『すばらしき世界』ほか、西川美和監督の映画を考察。見えてきた3つのポイントとは
『すばらしき世界』ほか、西川美和監督の映画を考察。見えてきた3つのポイントとは
どうも、橋本淳です。
76回目の更新、今回もよろしくお願い致します。
目標、考え、大事にしているモノ。
よく取材で聞かれることなのですが、、まぁその都度ブレるブレる。たまーにネットで流れてくる自身の過去記事を読むことがあるのですが、現在の考え方と違いすぎて、恥ずかしく削除願いを出したくなります。
その度に、「あぁ、自分の考えなんて、浅く薄いものなのだなぁ、、"自分"というものがないんだなぁ」と落ち込むものです。「いや違う!!柔軟なんだっ!!」と下手くそな催眠術よろしく、自身を騙してなんとか前を向いて歩いてます。
だもんで、芯がぶっとい人、考えが一貫している人、ブレない人にとても憧れておるのです。強風が吹こうが、熱波がこようが、ブレずにドンと構えている考えというものは、どんなものなのだろうかと、小者なわたしには想像も出来ません、、、
最近出会った作品から、この人はきっとそういう考えの持ち主に違いない!と、焦点を合わせて、掘り下げてみようと思います。
映画監督・西川美和
今回はこの作品を!というわけではなく、次々と傑作を送り出している西川美和監督のこれまでの作品の共通項などを、勝手に妄想、考察していこうと思います。
現在公開中の映画『すばらしき世界』。こちらの作品、とてつもなくよかったです。
役所広司さんを主演に迎え、またさらにパワーアップし、深く深くひとりの人物を掘り下げた傑作を生み出してくださいました。
今年は邦画が豊作で、素敵な作品が乱立している現在ですが、『すばらしき世界』は群を抜いていると感じます。気迫、孤独、哀愁、陰影、奥行き、日本映画の神髄をまざまざと見せつけられます。
そんな作品を作り上げた西川美和監督の今までの作品を一気に見返して、監督の視点や考えを少しでも理解したいと思い、今回はこのような回にさせてもらいました。(個人的な解釈、考えなので、どうかお手柔らかに〜)
『蛇イチゴ』
『ゆれる』
『ディア・ドクター』
『夢売るふたり』
『永い言い訳』
そして『すばらしき世界』
並べただけで、すごさが分かるこのラインナップ。
『すばらしき世界』以外は、監督自身が書き上げているオリジナル作品。出す作品が毎回高い評価を受けている日本を代表する映画監督です。
一気に見返し、その中で重なる部分から監督の思考を追っていきたいと思います。
個人的に感じた共通点、重なる所は大きく3つ。
[無音の使い方]
環境音や台詞、BGMを排除したシーンが重要なポイントで出てくるのが監督作品の一つ目の特徴。時には、そのシーンにスローモーションを加えて、より印象的に仕上げています。聴覚から感じるものを一瞬にして、スッと消し、観ている側はスクリーンに映っている画によりグッと没入します。その効果からか、無音であるはずなのに、鑑賞者の脳内では"きっとこういう音が、言葉が流れている"と想像力で幾重にもそのシーンを色づけていく。
映画的な手法なのですが、その使い方と場所が、抜群にセンスがよく、ちょっとズラして使っているのが西川監督の魅力の一つではないでしょうか。
[表情を読ませないカット]
聴覚の次は視覚。すべての作品というわけではないのですが、背中側からのバックショットや、人物のシルエットを映すシーンでさらに想像力を掻き立てる。表情を見せずに映すことで、その人物の心情や次への動機を、見ている側に想像させ、時に緊張させる効果があるのでしょうか。その人物の心情的なシーンになると、正面より、横からや後ろからのショットが多くなるのも監督作品の特徴でしょうか。
また、電話での会話シーンでは、声のみを流し、画は望遠のロングショットというのもありますね。これはいくつかの作品でも用いられています。電話の会話をナレーションのようにし、画では違うものを映す。説明的にならずにシーンを進行しながらも、心理描写、情景描写がきっちりと重なっていく。(このふたつめの要素、私がとても好きな部分です。)
こういったことで、人間の感情を単体と捉えずに、実生活のリアルな人間の感情(ミルフィーユのように層のように、重なりあって、無段階フェードで出力)を映し出しています。
[生きづらい人々]
監督が着眼する主人公の共通点として、"正義感が強く、なにかを抱えながら生きている人"ではないでしょうか。この正義感の強さが、仇になり、本心で思っていることを吐き出すことが出来ずに抱えすぎて、澱のように溜まっていく。
一番人間的なはずなのに、いまの世の中にハマることが出来ずに、気づけば排除されてしまうような人物。
自分自身の思いに嘘をつき続けて、なんとか必死に生きて、もがいて、逃げようとしている、この状況をなんとかしたい、、といった印象。
多くの人が見逃してしまったり、スルーしてしまうものに、監督は目を向けて、テーマとして掲げているように感じます。
映画にすることで、多くの人に触れ、その中の何割かが気づいたり、知ったり出来る、その橋渡しを西川美和監督はし続けているのではないでしょうか。
監督はまさにジャーナリストのよう。今後もその着眼点に期待は高鳴ります。
現在公開中の『すばらしき世界』は是非、ご覧になってほしいです。
そして、その世界に触れたのならば、未見の方は是非とも、西川美和監督作品をご覧ください。現世に生きる人には、絶対に見て欲しいのです。これはいちファンの叫びです。
多くの人の心が豊かになりますように、心から祈っております。
芯を太く、、生きたいものです。
勉強は続く。
それでは今回も、おこがましくも紹介させていただきました。
(文:橋本淳)
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(C)佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会