あなたに役立つ映画・ドラマのプラスαがあるメディア「シネマズプラス」

©cinemas PLUS Committee. All Right Reserved.

2020-06-29

コラム

『ワイルド・ローズ』夢を諦めないシングルマザーが勇気をくれる「3つ」の見どころ!



© Three Chords Production Ltd/The British Film Institute 2018



公開延期となっていた新作洋画が、6月に入って次々に劇場公開されたことで、お目当ての作品を観に劇場へ足を運ばれた方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、いつもの韓国映画紹介を一旦お休みして、6月26日から公開されている新作映画『ワイルド・ローズ』をご紹介したいと思います。

日本版ポスターやストーリーからは、レディー・ガガ主演の『アリー/ スター誕生』のような内容を連想させるのですが、その内容と出来は、果たしてどのようなものなのでしょうか?

ストーリー


カリスマ的な歌声を持つシングルマザーのローズ(ジェシー・バックリー)は、故郷のスコットランドからアメリカに渡り、歌手としての成功を夢みていた。だが、不器用にしか生きられない彼女は、夢を追い求めるあまり、愛する母親や幼い二人の子供たちを時に傷つけてしまう。夢か家族か、若さと才能を兼ね備え、遂に掴んだチャンスを前に、葛藤する彼女が辿り着いた答えとは?
ラスト5分、魂のステージが今幕を開ける──!


予告編




見どころ1:ヒロインの気持ちを代弁する楽曲たち!



映画の冒頭、主人公のローズが刑務所を出て自宅に向かうまでの描写だけで、既に彼女の置かれた状況や自由奔放な性格が観客にも理解できてしまう本作。

例えば、映画冒頭に登場する刑務所での会話から、ローズが監房でも常にドリー・パートン(カントリーの有名女性歌手)の歌を歌っていたことが分かるなど、孤独な刑務所生活の中で歌だけが彼女の心の支えであり、常に歌の練習を欠かさなかったことを観客に分からせる演出も、実に上手いのです。

加えて、開始5分で彼女の見事な歌声が披露され、タイトルバックに流れる歌の歌詞がそのままローズの心情や状況を代弁するなど、全編に流れる楽曲の絶妙な選曲は、本作の大きな魅力となっています。

特に、その歌詞が彼女の生き方を表現している、カントリーのスタンダード・ナンバー「ローズ・ガーデン」は、主人公の名前と出所した彼女の境遇をダブルでかけた選曲となっていて、実に見事!



© Three Chords Production Ltd/The British Film Institute 2018



刑務所を出てさまざまな偏見や壁に直面しながら、歌に対する情熱を武器に成功への道を模索するローズですが、ある豪邸の家政婦として働くことになったローズが掃除しながら歌っていると、いつしか空想と現実が一緒になる描写など、彼女が夢見る成功への期待が、観客の興味を最後まで持続させてくれるのです。

自分の才能を信じて人生の再スタートに臨む彼女の心情や悩みが、観客にストレートに伝わるその楽曲の素晴らしさを、ぜひ劇場で体験して頂ければと思います。

見どころ2:主人公を成功に導く素晴らしい出会い!



12ヶ月の刑務所生活から出所したローズは、自分の居場所を伝えるGPS付きのタグを足首に装着され、朝7時から夜7時まで自宅から出ることを許されない状態ながら、母親や子供たちとの実家暮らしをスタートすることになります。

しかし、前科のあるローズに世間の風は冷たく、10年働いたカントリーバーに行っても冷たくあしらわれ、ケンカの末に悪態をついてしまう始末。

それでも自立のために、ある豪邸の家政婦として働き始めるローズですが、子供たちを連れて実家から団地に引っ越しても、明け方までバーで飲んで規則の朝7時ギリギリに家に走って帰るなど、彼女は一向に今までの自由奔放な生き方を変えようとはしません。

そんな生活が続く中、屋敷を掃除中にローズが歌っていたカントリーミュージックをきっかけに、雇い主のスザンナとの間に次第に交流が生まれることになります。



© Three Chords Production Ltd/The British Film Institute 2018



単なる憧れや厳しい生活からの現実逃避も含め、ただナッシュビルに行くことしか考えていなかったローズに、スザンナはカントリー歌手として世に出るための助言をしてくれるのですが、今まで成功と縁の無かったローズにはなかなか実行に移す決心がつきません。

ある日、ローズが歌っている動画をスザンナがメールで送ってくれたことで、ローズにBBCラジオの人気DJボブ・ハリスから「ぜひ会ってみたい」との連絡が来るのですが、追跡用のタグが足首に付いた状態では、とてもロンドン行きは無理な話。

幸い、弁護士の努力のおかげで無事にタグを外す許可が出て、遂にローズは本格的に歌手活動を再開させることになります。

ロンドンへ向かう列車の中でハメを外して酔っ払ってしまい、上着とバッグを盗まれてしまったものの、なんとかBBCのラジオ局に辿り着いたローズは、動画を見たボブからその歌唱力を高く評価されるのですが、彼からの「伝えたいメッセージは?」との問いかけに、彼女は言葉に詰まってしまいます。

更に、「自分の曲を作れ」とボブから助言を受けるローズですが、改めて考えると自分が伝えたいメッセージが特に無いことに、愕然とさせられるのです。

この時のボブからの助言が、後に大きな挫折と絶望を味わったローズに復活への道を示すことになるのですが、ローズがイギリスに生まれてアメリカのカントリーミュージックを愛する自分のことを、トランスセクシャルのようだと表現したり、ボブが「スコットランド出身でもアメリカ出身でも、歌唱力とメッセージがあれば関係ない」と言うなど、実はこの映画が多様性についての物語であることが、次第に明らかになってくるのは見事!

