『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』と同じ時代の庶民を描いた映画たち
21世紀に蘇った奇跡の
原爆映画『ひろしま』
『この世界の片隅に』の舞台となった戦時下の広島といえば、やはりどうしても原爆の惨禍が心をよぎってしまいます。
戦後、日本映画は今に至るまで原爆を題材とする数多くの映画を世に発表していますし、これからもそうでしょう。
そうした流れの中、現在ある原爆映画に注目が集まっています。
戦後初の本格的戦場反戦映画『日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声』(50)で知られる関川秀雄監督が1953年に手掛けた『ひろしま』です。
ずばり広島原爆投下の惨劇をまざまざと描いたもので、撮影に際しては広島市民が何と8万5000人もの広島市民がエキストラで参加。日本映画の枠を超えるどころか、海外でもあまり例を見ない超大作としての体裁で、しかも実際に原爆を被災した人々が多数撮影に参加していることで、原爆投下直後の阿鼻叫喚の地獄が壮絶に再現。そこに伊福部昭の荘厳なレクイエム曲が奏でられていくことで、観客はただただ呆然となるのみ。
また本作は戦後を描いた後半、原爆を浴びた人々にふりかぶる差別であったり、もう原爆のことなど考えたくもないといった苦悩の想いまでもリアルに描出していきますが、それらを見るにつけ、3・11福島原発事故以後の日本の実態とも大いにダブるという現実に慄然とさせられます。
さて、こうした秀作の映画『ひろしま』ですが、当時は反米色が強いとして数か所のカットを要求した配給元の松竹と製作元が対立したことで、結果として自主配給せざるをえなくなり、小規模の興行に終始。以後も長らく上映される機会のない幻の映画となっていましたが、21世紀に入って再評価がなされようになり、フィルムの劣化を防止すべくデジタル化が実現。2019年の夏にはNHKEテレで特番及び本編の地上波テレビ初放送もなされました。DVDも出ていますので、ぜひ一度ご覧いただきたい作品です。
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