ドラマの組み立てが見事すぎる! 腹の底から笑えるアニメ映画『スモールフット』の3つの魅力!



(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.



伝説の獣人にスポットライトを当てた映画『スモールフット』が、10月12日より公開されます。とはいえミステリーハント系の冒険や、ましてビッグフットの襲撃に遭うようなサバイバルホラーではありません。ワーナー・ブラザースによる最新アニメーション作品として、イエティと人間の間に生まれる友情や絆を面白可笑しく描いたファミリー・アドベンチャーに仕上がっています。

キャストにはチャニング・テイタムやジェームズ・コーデンといった人気俳優から、ゼンデイヤ、コモンら歌手としての実績も輝かしい面々を起用。劇中ではミュージカルナンバーも披露されていて、実に華々しいアニメーション作品となりました。キャストだけでなくスタッフも豪華で、『怪盗グルーの月泥棒 3D』や『ミニオンズ』を生み出したセルジオ・パブロスが原作を務め、監督には『銀河ヒッチハイク・ガイド』『スパイダーウィックの謎』などの脚本を手掛けてきたキャリー・カークパトリックが登板。今回はそんなアニメ映画『スモールフット』が、“ただのミュージカルアニメ”ではないその理由を掘り下げていきたいと思います。



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とにかく笑って楽しめる!



『スモールフット』の魅力はまず「笑って楽しめる」、という一言に要約されるぐらいに笑えます。こんなに笑えるアニメ映画なんてそうそうないんじゃないか、というぐらいに筆者は試写室で爆笑しました。もちろんセリフ回しや各キャラクターの“ボケ”があって楽しめる部分も大きいですが、おそらく笑いを巻き起こす理由のひとつにテンポがあると思います。作品のリズムを狂わせることなく、それでも明らかに「さぁ、ギャグシーンの始まりですよ」とでも言わんとするようなシーンが目立ちました。昨今の説明過多な描写と違い、シンプルに“笑わせる”ためだけの演出ですが、これがピタリとフィットしているのだから凄い。なるほどこれはワーナー・ブラザースの長い長いアニメーション分野の歴史の中で培われた、カートゥーン的なテンポの良さが発揮されていました。例えば「バックス・バニー」や「ロードランナー」のようなルーニー・テューンズに慣れ親しんでいる人にとっては、どことなく懐かしさを覚えるかも。



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また本作の要にあるのは“逆転の発想”であり、その構造がストーリーを上手く組み立てているのも見どころ。人間からすれば“いるかもしれない、いないかもしれない”存在であるイエティが、彼ら(イエティ)の目から見たときこそ「自分たち以外にも“スモールフット”(ヒトのこと)が存在するかもしれない」という視点で物語はスタートします。つまり『スモールフット』というタイトルはイエティのことを指したわけでなく、イエティから見たヒト=スモールフットのことを指したもの。主人公のイエティ、ミーゴがスモールフットを目撃したことで人間の世界へと踏み込む冒険が始まるというのも、普通なら人間の方からイエティの棲む世界へと踏み込んでいくはず。そんな逆転の物語を、ミーゴの視点を通して描いていきます。そうして未知の世界へと踏み出したミーゴが出会うヒトが、イエティの撮影を目論み山の麓にやって来ていた動画制作マンのパーシー。この2人が出会ったときのやり取りもアイデアに満ちた描写になっているので、注目してほしいところ。



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ちなみに余談ですが、(現実の世界で“イエティ”が存在するかどうかは別として)タイトルが『スモールフット』でありながら、主人公のミーゴが“イエティ”と呼称されているのは、生息地の違いのため。ビッグフットは北米・ロッキー山脈に棲む獣人型の未確認動物(UMA)として世界的に有名で、一方のイエティはアジア大陸のヒマラヤ山脈に棲む獣人を指していて、このことからもミーゴとパーシーが出会う麓の町に漢字の看板が多い理由が分かります。イエティは日本で“雪男”の名前でも知られていますが、もちろんビッグフットとイエティが生物学的に同属であるかは分かりません。ただヒトよりも大きく巨大な足跡を残していることは共通しています。

豪華すぎるミュージカルナンバー!



『スモールフット』の中心的イエティであるミーゴは、純粋で正直な心を持ったキャラクター。そんな心の持ち主だからこそ、スモールフットを目撃しながら誰も信じてくれないという苦悩を、オリジナル版ではあのチャニング・テイタムが筋肉を封印して演じているわけですから、まぁ可愛いこと。その姿は“すごいものを見てしまったけど信じてもらえない”少年のような純朴さが詰まっていて、ちょっとゴツいビジュアルながら優しげな表情が温かい印象をもたらします。そんなミーゴの見たものや言動を信じて彼の心の支えとなるのが、ゼンデイヤ演じる好奇心旺盛なイエティのミーチーになります。



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本作では6曲のミュージカルパートが用意されていて、その前半を担うのがミーゴとミーチー。特に、スモールフットの存在を知り、探求心が閉塞的なイエティの村の扉を開かせ新たな世界への旅立ちを謳うミーチーの「WONDERFUL LIFE」は、ゼンデイヤの迫力ある歌唱もあって圧巻の1曲になっています。セリフの代わりとなってミーチーが歌い上げる様子は映像美もあって、ミーゴだけでなく観る者の胸にも熱く語りかけてくるのではないでしょうか。

