映画コラム

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2020年10月17日

『アイヌモシリ』レビュー:民族のアイデンティティと対峙する少年の想いとは?

『アイヌモシリ』レビュー:民族のアイデンティティと対峙する少年の想いとは?



 (C)AINU MOSIR LLC/Booster Project



『鬼滅の刃』の一大ブームもそうですが、漫画やアニメーション、即ち文化の力とは恐ろしい(=面白い)もので、野田さとる原作のコミック&アニメ『ゴールデンカムイ』の大ヒットもまた、若い世代に北海道の先住民アイヌの存在や魅力などを幅広く知らしめることになったような気もしています。

小説でも実話を基に、明治から第2次世界大戦に懸けての樺太(サハリン)アイヌ男性とポーランド人民俗学者の運命を描いた『熱源』が直木賞を受賞。

私のような昭和世代としては、忍びとして育てられたアイヌの青年が蝦夷から北極海、アメリカ西部、そして幕末の維新戦争まで一気に駆け抜ける矢野徹の同名小説をアニメーション映画化したりんたろう監督の『カムイの剣』(85)が、今も伝説的な存在です。

アイヌ差別と和解を描いた石森延男の『コタンの口笛』も名匠・成瀬巳喜男監督のメガホンで1959年に実写映画化されていますね(北海道出身・伊福部昭の音楽も素晴らしいものがありました)。

そういえば「冒険コロボックル」(73~74)というTVアニメがありましたが、佐藤まさる&村上勉の原作童話の基となったアイヌの伝承コロボックルと、西洋の『白雪姫』に出てくる7人の小人たちの相似性を記した論文を読んだことがあります。

またアイヌ文化と沖縄文化も相似性があるなど、小さな地域の文化伝承を語ることで、ワールドワイドな興味にまで広がっていく歓びみたいなものが、“アイヌ”というキーワードには大いに秘められている感もあります。

今回ご紹介する映画『アイヌモシリ』も、ワールドワイドな視線による企画とワールドワイドなスタッフ編成によって作られ、ワールドワイドな高評価を得た作品です。

そう、この作品には……

《キネマニア共和国~レインボー通りの映画街512》

世界中の少数民族が独自の文化をいかに継承していくか? といった問題を通して、現代社会を生きていく上での民族のアイデンティティを、14歳のアイヌ少年の目線で問いかけていく意欲作なのでした!

アイヌの少年が見据える
思春期と文化の伝承


本作の舞台はとなるのは、北海道阿寒湖畔のアイヌコタンです。

14歳の少年カント(下倉幹人)は幼い頃からアイヌ文化に触れながら暮らしていましたが、1年前に父を亡くしてからそういった活動から遠ざかるようになり、今ではすっかりバンド活動に没頭する毎日。

中学を卒業したら、高校進学のために地元を離れる予定でいます。

そういった彼を、アイヌ民芸品を営む母(下倉絵美)はいつも優しい眼差しで見守っています。

あるとき、父の友人でアイヌコタンの中心的存在でもあるデボ(秋辺デボ)はカントを自給自足のキャンプへ誘い、そこで改めてアイヌの精神や文化への興味を持たせようとしていきます。

そしてデボは、ひそかに育てていた子熊の世話をカントに託します。

世話を続けるうちに、どんどん子熊に対する愛着が沸いていくカント。

しかし、その子熊は長年行われていなかった熊送りの儀式“イオマンテ”を復活させるために飼育されていたものでした……。

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