『初恋』キャスト陣の熱演・怪演が凄い!「3つ」の見どころ!



©2020「初恋」製作委員会



三池崇史監督の待望の新作映画『初恋』が、ついに2月28日から劇場公開された。

個性的な出演キャスト陣と、『初恋』という静かでシンプルなタイトルの組み合わせからも、三池監督の自信や意欲が伝わってくるような本作。

ただ、タイトルからは内容が予想しにくいためか、果たして観に行って大丈夫なのか? そんな不安を抱いて鑑賞を躊躇されている方の書き込みが、ネット上に散見できたのも事実。

気になるその内容と出来は、果たしてどのようなものだったのか?

ストーリー


天涯孤独のプロボクサー・葛城レオ(窪田正孝)は、KO負けした試合の後に受けた診察で、腫瘍に冒されて余命わずかであることを告げられた。
呆然として街を彷徨うレオは、偶然に出会ったモニカ(小西桜子)と名乗る少女を、追って来る男から助ける。だが、倒した男は刑事の大伴(大森南朋)で、ヤクザの加瀬(染谷将太)と組んで組織の麻薬を横取りする計画のため、モニカを利用しようとしていたのだった。
刑期を終えて出所したばかりの権藤(内野聖陽)は、一連の事件を敵対するチャイニーズマフィアの仕業とにらみ、組の核弾頭・市川(村上淳)らと復讐に乗り出す。恋人で組員のヤス(三浦貴大)を殺されたジュリ(ベッキー)も、それに続いた。
ヤクザと悪徳刑事にチャイニーズマフィア。ならず者たちの争いに巻き込まれた孤独なレオとモニカが行きつく先に待ち受けるものとは……。欲望がぶつかりあう人生で最も濃密な一夜が幕を開けた!


予告編




見どころ1:期待を裏切らない内容が凄い!



大量の麻薬を巡るヤクザ組織内の裏切りや、チャイニーズマフィアとの因縁の対決に、親の愛情や暖かい家庭を知らずに育った男女の純愛ストーリーが絡むという、まさに盛りだくさんの内容に仕上がっている本作。

とにかく、これだけ多くの登場人物が次々に登場し、それぞれが自分の欲望や復讐のために立ち回る展開なので、一歩間違えれば交通整理が上手くいかず、観客がストーリーを見失ってしまいかねない。

ところが本作では、各登場人物の行動が連鎖的に交錯していくことで、次第にレオとモニカが事件の真っ只中に巻き込まれていく展開に説得力が生まれ、ついに全員が一堂に会して、ラストの大バトルロイヤルを迎えることになるのだ。



©2020「初恋」製作委員会



しかも、これだけバラエティに富んだ内容でありながら、キャラの立った魅力的な登場人物たちと、それを演じる出演キャスト陣の熱演・怪演により、最後まで観客を惹きつけて放さないのは見事!

特に、己の欲望や復讐のために壮絶な殺し合いを繰り広げる人々の中にあって、ある重大な真実を知ったレオが、死への恐怖に襲われながらモニカを守って立ち向かう姿と、それを受けてついに父親の幻影を跳ね除けるモニカの成長には、この一夜の騒動が二人に与えた意味の大きさがよく表れている、そう感じた次第。

更に、二人の純粋さに心を動かされ、最後に人としての良心に従って行動するのが、内野聖陽演じる権藤と、藤岡麻美演じるチャイニーズマフィアの女殺し屋という、日本人が失った"義理人情"を重んじるキャラクターである点も、観客の共感を生む上で実に上手いのだ。



©2020「初恋」製作委員会



後述するような、女優陣のキレた演技も見ものだが、染谷将太が瀕死の状態から見せる意表を突く演技や、モニカだけに見える幻覚として登場する父親を、これも予想を超えた演技で見事に演じる山中アラタなど、ギリギリのバランスを保って盛り込まれる"笑い"の要素が見事にハマっている点も、本作がエンタメ作品として成功した大きな要因と言えるだろう。

強烈な個性の登場人物による、現実離れした一夜の大騒動が、最終的に純愛ラブストーリーへと着地する、その見事な脚本と演出を、ぜひ劇場で味わって頂ければと思う。

見どころ2:実は真の主役である、女優陣が凄い!



強烈な悪役を演じながら、どこか気を抜いて演じているように見える染谷将太や、それとは対照的に昔ながらの義理人情に厚いやくざ者を演じる内野聖陽など、どこかコミカルな部分を残しながらも、それぞれの目的のために壮絶な殺し合いを繰り広げる男優陣の存在感と演技は、本作の大きな魅力となっている。



©2020「初恋」製作委員会



個人的に印象に残ったのは、染谷将太演じる加瀬の裏切りに気づきながら、実は自身もチャイニーズマフィアと繋がっていて、麻薬を横取りしようと画策する城島を演じた、出合正幸の変貌っぷりだった。

戦隊シリーズ『轟轟戦隊ボウケンジャー』のボウケンシルバー役や、『仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ』のトリガー・ドーパント役などで見せた、特撮ヒーロー作品のイメージを大きく覆し、パンチパーマに細い眉で不気味なやくざを演じるその姿には、本作にかける熱意を感じずにはいられなかった。

こうした男優陣の演技以上に観客の心を掴んで離さないのが、女性キャスト陣の素晴らしい演技だろう。

特に、前途有望なボクサーだったレオを、とんでもない事態に巻き込む少女モニカを演じる小西桜子の存在は必見!

