2021年10月28日

〈新作紹介〉『モーリタニアン 黒塗りの記録』国家の闇の真相を断固追求するアメリカ映画ならではの社会派エンタテインメント

〈新作紹介〉『モーリタニアン 黒塗りの記録』国家の闇の真相を断固追求するアメリカ映画ならではの社会派エンタテインメント



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

邦題にある「黒塗り」と聞いただけで、国家および政府の悪しき隠ぺい工作などをご想像される方は、特に今の時代さぞ多いことかと思われます。

そのご想像通り、本作はアメリカ合衆国がもたらした「闇」の真相を告白した実話の手記の映画化です。

とかく国というものは自分たちの都合で罪なき人々を平気で貶めることに長けているようで、しかもそこに何の良心の呵責も感じられないところが恐怖でもあるわけですが、ここでも9・11の首謀者のひとりとしてでっち上げられたモーリタニア人のモハメドゥ・スラヒ(タハール・ラヒム)の地獄が描かれていきます。



特に拷問シーンの凄絶さは、今もこのようなことが国家の命令で行われていることに恐怖を覚えますが、いざ拷問を実行する側も次第に心が疲弊していき、すると別の者が交代して次なる拷問を行うといった「合理的」な対策にも慄然とさせられます。



ただしこの作品、モハメドゥを護る側の弁護士ナンシー(ジョディ・フォスター)、罰する側のスチュアート大佐(ベネディクト・カンバーバッチ)の攻防戦から浮かび上がっていく「真実」を通して、それを追求していく姿勢の人間的尊さと誇らしさこそがメインに綴られていきます。



ジョディ・フォスターVSベネディクト・カンバーバッチによる名優同士の貫禄に満ちた演技合戦もこの手の映画ならではの醍醐味と成り得ており(特にこの手の映画、この手の役を演じたときのジョディ・フォスターの凄みは怖いくらいですね)、社会派としての意気込みとエンタテインメントとしての映画の立ち位置がここでも見事に融合しているあたり、やはりこういったものを手掛けたときのアメリカ映画の秀逸性に勝るものはありません。



現在をシネスコ、過去をスタンダードで描き分けることでの明快さも含め、誰にでも理解しやすいケヴィン・マクドナルド監督の演出姿勢にも好感が持てますが、逆にそうしないといけないほどにアメリカ社会にはびこる差別や偏見は深刻化してきているようにも思えてなりませんでした。

それにしても「黒塗り」があからさまになって久しい今の日本で、こうした勇気ある映画はどこまで製作可能なのか、いや日本だけでなく今や世界中の表現者たちがどこまで社会の闇と対峙し得るのか、が大きく問われ始めている時代に突入してしまったような、そんなことまで想起させてくれる意欲作です。

(文:増當竜也)

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