人生の紆余曲折を経て、自分の言葉でメッセージを伝えられるまでに成長する主人公の姿には、人生をやりなおすのに遅すぎることはない、そんなメッセージが込められていると感じた、この『ワイルド・ローズ』。

他者との出会いが、主人公の人生に成長と成功をもたらす素晴らしい内容なので、全力でオススメします!



© Three Chords Production Ltd/The British Film Institute 2018



見どころ3:主人公の成長と人生の選択とは?



鑑賞前に予想したような、シングルマザーが自分の夢を叶えるサクセスストーリーではなく、主人公の挫折や人生の難しい選択など、多くの観客が共感できる現実的な問題が描かれていた本作。

例えばローズの無軌道な過去が、せっかくの友情や成功へのチャンスを壊したり、親としての責任が重くのしかかってくるなど、そこには大人として成長するための苦労や、さまざまな偏見との闘いが描かれているのです。

映画の序盤では、出所を機に定職について子供たちに親の責任を果たして欲しいと望む母親と、ナッシュビルに行ってカントリー歌手になる夢を諦めないローズとの対立が描かれるのですが、同時に彼女の無軌道な暮らしぶりが、実は母親への反抗によるものだったことも、次第に浮かび上がってきます。



© Three Chords Production Ltd/The British Film Institute 2018



中でも観客に強い印象を残すのは、ローズと母親の確執や、その愛憎入り混じった複雑な関係性でしょう。

大学に行きたかったが、15歳で働きに出なければいけなかった自身の人生を振り返り、薬剤師になるのが夢だったことをローズに明かすうちに、自分で夢を追いかけるよりも、子供に夢を託す方が楽だったから夢を諦めた、そう告白する母親。

ローズの夢の実現を応援しながら、母親として厳しい態度を取らなければならなかった彼女の複雑な心情は、「責任を持って欲しかったけど、希望を奪う気はなかった」とのセリフにも、よく表れているのです。



© Three Chords Production Ltd/The British Film Institute 2018



スザンナの協力によって、自分の夢であるカントリー歌手への一歩を踏み出したローズに対し、本気でやればなんだって出来る、そう励ます母親。こうして本格的に歌手活動を再開させて、次第に家族の絆を深めていくローズですが、遂に訪れたナッシュビル行きのチャンスを前に、子供たちの存在が彼女の足かせとなってしまいます。

子供たちを残してアメリカに行くのは無責任だと責める母親との間に再び確執が生まれ、せっかく心を開き始めた子供たちにも嫌われてしまうローズ。

加えて、スザンナ自身の経験を踏まえた「若くて才能もある今がチャンスであり、子供が出来るとそうはいかない」という助言も、ローズの心を迷わせることになるのです。

子供たちとの生活か、それとも自分の夢か? その勇気ある選択が彼女を真のカントリー歌手として成長させる、感動のラストステージは、ぜひ劇場で!

最後に


注:以下は若干のネタバレを含みます。鑑賞後にお読み頂くか、本編を未見の方はご注意の上でお読み下さい。

今年の3月に公開された『ジュディ 虹の彼方に』でも、ジュディ・ガーランドのイギリスでの世話役として印象に残る演技を見せたジェシー・バックリーが、カントリー歌手を目指すシングルマザーという全く違う役柄に挑戦している、この『ワイルド・ローズ』。



© Three Chords Production Ltd/The British Film Institute 2018



鑑賞前に予想したような、主人公ローズが自身の歌の才能によって成功を手にする物語とは違い、そこには夢や憧れだけでは通用しない現実の厳しさと、自分を認めてくれる人々との出会いが新たな道を開くという、人生の真理が描かれています。

中でも重要なのは、カントリーミュージックを通してローズと友情で結ばれる女性、スザンナの存在でしょう。

プロの歌手として練習がいかに重要か? をローズに教えるなど、彼女よりも年上で人生経験も豊富なスザンナは、ローズがなりたかった理想の女性とも言える存在。



© Three Chords Production Ltd/The British Film Institute 2018



そんな彼女が自分の50歳の誕生パーティーでローズに歌ってもらい、集まった招待客約100人にローズの歌が気に入ったら投資してもらう、というアイディアを出してくれるあたりは、クラウドファンディングが当たり前となった現代を反映した描写と言えるでしょう。

憧れだったナッシュビル行きを実現させるために、昔のバンド仲間を再結集して練習を重ね、遂に迎えた誕生パーティーの当日。せっかく手にした希望を失いかねない、ある究極の選択を迫られた彼女が、果たしてどんな選択をするのか?

更に、ローズの取った選択が決して絶望や諦めではなく、これからの一歩を踏み出すための勇気ある撤退だったことが明らかになる、ラストのステージは必見!

アメリカの音楽であるカントリーを遠いイギリスで歌い続け、カントリーの本場ナッシュビルでの成功を夢見ていたローズが、自分が生まれ育ったグラスゴーで根を張る決意を込めた歌詞が観客の心に響く、ラスト5分のステージは必見です!

(文:滝口アキラ)