本格的な演技経験が無いにも関わらず、今回3000人の中からオーディションで選ばれたその実力は、個性的な出演キャスト陣の中においても確実に光っているのだ。



©2020「初恋」製作委員会



実の父親の影に怯え、周囲の状況に流されるままでいた不幸な少女の姿から、ラストで彼女が見せる、もう一度人生をやり直すための戦いに身を投じた姿のギャップは、きっと多くの観客に「これは今後の活躍が楽しみだ!」、そんな期待を抱かせるはず。

実際、5月に公開される話題の実写版映画『映像研には手を出すな!』にも、彼女は生徒会長役で出演しているので、本作とは全く違う役柄をどう演じるのか?ぜひ期待したいところだ。

更に、恋人で組員のヤスが殺され、自分も命を狙われたことで犯人への復讐に燃える女、ジュリを鬼気迫る迫力で演じるベッキーも凄い!

文字通り"バールのようなもの"を武器に、どこまでも執念深く犯人を追いかけるその姿は、まさにターミネーターかホラー映画の殺人鬼としか言いようが無いほど。



©2020「初恋」製作委員会



加えて、チャイニーズマフィア側の女殺し屋として登場する藤岡麻美も、脇役ながら日本人以上に義理人情を重んじるそのキャラクターとヒーロー性で、観客の記憶に残る名演技を見せてくれるので要注意!

実はディーン・フジオカの妹でもある彼女だが、ある世代以上の観客には、アイドルグループ「チェキッ娘」の元メンバーといった方が分かりやすいはず。

日本での活動後は台湾に活動の場を移し、アクション女優としても活躍していただけに、本作で見せる華麗なアクションと中国語のセリフは絶品と言うしかない。

敵側の殺し屋ながら、ラストで主人公たち二人と絡む重要な役どころなので、ぜひ彼女の演技にも注目して頂ければと思う。

個人的には、本当にワンシーンのみの登場ながら、見事にその場の笑いをさらう名演を見せる、酔っぱらいの看護士・みゆきを演じた矢島舞美の存在が気になった、そう言っておこう。

やくざやチャイニーズマフィア、それに悪徳警官といった、個性派揃いの男性キャスト陣をねじ伏せるような、女性キャストの迫力あふれる演技が堪能できる、この『初恋』。

普段アクション映画に馴染みのない女性の方にこそ、ぜひ観て頂きたい作品です!

見どころ3:タイトルの『初恋』に込められた意味とは?



非常にシンプルだが、本作のテーマを的確に表現した『初恋』という名タイトル。

その真の意味が明らかになるラストの展開は、それまでの激しい殺し合いと好対照に、静かな感動を観客に与えるものとなっている。



©2020「初恋」製作委員会



それがよく表現されているのが、終盤に用意されたモニカと竜司の再会シーンだ。

実の父親に虐待されていたモニカをかばってくれた、唯一の見方である同級生の竜司の存在。初恋の相手だった竜司との再会を果たしたモニカが目にしたのは、もしかしたら自分が手にしていたかもしれない、絵に描いたような恋人達の幸せな姿だった。

それは彼女にとっての初恋が終わりを告げたことを意味すると同時に、悲しく辛い過去に囚われていた彼女が、新たな人生への一歩を踏み出すための、一種の起爆材の役割を果たすことになる。

加えて、「最後に出会った、最初の恋」という宣伝コピーのように、死を覚悟した危機を一緒に乗り越えたモニカとレオの二人が、ついに本当の恋にめぐり合うための最後の儀式として、竜司との再会が用意されている点も、実に上手いのだ。

この点を踏まえて映画を観ると、ロングショットで撮影されたラストの二人の姿が、モニカが再会した竜司の平凡だが幸せそうな様子と見事に重なっていることが、よくお分かり頂けるはずだ。

心の拠り所としていた初恋の思い出に別れを告げ、人生をやりなおすための戦いを選んだモニカの力強い姿に続く、それまでのテンションの高い内容と一転した静かなエンディングの素晴らしさは、やはり三池崇史監督の演出力があってこそ!

観客の心に深い余韻を残すそのラストシーンは、ぜひ劇場で!

最後に



こういう素晴らしい作品に出会えるからこそ、三池崇史監督の映画を観るのは止められない! きっと多くの方が、そんな感想を持たれたのではないだろうか。

実際、いつものバイオレンスにアクションだけでなく、青春映画や恋愛映画をも取り込んで、アニメーションまでも登場するその内容には、正直圧倒されると共に、この詰め込んだ内容に負けない出演キャストをよく集めたものだ、そう思わずにはいられなかった。

加えて、それまでの壮絶な殺し合いが嘘のように感じられる、非常に抑制の効いたエンディングには、普段アクションやバイオレンス映画に馴染みの無い女性の方にこそぜひ観て頂きたい! そう感じたのも事実。

「そうは言っても、三池監督の映画には当たり外れがあるから…」。

そんな理由で劇場での鑑賞を躊躇されている方にこそ、何の心配も無く劇場に駆けつけて頂きたい傑作なので、全力でオススメします!

(文:滝口アキラ)

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