2021年05月13日

『デッドロック』レビュー:現代版マカロニ・ウエスタンともいうべき伝説のサイケ・カルト映画がついに日本上陸!

『デッドロック』レビュー:現代版マカロニ・ウエスタンともいうべき伝説のサイケ・カルト映画がついに日本上陸!


■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

本作は1970年のドイツ(西ドイツ)映画で、自主上映などを除くと正式な劇場公開は今回が初めてとなる伝説的カルト作品でもあります。



クラウトロック(ジャーマン・ロック)を代表する前衛バンドCAN(当時のヴォーカルは日本人ヒッピー、ダモ鈴木)が音楽を担当していたことも、伝説に拍車をかけたものと思われます。

本作について語る前に、当時の状況をざっと振り返りますと、1950年代後半から10数年にわたって、フランスの「ヌーヴェル・ヴァーグ」やイギリスの「怒れる若者たち」、アメリカの「アメリカン・ニューシネマ」、西ドイツの「ニュー・ジャーマン・シネマ」など、世界中で新しい映画の運動が勃興していました。

それらの多くはアーティスティックな映画革命を促進させるものではありましたが、イタリアは「マカロニ・ウエスタン」という血と銃弾の嵐を以って映画を革命していったことで、当時は「本場アメリカ西部劇を模倣した邪道」として映画マスコミや保守的映画ファンなどから蔑まれる傾向があったのも確かです。

(個人的にはマカロニ・ウエスタンこそ、後のヴァイオレンス・アクションやホラー映画などに多大な影響をもたらした映画革命であったと確信しています)

そして本作は、マカロニ・ウエスタンの影響を多分に受けて作られた作品ですが、当時ニュー・ジャーマン・シネマで盛り上がっていた西ドイツ映画界は、これを「商業娯楽映画すぎる」として批判。

(カンヌ国際映画祭の出品も、彼らの反対によって「特別上映」という形でひっそり上映され、もっともそれが後のカルト化に拍車をかけました)

しかし本作は西ドイツ国内で大ヒットし、その年のドイツ映画賞(ドイツのアカデミー賞)長編作品賞を受賞したのです。

そもそもマカロニ・ウエスタンとは、主にアメリカやメキシコを舞台にしたイタリア製(スペインとの合作も多数)西部劇を指しますが、実はそれ以前から西ドイツでは冒険作家カール・マイの小説を原作とする西部劇(カール・マイ西部劇)が作られていました。

その伝で申すと、本作こそはカール・マイ西部劇の現代的再来たるニュー・ジャーマン・ウエスタンといえるかもしれません。



本作の舞台は現代アメリカの荒野ではありますが(ロケ地はイスラエルのネゲヴ砂漠)、100万ドルの大金とドーナツ盤レコードの入ったトランクをめぐって3人のワルが丁々発止の争奪戦を繰り広げるストーリー展開や、白く乾ききった荒野の寂れた風景、むさくるしい男たちの赤裸々な造型など、まさにマカロニ・ウエスタンの抒情そのもの。

また1970年代初頭に世界中で流行したサイケなバイオレンス・アクション映画と精通するタッチも大いに感じられます。

これが第2作だった製作・監督・脚本のローラント・クリックは、ニュー・ジャーマン・シネマの波に背を向け続け、一方ではマカロニ・ウエスタンの演出依頼を断るなど反骨の姿勢を崩すことなく、おかげで寡作の映画作家として伝説的存在と化していった人物です。

しかし、実は彼もまたニュー・ジャーマン・シネマの旗手たちと同等、いやそれ以上の熱意をもって映画の革命に粉骨砕身していた孤高の映画人であったといえるかもしれません。

実際、ご覧になれば一目瞭然ですが、これのどこが商業主義的なのか? と首を傾げたくなるほど大胆不敵な演出があちこち仕掛けられており、狙いすぎていて空回りしている節すら感じられます。

そういった伝説的野心作が、半世紀過ぎた今、ようやく日本で劇場公開!

人によっては『続・夕陽のガンマン』(66)を、『エル・トポ』(70)を、そして『マッドマックス2』(81)などを彷彿させるという声もあちこちから聞こえ伝わってくるカルト作品です。

見られるときに見ておいたほうが、映画ファンとして得策な作品でしょう!

(文:増當竜也)

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