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『街の上で』レビュー:下北沢で生きる青年の何気ない日常と友愛の素敵な交流



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

『愛がなんだ』(19)『mellow』(19)『his』(20)などで知られ、今年も既に『あの頃。』(21)が話題を集めた俊英・今泉力哉監督が2020年に完成させながらもコロナ禍で公開延期となっていた『街の上で』が、ようやく4月9日に公開されるやクリーン・ヒットとなり、現在上映館が全国各地に拡大中です。

私も都内シネコンで鑑賞しましたが、場内はほぼ満席で、客層も老若男女バランスのとれた理想的なものでした。

さて、そんな『街の上で』ですが、文化の街として知られる東京・下北沢を舞台に、古着屋で働く青年・荒川青(若葉竜也)の日常を描いたものです。



恋人の川瀬雪(穂志もえか)に浮気された挙句、別れ話を切り出されるも未練たらたらな青は、古本屋の店員・田辺冬子(古川琴音)ら街の人々と他愛のない会話を繰り広げながら(たまに些細な一言で、相手をうっかり傷つけてしまったりも)日々を過ごしていますが、あるとき美大生の町子(萩原みのり)から自主映画出演を頼まれ、その現場の衣裳スタッフ・城定イハ(中田青渚)と知り合ったりします。

全体的に今泉作品ならではの飄々とした日常感覚の中にそこはかとないユーモアはもとより人間同士の微妙な距離感などを漂わせながら、いつしか見る側を優しい気持ちにさせてくれる作品。

長回しを巧みに活かした撮影が独自のリズムを生みつつ、こちらの感性を好もしく刺激してくれます。

笑いの情緒も最初は「クッ」「クスッ」「フフ」みたいな声があちこちからぽろりぽろりと漏れ聞こえてくる感じだったのが、映画の進行とともにその波は次第に高まっていき、クライマックスでは思わず大爆笑の瞬間も!



共同脚本が『音楽』(20)『ゾッキ』(21)の原作者である漫画家の大橋裕之ということもあって、徹底して日常を描いているにも関わらず、なぜだかフワフワした不可思議な可笑しみが一層醸し出されていくのも妙味。

唯一、下北沢の街の切り取り方が割とお馴染みスポット的というか、「もっと穴場もあるのにな」みたいな感もなきにしもあらずで、逆にこれなら下北沢でなくても……みたいな印象を抱いてしまったのも正直に告白しますが、その分どの街どの地域に住んでいる方でも見ていて入り込みやすい映像空間が築き上げられているのも確かです。

映画というものは上映終了後に灯りがついたときの一瞬の雰囲気で、不思議とその作品が受け入れられたか否かが肌で体得できるものですが、私が見たときは場内の観客みんなの顔が晴れやかで、こういう映画を見ていれば緊急事態宣言の憂さも乗り越えられるとでもいった、微笑ましいカタルシスに満ち溢れていました。

緊急事態宣言に限らず、何か悶々と忸怩たる想いを抱えている方などへ、特にお勧めしたい作品です。

それにしても、今泉監督作品に登場する女の子たちは、どうしてああも生々しくも可愛らしいのでしょう?(そして、どうして男どもはああも情けないのか!)

(文:増當竜也)

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