『惡の華』は、玉城ティナにいじめられたい人が続出すること必至のドS快作!
©押見修造/講談社 ©2019映画『惡の華』製作委員会
『スイート・プールサイド』(14)『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(18)と、押見修造・原作漫画の映画化は今のところ外れなしで、それどころか思春期特有の青春の痛みや恥ずかしさ、切なさなどを瑞々しいフェティシズムなどを交えて描出した、実にリアルで観る者を共感させ得る優れものになっているとこちらは確信しております。
そんな押見原作がまたまた映画化されました。
しかも監督が井口昇、脚本が岡田磨里という異色の組み合わせ。今回はいかなる化学反応を起こすのかと思いきや……
《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街409》
その成果は、2019年の日本映画の中でもトップに位置する屈指のクオリティと感動を伴う本作=『惡の華』をじかにご覧になって確認してみてください!
可愛いあの子の体操着を
盗んだ少年の罪と罰!?
『惡の華』の主人公は、とある地方都市に住む中学2年生の春日高男(伊藤健太郎)。
一見どこにでもいそうな普通キャラを装いつつ、ボードレールの詩集『惡の華』を愛読書とする一面も持ち合わせている彼ですが、ある日の放課後、ひそかに憧れを抱くクラスメイト佐伯奈々子(秋田汐梨)が教室に置き忘れていた体操着を思わず盗んで家に持って帰ってしまいます。
その翌日、春日はクラスの問題児・仲村佐和(玉城ティナ)に呼び止められ、こう告げられました。
「私、見てたんだよ。春日君が佐伯さんの体操着盗んだところ……」
©押見修造/講談社 ©2019映画『惡の華』製作委員会
このときから春日は仲村の奴隷と化し、残酷で甘美で数奇な運命を辿っていくのですが……。
ことあるごとに仲村から「クソムシ」と罵られ、思春期の少年としてあまりにもむごい性的な無理難題をふっかけられまくり、次第に心がボロボロになっていく春日。
しかし同時に、彼の心の奥底に眠っていた“惡の華”が徐々に呼び起こされていくあたりが圧巻。
このドス黒くも変態チックでフェチズムに満ちた“惡の華”、実は誰でも持ち合わせているものなのですが、そのことを否定するのではなく、むしろ肯定……いや決して他人には言えない恥ずかしくも邪悪に思われがちな心の中の葛藤を直視していくことの切なさこそが本作の秀逸な着眼点であり、それを裏付ける見事な描出がここでは華開いているのです。
©押見修造/講談社 ©2019映画『惡の華』製作委員会
誰の心にもある“惡の華”を
体現するために集結した面々
本作の井口昇監督はこれまで『恋する幼虫』(03)『猫目小僧』(05)『片腕マシンガンガール』(07)『電人ザボーガー』(11)『ヌイグルマーZ』(14)『ゴーストスクワッド』(18)など、どんなジャンルの作品であれフェティッシュな要素を盛り込みつつ、他の誰にも真似できない“映画作家”的スタンスのものへと強引なまでに押し上げていく異能の人ではありますが、今回はそんな彼だからこそ描け得た秀逸な青春映画であり、優れた人間讃歌に成り得ています。
もともと自主映画出身の彼ですが、今回は『クルシメさん』など初期作品のノリを彷彿させるものもあります。
脚本の岡田磨里は『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(TV版は11年・映画版は13年)や『心が叫びたがってるんだ』(15)『空の青さを知る人よ』(19)などで現代の若者たちの心をぐっと掴んだ青春アニメ快作の脚本を一手に担う才人ですが、その多くは自身の犯した過ちの後悔の念やそれに伴うコンプレックスなどが思春期特有の過剰な想い込みによって痛みを増幅させつつ、その発露によってカタルシスを得るというもので、だからこそ今回の押見原作を脚色するに足る貴重な存在ともいえるかもしれません。
キャストは主演の伊藤健太郎は同性からすると、いつかどこかで自分も体験したことがあるような、そんな青春の痛みに心の中は悶絶していくこと必至(逆に女性が彼をどう見るか、非常に興味あるところです)。
©押見修造/講談社 ©2019映画『惡の華』製作委員会
またやはり特筆すべきはヒロイン仲村役の玉城ティナで、変わり者でサディスティックなメフィスト的役割をここでは見事に担いつつ、それゆえの不可思議な美しさまでも体現。
©押見修造/講談社 ©2019映画『惡の華』製作委員会
上映中、彼女の猛威に震えつつ、その実「自分も彼女に翻弄されたい……」心の中で悶絶打ちながら見てしまう人はかなりの数いるころでしょう!
そもそもキラキラ映画でも『PとJK』(17)『ういらぶ』(18)みたいな王道系から『暗黒女子』(17)のようなダーク系、そして初主演作『わたしに××しなさい!』(18)みたいにS的要素を可愛く醸し出すことに長けるなど、多彩なジャンルの作品を渡り歩いてきた彼女、今年も『Dinner』と本作、そして『地獄少女』(11月公開)と公開作は後を絶ちませんが、特に本作は今の彼女の代表作として屹立し語り継がれていくことでしょう。
仲村の放つ毒の数々によって感化されていく主人公のあおりを受けて、前半は秋田汐梨、後半は飯豊まりえと、一見清純派を装う美少女たちまでも“悪の華”に翻弄されていくあたりも秀逸。特に秋田汐梨は井口監督が「佐伯を演じられるのは彼女しかいない!」と猛プッシュしただけのことはある好演でした。
一見アブノーマルなものが、それゆえに描出し得る人間の真実みたいなものを思春期の瑞々しさと毒々しさの双方を絡ませながら見事に描出し得た、まさに2019年度を代表する1本。
これはマジに見逃し厳禁です!
(文:増當竜也)
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