映画コラム

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2020年05月22日

『スター・ウォーズ』前のディストピアSF映画から窺える未来への覚悟

『スター・ウォーズ』前のディストピアSF映画から窺える未来への覚悟




シリーズ最新第9弾にして最終作『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』の4K&Blu-ray&DVDが発売され、現在ご自宅で『スター・ウォーズ』サーガを一気にまとめ見しながら堪能されている方もさぞ多いのではないかと思われます。

1977年に始まった『スター・ウォーズ』サーガ(日本では1978年に公開)は、それまでのSF映画の流れを一新し、華やかなSFファンタジー映画ブームをもたらしたように同世代的に振り返ると思わざるを得ないところがあります。

しかし、それ以前のSFは決して明るく華々しいものではなく、むしろ救いのない未来の危機到来を憂えるディストピア(反ユートピア、もしくは暗黒郷、地獄郷、破滅郷、絶望郷とも訳されます)感覚の作品が多数を占めていたように記憶しています。

コロナ禍で今後の社会がどうなるか、自身の仕事や家族、貯えや生活などなど含めて不安に駆られている方も多いのではないでしょうか?

そういったとき、『スター・ウォーズ』以前のディストピアSF映画群は、今の私たちになにがしかの覚悟を示唆してくれるかもしれません……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街468》

緊急事態宣言の全面解除もまもなくかと見越しつつ(5月20日現在)、今回は過去のSF映画たちからさまざまな未来を探ってみたいと思います。

70年代ディストピア映画を代表するタフガイ、
チャールトン・ヘストン


それまでどちらかというとB級プログラムピクチュア的にみなされがちだったSF映画がA級として広く認識されるようになったのは1968年のスタンリー・キューブリック監督作品『2001年宇宙の旅』からではないかと思われますが、同じ年に公開されたのがピエール・ブール原作、フランクリン・J・シャフナー監督による『猿の惑星』でした。




1年余の宇宙航行を経てパイロットらが不時着した惑星、そこは言葉を解する高等動物の猿たちが下等な人間たちを奴隷のように支配している驚愕の世界でした。

何もかもが衝撃的な設定に見る側は愕然となりつつ、主人公と共にそこでの決死のサバイバルを体感しつつ、最後にトドメをさされます。
(もう既にご存じの方が多数でしょうけど、ここでは未見の若い世代などのために、あえてネタバレは避けます)

後に全5作のシリーズとなり、さらには幾度もリメイクされてきたこの名作、第1作と第2作『続・猿の惑星』(70)に主演したチャールトン・ヘストンは、それまで『十戒』(56)『ベン・ハー』(59)『北京の55日』(63)『ダンディー少佐』(65)『ウィル・ペニー』(67)など過去を描いた史劇や西部劇の主人公を多く演じてきましたが、このあたりから未来社会を駆け回るタフガイ主人公も演じるようになっていきます。

まずはボリス・セイガル監督の『地球最後の男オメガマン』(71)。




リチャード・マシスン原作『地球最後の男』の二度目の映画化です。
(最初の映画化はヴィンセント・プライス主演で1964年製作の日本劇場未公開作品ですが、国内発売DVDがあり。さらには2007年、ウィル・スミス主演で三度目の映画化『アイ・アム・レジェンド』がなされています)

細菌兵器で崩壊した世界の中、自ら開発した血清を打って唯一生き残った主人公科学者が、細菌兵器に侵されて新興宗教的な狂信集団と化した者たちと戦いながらサバイバルを繰り広げていきます。

現在多数製作されている世紀末ゾンビ・パンデミック映画の先駆けともいえる作品ですが、世紀末の荒涼とした雰囲気は巧みに醸し出されています。

続いてリチャード・フライシャー監督の『ソイレント・グリーン』(73)。原作はハリイ・ハリスンの『人間がいっぱい』です。




こちらの舞台は2022年(もうまもなくですね)のNY。人口増加と環境汚染に見舞われて食糧不足に陥って久しい未来格差社会では“ソイレント・グリーン”なる合成食品が一般市民に配給されていました。

