映画コラム
『僕はイエス様が嫌い』が示唆する日本インディーズ映画の更なる飛躍!
『僕はイエス様が嫌い』が示唆する日本インディーズ映画の更なる飛躍!
(C)2019 閉会宣言
先月AIによる犯罪の裁判を描いた『センターライン』を紹介したときにも感じたことですが、日本のインディペンデント映画がどんどん面白いことになってきています。
それにはデジタル時代の幕開けとともにみんなが自由に映画制作できるようになったことなど、さまざまな理由が挙げられますが、やはり最終的には作る側の才気であり情熱がモノをいうことは間違いありません。
今回ご紹介する『僕はイエス様が嫌い』も、既に海外の映画祭で絶賛されての日本凱旋を兼ねるかのように初公開される作品ですが……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街383》
監督は何と現在23歳の若手・奥山大史。また新たな才能の誕生です!
少年の前に現れた
小さなイエス様
映画『僕はイエス様が嫌い』は、東京から雪深い地方に引っ越し、ミッション系の小学校に転校してきた少年ユラ(佐藤結良)の物語です。
慣れない礼拝をはじめ、これまでとは異なる学校生活に戸惑いを隠せないユラの前に、あるとき突然小さいイエス様(チャド・マレーン)が現れます。
そのイエス様は、どうやらユラにしか見えてないようなのですが、どうやら願い事を叶えてくれるみたいでもあります。
まもなくしてユラにも友達ができました。クラスの人気者で活発な少年・和馬(大熊理樹)です。
ユラと和馬はどんどん仲良くなっていきますが、そんなある日、事件が……。
本作は実際にミッション系の小学校に通っていた奥山監督が当時体験したエピソードを基に企画された作品で、大学時代から映像制作に携わり、商業CMのカメラマンとしても活躍していた彼が大学の卒業制作映画として取り組んだもの。
もっとも卒業までに完成はならず、広告代理店に就職しながらコツコツと作業を進め、2018年の夏にようやく完成。
作品はスペインのサンセバスチャン国際映画祭に出品され、そこで最優秀新人監督賞を史上最年少(当時は22歳)で受賞。
さらにはスウェーデンノストックホルム国際映画祭で最優秀撮影賞を、中国のマカオ国際映画祭でスペシャルメンションと、立て続けに受賞。
こうした快挙が国内にも伝わり、5月31日よりTOHOシネマズ日比谷ほかで全国順次公開が決定したのでした!
幼く傷つきやすい
少年の心を繊細に活写
本作は先に述べたように、雪深い冬の日々を過ごす少年の繊細な想いをファンタジックな情緒を交えながら切々と訴えていく作品です。
特に少年の前に現れるコップのフチ子さんくらいの大きさのイエス様のユーモラスな風情が印象的ですが、その扱いが敬虔なクリスチャンの多い海外でどうみなされるか、奥山監督自身も不安があったそうで(もともと海外出品のことなど考えることなく制作していたとのこと)、しかし実際はとても好意的に迎えられたとのこと。
つまりは「信じているからこそ、嫌いにもなれるのでしょう」といったところでのシンパシーです。
実際、ここでのイエス様は少年の孤独で寂しい心情から作り上げられた幻影だったのかもしれませんし、本当に存在していたのかもしれません。
しかし、いずれにしても幼く傷つきやすい少年の心理は、元男の子であった身としては(もちろん元女の子でもOK)、どこかノスタルジックで切ない、あの頃の感情を蘇らせてくれるものがあります。
撮影も監督自身が担当していますが、白い雪の中に白い鶏を置くなど、ハレーションを利かせた映像の数々が、どこか曖昧ながらも白々とした脳裏に残っている幼い日の記憶というものを思い起こさせてくれています。
一方でひとつひとつのショットの確実な切り取り方は、正直、現23歳という若さを感じさせないほどプロフェッショナルな貫禄すら感じさせられます。
ふたりの少年の好演も見逃せないところですが、全体的な演出のタッチは是枝裕和監督作品同様、プロアマ問わずに演技をさせず自然な魅力を醸し出させる秀逸な力量を感じさせます。
今後、この監督がどこまで飛躍するかを見守る上でも、日本映画界そのものの今後の向上を占う上でも、これはぜひその目でご覧になっていただきたい逸品です。
メジャーやマイナーを問わず、大作もインディーズも問わず、日本映画は本当に面白いことになってきました!
(文:増當竜也)
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