、「ふくのや」内外のセットに美術の焦点を絞って、せせこましくもにぎわっていた昭和を見事に体感させてくれるのも潔いところです。

単にあの時代をノスタルジックに描くのではなく、ご立派な偉人伝に仕立てるのでもなく、笑いと涙といった定番ともいえる人情の要素を堂々と前面に打ち出しながら、今の時代に欠けている何かを訴える演出姿勢にも大いに共感するところ。

決して大きな作品ではありませんが、国の内外の超大作公開ラッシュの狭間の中、こういった珠玉作にも注目していただけたら幸いです。

(文:増當竜也)

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