また村の長老でありミーチーの父親でもあるストーンキーパーを演じるのはラッパーのコモンで、古くから村に伝わる“掟”を遵守するあまり、スモールフットの存在を強調するミーゴを村から追い出してしまいます。そんなストーンキーパーが中盤で披露するラップ曲「LET IT LIFE」はまさにコモンによる独壇場で、物語の根幹に関わる重要な場面を支えることに。その重厚感たるやさすがの一言で、これだけでもコモンが起用された理由が分るというもの。近年は俳優として『ラン・オールナイト』や『ジョン・ウィック:チャプター2』と立て続けにヒットマン役で迫力ある演技を見せていますが、本作ではそんな表情とはまた違う声の演技を楽しむことができます。



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本作は日本語吹替版が制作されていて、ミーゴを木村昴、ミーチーを早見沙織、パーシーを宮野真守、ストーンキーパーを立木文彦が演じています。公開に先駆けて早見沙織が歌う「WONDERFUL LIFE」がYouTubeで公開されているので、気になる方はチェックしてみては? いずれにせよ本作では、セリフの代わりとして、あるいは感情表現として、ミュージカルが効果的に使われているので、存分にミュージカルパフォーマンスが持つエネルギーを堪能してほしいところ。字幕版での上映は少ないですが、公開時に日本語吹替版をご覧になった上で、DVD発売後に字幕版をご覧になるのもオススメです。

なおミュージカルパートのオリジナルソングは、ウェイン・カークパトリックとキャリー・カークパトリック監督兄弟による作詞作曲。劇伴は、『怪盗グルー』シリーズや『ミニオンズ』、新作としては『500ページの夢の束』を手掛けているギタリストのヘイター・ペレイラが担当しています。ペレイラは映画音楽の舞台裏を描いたドキュメンタリー『すばらしき映画音楽たち』にも出演した作曲家で、さまざまなアイデアを演奏に取り込み、キャッチーな音楽を作り出すことでも有名。また『怪盗グルー』シリーズを始め『アングリーバード』などアニメ作品も数多くこなしていて、ある意味ではペレイラの実験的な持ち味は実写作品よりもアニメーションの方が創作の幅を与えられて発揮されているかもしれません。本作でもぴたりとキャラクターに寄り添う音楽だったり、あるいは物語そのものを俯瞰した曲で作品を引き締めているので、ミュージカルナンバーとともに注目してみてください。

いくつものテーマをまとめ上げたストーリー!



イエティとヒトの交流を描いた『スモールフット』ですが、一言でそんなふうにまとめても、その中ではいくつものテーマが枝分かれしていきます。例えば、ミーゴの“自分の見たものを信じる”心であったり、ミーチーが教えてくれる新しい世界への飛び込み方など、たくさんのドラマパートがあり、単なるコメディアニメではないことが分かります。さらにミーゴとパーシーが出会ったことで新たに紡がれていくドラマもあり、パーシーが取ったある行動がイエティの世界とヒトの世界を大きく揺るがすことに。



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コメディ、ミュージカル、ドラマとアニメーションの中でジャンルをまたぎ、なおかつテーマ性をいくつも与えていく。「詰め込みすぎでは?」と思われそうですが、これが全くもって綺麗にバランスよくまとめられているのが本作の凄いところ。それを見せる手立ても見事で、子どもにとっては“未知との遭遇”が楽しめ、大人にとってはミーゴとパーシーの関係を通して得るものが多く、また作品全体を通した豊かな創造性にも驚かされるはず。“モジャかわ”なビジュアルで一見すると「子ども向けのアニメ」と捉えられるかもしれませんが、大人だからこそ腹の底から笑ったり、ミーゴが踏み出す一歩を応援できるのではないかとも感じられる作品です。



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さらにこれは、未確認生物が三度の飯よりも大好きな筆者の目線ですが、やはり伝説上の獣人を扱った作品としても、プロットからしっかりと作品を支えることになっています。むしろ後半になるにつれて、なぜイエティとヒトとは分け隔てられた世界に住んでいるのか、なぜ頑なにストーンキーパーがスモールフットの存在を否定するのか、物語の根幹にも関わる部分と密接な繋がりを持たせることに成功していました。本作はあくまで“イエティが現実にいる世界”を前提にしていますが、作品全体を通して未確認生物好き(もはやそれはロマンですらある)に対して“夢を諦めないでほしい”というようなメッセージ性も感じるところがあります。その点も踏まえてラストシーンに至ると、今いる自分たちの世界が違った角度から見られるようになるのではないでしょうか。



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まとめ



“伝説上の動物”をメインキャラクターにした作品は数あれど、なかなか獣人をピックアップしたメジャー作品はさほどあるわけではありません(有名メジャー作品では『ハリーとヘンダスン一家』くらい?)。『スモールフット』は逆転の発想を加えて、なおかつイエティとヒトが実際に交流したらどうなるかを描いた作品です。ルーニー・テューンズへのオマージュを捧げつつ、しっかりと未知の存在同士が触れ合う世界を温かい視点で描いているので、肩の力を抜きながら存分にファンタジックな世界を堪能してくださいね!

(文:葦見川和哉)

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