あなたに役立つ映画・ドラマのプラスαがあるメディア「シネマズプラス」

©cinemas PLUS Committee. All Right Reserved.

【映画VS原作】『さよなら私のクラマー』それぞれの魅力解説|男女のフィジカル差を乗り越えるモノとは

SHARE

(C)新川直司・講談社/2021「映画 さよなら私のクラマー」製作委員会
アニメ映画『映画 さよなら私のクラマー ファーストタッチ』が6月11日から公開されます。

本作は、『四月は君の嘘』で知られる新川直司の漫画『さよなら私のクラマー』の前日譚にあたる作品『さよならフットボール』を映画化したもの。女子サッカー部のない中学で、男子に混じってサッカーに打ち込む主人公恩田希が、男女のフィジカル差に直面しながらも試合に出たいという目標に向かって努力する物語です。

スポーツとジェンダーを題材にした本作は、原作の魅力もさることながら、映像化にあたってさらなるアレンジと躍動感をプラスしています。本稿ではそんな原作と映画を比較して、本作の魅力に迫ってみたいと思います。

(C)新川直司・講談社/2021「映画 さよなら私のクラマー」製作委員会

原作・映画・テレビアニメとの関係を整理

本作には漫画作品が2つ、そして映像化されている作品も2つ存在します。コロナ禍の緊急事態宣言の影響により公開時期がずれたこともあって、時系列や作品発表順などがやや複雑になってしまったので、整理します。

最初に発表された原作漫画は、2009年に発表された、恩田希の中学生時代を描いた『さよならフットボール』です。そして、2016年に連載開始された『さよなら私のクラマー』で、高校に進学した恩田希が弱小女子サッカー部に入部し、仲間とともに成長していく姿を描いています。

『映画 さよなら私のクラマー ファーストタッチ』は、『さよならフットボール』を映画化したものです。全2巻と短くまとまっており、映画の尺に丁度良い長さなので、内容は省略されることなく映像化されています。

そして、現在放送中のテレビアニメ『さよなら私のクラマー』は、高校時代を映像化したもの。このテレビアニメは、映画に先行して4月から放送開始されていますが、原作とは発表順が逆となっています。映画『ファーストタッチ』は、本来なら4月1日に公開予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で公開日が6月にずれ込んだため、発表順が前後することになりました。

『フットボール』『クラマー』はそれぞれ、フォーカスしているテーマが異なり、『フットボール』ではスポーツにおける男女差を描き、『クラマー』では女子サッカー全体を取り巻く環境や課題を取り上げ、女の子たちの情熱とともに女子が気兼ねなくサッカーに打ち込める環境をいかに作るかという大人の責任にも触れた作品です。

映画は漫画をいかにアレンジしたか

監督が恩田を起用したくない理由を強化

(C)新川直司・講談社/2021「映画 さよなら私のクラマー」製作委員会
映画『ファーストタッチ』は、幼い頃からサッカー一筋に生きてきた少女、恩田希が女子サッカー部のない中学で男子に混じって部活動にはげむ姿を描いています。恩田はチームの誰よりもテクニックに優れた選手ですが、監督は恩田が女子であるという理由で試合に出さないのです。

そんな折、小さい頃に恩田がサッカーを教えた谷安昭(通称ナメック)と偶然の再会。かつては小さくて泣き虫だったナメックは、長身で体格に優れた選手となっており、「サッカーはフィジカルだ。女のお前に何ができる」と恩田に言い放ち、恩田は実力を証明しようと公式戦への出場を熱望し、あの手この手で奮闘します。

中学生となって確かにフィジカルでは男子に差をつけられた恩田ですが、足元のテクニックに関しては群を抜いています。物語の中で、主人公の大きな壁となるのが(理解者でもあるのですが)、サッカー部の鮫島幸造監督です。

鮫島監督はかたくなに恩田を公式戦に起用しないのですが、映画と原作ではこの動機の発生に大きな違いがあります。原作では、成長途上の中学生の身体を男子とぶつけて傷つけるのは良くないからという考えで、一度も恩田を試合に出したことがありません。監督の考えはただの女性差別ではなく、教育者としては当然の心配でもありますが、途中まではやや冷たい印象も与えます。

しかし、映画では冒頭で、恩田が中学一年時に男子の試合に出場し、怪我を負ったエピソードを追加。その経験ゆえに、鮫島監督が恩田を試合に出したくないという形にアレンジしています。成長段階の中学生に一生もの怪我を追わせたくないという気持ちは同じですが、実際に試合で怪我をしたエピソードが追加されたことで、監督の考えに強い説得力が生まれています。このエピソードの追加によって、観客は監督と同じ目線で恩田を心配することになるわけです。

さらにこの追加エピソードは、物語全体に原作以上に強い推進力を与えています。恩田は女だからと試合に出られない悔しさで行動しますが、実際に怪我をしてもなお、その情熱を捨てずに努力を続けているのです。このアレンジによって、怪我のリスクを承知で彼女が努力しているということが伝わるようになり、結果として作品全体のドラマをより濃密にすることに成功しています。

流動的な試合の流れを3DCGで描写

(C)新川直司・講談社/2021「映画 さよなら私のクラマー」製作委員会
設定面の違いも重要ですが、映画とマンガの一番の違いは、画が動くということです。スポーツをアニメで描く時は、どれだけ競技シーンの躍動感を生み出せるかが常に問われます。とりわけサッカーはプレイ時間も長く、フィールドに22人もいますから、これをアニメで描くのは大変な作業です。

本作では、迫力あるスピーディなサッカーシーンを描くために3DCGを導入。手描きのパートとCGパートを上手く組み合わせることでダイナミックな競技シーンを作ることに成功しています。

3Dカメラを駆使して、サッカー中継でよく見る俯瞰の映像からググっと一気にそのまま選手に寄っていくダイナミックなカメラワークで試合の臨場感を創出、3DCGでは日本のセルルックのアニメキャラの表情を作りづらいですが、アップの時に顔ではなく足に寄り、顔のアップは手描きに切り替え、不自然さを最小限にとどめています。

3Dカメラは縦横無尽のカメラワークによって、ボール視点のカットで人から人へなめらかにパスがつながる様子を描くなど、映像ならではの方法でサッカーの魅力を的確に演出しています。

本作の試合シーンで、恩田は途中でプレイスタイルを変えて司令塔となり、パスをつないでいく展開になります。静止画のマンガだと、コマを割る必要もあるため、どうしても流動的にパスがつながっている感じを出しにくいですが、映画ではこれを3Dでワンカットでボールが人から人へつながる様子を描き、恩田のプレイスタイルの変更がチーム全体に大きな影響を及ぼしていることが分かりやすくなりました。

モノクロとカラーの違いを活かして試合会場を変更

(C)新川直司・講談社/2021「映画 さよなら私のクラマー」製作委員会

そして、漫画とアニメの大きな違いとして色があります。モノクロの漫画では、試合は中学校の校庭で行われるのですが、映画では立派な芝生と観客席のあるスタジアムに変更されています。モノクロ作品なら、校庭のグラウンドも緑の芝生もそれほど変わらない印象で描くことも可能ですが、色のついたアニメでは学校の校庭ではどうしても映えません。この試合は中学生の新人戦ですから、リアルなことを言えば原作が正しいですが、嘘になってもビジュアルを優先して、緑の芝生のスタジアムの方が最大の見せ場である試合をより良い印象に見せることを優先しています。



全ての画像を見る
NEXT|次ページ > 男女のフィジカルの壁を覆す情熱と技術

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録

(C)新川直司・講談社/2021「映画 さよなら私のクラマー」製作委員会