そんなある日、その合成食品製造会社の社長が殺害され、捜査を開始した刑事は、やがてソイレント・グリーンをめぐる驚愕の事実を知らされることになります……。

個人的には初見の際、こちらのラストのほうが『猿の惑星』以上に衝撃的でしたが、そこに至るまでのサスペンスの盛り上げも見事で、名優エドワード・G・ロビンスン扮する老人が“ホーム”と呼ばれる施設の中でヴェートーベン《田園》を聞きながら眠り(!)につくシーンの美しくもショッキングな情緒は今なお思い出すだけで鳥肌が立ってしまいます。

この後もチャールトン・ヘストンは『ハイジャック』(72)『大地震』(74)『エアポート75』(74)とパニック映画に主演して頼れるタフガイぶりを披露。今ふりかえると、80年代のシルヴェスター・スタローンに近いイメージのものがあったような感もあります。

晩年は全米ライフル協会会長に就任(98~03)して、アメリカ国民が銃武装することの権利と正当性を訴え続けて、各方面の激しい賛否も浴びましたが、もしかしたら彼はかつて主演したディストピアSF映画群が描く未来社会の到来に対しても過剰な危機意識を持っていたのかもしれませんね。

映画参入していく
マイケル・クライトン


『ジュラシック・パーク』などの原作で知られるマイケル・クライトンは1960年代後半に作家デビューを果たしていますが、コードネーム“アンドロメダ”なる地球外殺人微生物と米軍科学者チームとの攻防を描いた出世作『アンドロメダ病原体』を原作に、ロバート・ワイズ監督が『アンドロメダ…』(71)として映画化して以降、自身も映画制作に積極的になっていきます。




ディストピアSF関連作としては、1973年に最新テクノロジーによって建設された巨大テーマパーク内のロボットたちが暴走する『ウエスト・ワールド』を自ら監督。
(本作は後の『ジュラシック・パーク』の元ネタ的存在でもあります。またクライトンは直接タッチしてませんが、76年には続編映画『未来世界』も製作されました)

また脳内に電極を埋め込む手術を施された科学者の悲劇を描いた小説『ターミナルマン』が、1974年にマイケル・ホッジス監督のメガホンで『電子頭脳人間』として映画化されました。




ヒッチコック作品など数多くの映画タイトルデザインを手掛けたソール・バスも『フェイズⅣ 戦慄!昆虫パニック』(74)で映画初監督を果たしています。




こちらは砂漠を舞台に知識を持った蟻と科学者チームの決死の戦いが圧倒的ヴィジュアルで繰り広げられていく劇場未公開カルト作品で(DVDあり)、『アンドロメダ…』とも少し呼応し合う要素のある作品。

そういえばその中でヤノット・シュワルツ(ジュノー・シュウォークとか、ジャノー・シュワークとかいろいろな日本語表記がありますが、一番原音“JEANNOT SZWARC”に近いのはどれでしょうね?)監督の『燃える昆虫軍団』(75)は品種改造の果てに発火する能力を持つに至った特殊ゴキブリが何とついには意思を持ち、人間たちに“WE LIVE”と集団で文字を組んで人類に生存宣言していくもの。

一見『JAWS』(75)以降の動物パニック映画の1本としてカウントされがちですが、実は『フェイズⅣ』同様、ディストピア昆虫SFとしての要素も大いに内包しているカルト作品なのでした。

まだまだある
70年代ディストピア映画!


『スター・ウォーズ』サーガの生みの親、ジョージ・ルーカス監督もデビュー作『THX1138』(71)でディストピアSFを放っています。




これは67年に制作した短編映画『電子的迷宮/THX1138:4EB』を基にした長編映画で、人名を番号で管理され、当局から支給される精神安定剤で感情までもコントロールされている25世紀の地下都市を舞台に、薬の服用を止めたTHX-1138が都市からの脱出を試みるという内容の作品でした。

未来管理社会からの脱出というモチーフで個人的に最も印象深いのは、マイケル・キャンパス監督の『赤ちゃんよ永遠に』(72)です(先ごろめでたく、ようやくのDVD化!)。




