まるでジャイアンとのび太…カンヌ受賞の『ドッグマン』は終始ドキドキモヤモヤする傑作
どうも、橋本淳です。
56回目の更新、今回もどうぞよろしくお願いいたします。
いま、自分に出来ることと言ったら、罹らないこと広げないこと。ということで、巣篭もり生活を続けています。
こんなにも長い時間を自宅で過ごすことももちろん今までなく、当初は耐えられるかと不安もありましたが、家事に専念した結果、こんなにも綺麗な自宅になり、暮らしやすい家になったことは結果オーライなのかしら、とモノが減った自宅にて、コトコトと思います。
家事に集中していると、1日なんてあっという間に過ぎて、なんだか忙しい。起きてから寝るまでにやることが多い。今日の献立を考えて、買い物に行って、作って、食べて、片づけて、と食事のことだけでも工程が多い。様々な家事を全てこなしている、主婦や主夫の皆さまには本当に頭が下がります。
家事に追われながらも、私は1日1タイトル以上の作品を鑑賞することを自分に律して、生活しています。
これがまぁ、いいなと。目標があると、やるべきことを効率的に回し、時間を作る。その時間で楽しみを得る。単調になりがちな生活に、メリハリがつき、自宅にいながらも刺激を感じる。(ある犬の動画で、さらに癒され)
最近観た中で、特におすすめしたい作品を今回、ご紹介。
昨年、映画館での鑑賞は逃してしまったのですが、レンタルが開始したため、Amazonプライム・ビデオでネットレンタルしました。
『ドッグマン』
イタリアのさびれた港町。そこで犬のトリミングサロン"DOGMAN"を営むマルチェロ(マルチェロ・フォンテ)は、細々としながらも小さな幸せを感じながら日々生活していた。妻とは離婚してしまったが関係性はよく、最愛の娘とは頻繁に会えるし、なにより大好きな犬と関わる仕事は天職のよう。
小さな町だが、仲間たちともサッカーをしたり、共に食事をしたりと幸せな日々を過ごしている。ただひとつ気掛かりなことは、暴力的な友人シモーネ(エドアルド・パッシェ)だった。シモーナが空き巣に入るときに、無理矢理マルチェロを運転手に使ったり、コカインをマルチェロから買ったにも関わらず未払いだったりと、マルチェロをいいように使っていた。小心者で優しいマルチェロは、思うところはあるようだが、支配される関係図は変わらないでいた。
問題を起こし続けるシモーネに、町の仲間たちは流石に怒り、シモーネを消すことを計画する。その気持ちも分かるがシモーネの友人であるマルチェロは間に挟まれ揺れる。そんな中、シモーネがマルチェロにある儲け話を持ち掛けるが……。
まぁーーーーー。終始、イライラ、モヤモヤする作品でした(笑)。
主人公マルチェロのその都度選ぶ選択に、なぜそこでyesと言うのだ!?であったり、なぜそっちを!??と、まぁーーーー感情移入しないというか、確実に不運な展開が予想されるほうに行くので、観ているほうとしては、ずっとドキドキモヤモヤしてしまう。(よく出来ています)
オープニングから、マルチェロより大きく強そうな獰猛な犬に、吠えられながらも、シャンプーしていく彼の構図がその後の展開を示唆しているようなスタート。しかし、いくら吠えられようが、彼の犬への愛情はとても深く、そして幸せそう、それもなんとも不穏な感じ。まぁーーーーこっちの心をフガフガしてきますね(笑)。
ある家に空き巣に入り、飼い犬が煩くて冷凍庫に放り込んでやったわ!と、笑いながら逃走する車の中で語るシモーネ。運転係として外で待機していたマルチェロは、それを聞き、いてもたってもいられなくなり、シモーネと別れた後、その空き巣に入った家に戻り、その犬ちゃんを救出する。そこまではいいんですが、マルチェロはその犬がしゃんとするまで、暖めてあげたり、抱き上げてあげたりと、時間を掛けてやるのです。"空き巣に入っている家で!!"。
観ている心理としては、この後、家主と鉢合わせて、全部マルチェロのせいになるのではないかと、嫌な展開を妄想させられハラハラします(笑)。 しかし、マルチェロはわんちゃんのことが第一なのか、そんな焦りや考えは彼からは微塵も感じません。このシーンで、彼の余りある優しさと圧倒的な緩さを知ることになるでしょう。
そして、シモーネの存在。ジャイアンとのび太の関係性。さらにそれを極大化したのが、シモーネとマルチェロの関係と言えば分かりやすいでしょう。シモーネが出てくるだけで、もう嫌な予感しかしません。バイクの音が遠くから聞こえてくるだけで、"あぁ嫌なことが起きるぞ"となります。
そして、断らない、断れないマルチェロ。少し反抗はするのですが、シモーネに言いくるめられたり、暴力で押さえつけられて、結局は従ってしまうマルチェロ。こんなにも分かりやすく嫌な関係性は、長い映画史の中でも、トップクラスではないでしょうかね。。
ずっとなぜ!?なぜ!?と思っていたマルチェロの行動ですが、ラストまで観ていくと、ふと自分の中にも、マルチェロの要素があるのではないかと感じてしまう。承認欲求をどうしても求めてしまったり、人間的な弱さが自分と重なる。そしてそのことに少し恐怖。
とてもよく出来た構成で、ラストのマルチェロの表情だけを追ったシーンでは、素晴らしいの一言。それまで、安全な高みから見下ろしていたはずなのに、急にこちらへ舵をきり、気づけば目の前でナイフの切先を突きつけられている感覚になりました。
監督は、異色のクライム・サスペンス『ゴモラ』(08)でゴールデン・グローブ賞などにノミネートされ、イタリアのアカデミー賞にあたるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞7部門を獲得。『リアリティー』(12)で同賞3部門を受賞。さらにその両作品で、カンヌ国際映画祭の審査員特別グランプリに2度輝いた、現代のイタリア映画界の鬼才マッテオ・ガローネ。
主演は、全くの無名俳優だったがガローネ監督に見出せれ大抜擢された、マルチェロ・フォンテ。その監督の期待に見事に答え、心優しい男が転落していく様を演じきり、本作でカンヌ国際映画祭にて主演男優賞を獲得。
イタリアのみならず、世界的には賞賛を浴びた本作。お家でも気軽にネットレンタル出来ますので、気になった方は是非、ご覧ください。
歴史的傑作に沢山ふれて、感受性豊かにいたいものですね。厳しいときこそ、心は豊かに。
それでは今回も、おこがましくも紹介させていただきました。
(文:橋本淳)
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