人口の異常増加と公害による動植物全滅と食糧危機により、今後30年間の妊娠&出産を禁止令が布告された21世紀の未来社会の中で、若夫婦が法を犯して男の子を出産してしまい……といったストーリー。

こちらもラストは驚愕のラストを迎えますが、これをハッピーエンドと取る人とアンハッピーエンドと取る人と、感想は大きく二分しています。
(あくまでも私の周囲をリサーチした限りですけど、独身者はアンハッピー、子のない夫婦はハッピー、子持ち夫婦は真っ二つといった感じです)

マイケル・アンダーソン監督の『2300年未来への旅』(76)は、人口調節のために30歳になった人間を“処理”していく2274年のコンピュータ管理社会コロニーからの脱出を図る男女の物語。




後に『ローガンズ・ラン』としてTVシリーズ化され、またマイケル・ベイ監督『アイランド』(05)の元ネタ的存在にも思えてならない作品です(ジェリー・ゴールドスミスの音楽が秀逸)

他にも、ダグラス・トランブル監督の『サイレント・ランニング』(72)は未来管理社会の中、地上から絶滅した植物を宇宙船内の温室ドームで育てる「植物保存計画」の中止に反抗する植物学者とロボット、そして植物たちの運命を描いたもの。




ウディ・アレン監督・主演の『スリーパー』(73)は、全体主義に支配された200年後の世界に冷凍睡眠から目覚めた男の冒険を描いたSFコメディです。




ジョン・ブアマン監督『未来惑星ザルドス』(74)は、2293年の原初的なまでに荒廃した未来社会での不老不死の高級階級“エターナル”と、死のある下層階級“ブルータル(獣人)”の争いを描くもの。
(空を舞う未来社会の象徴的石像“ザルドス”の語源は『オズの魔法使』から来ています)




ロバート・クローズ監督の『SF最後の巨人』(75)は、疫病の影響で全ての動植物が死に絶えた2012年のNYを舞台に、かろうじて生き残った居住区内外の人々の争いと、居住区からの逃走を描いていきます。
(ちなみに邦題の“巨人”とはあくまでも比喩的表現で、劇中には出てきません)




ノーマン・ジュイスン監督の『ローラーボール』(75)は、未来社会の人々が興じる暴力殺人スポーツゲームの全貌を描いたSFヴァイオレンス映画。2002年にはリメイク映画化されています。




アメリカ本国では『スター・ウォーズ』公開後の作品ですが、日本では先に公開されたジャック・スマイト監督の『世界が燃えつきる日』(77)も、雰囲気的にこちらに加えておきたいものがあります。核戦争後の荒廃した地球で、生き残りの仲間を探すべく特殊車両ランドマスター号を駆る人々の危険なサバイバルを描いたSFロードムービーです。




さて、その『スター・ウォーズ』が公開されて、以後『未知との遭遇』(77)『スーパーマン』(78)など華やかなSF大作が目白押しになっていき、1980年代に入ると『E.T.』(82)『ネバー・エンディング・ストーリー』(84)『ラビリンス/魔王の迷宮』(86)などファンタジー映画もブームになっていきます




しかし、よくよく振り返ってみると、『スター・ウォーズ』以降も宇宙SFホラー映画『エイリアン』(79)や宇宙人侵略もの『SF/ボディ・スナッチャー』(79)、NYマンハッタン島が巨大刑務所と化して繰り広げられる『ニューヨーク1997』(81)、そしてディストピアSFとしての代表作とも讃えられる『ブレードランナー』(82)へと行き着きます。




ファンタジーにしても『デューン/砂の惑星』(84)のようなディストピア感覚に満ちた超大作も登場します。

とどのつまり、『スター・ウォーズ』以降は光と影のバランスが巧みに保たれたSF映画群が量産されていったと捉えるべきなのかもしれません。

そしてそういった映画的傾向は今なお続きながら、観客に「夢と希望」「悪夢と絶望」の双方を交錯させつつ、これからの未来を示唆するとともに、そのことに対する覚悟の念を促してくれているのでしょう。

(文:増當竜也)

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