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【映画VS原作】『映画大好きポンポさん』が映像化の理想形だと感じた理由



どうやらcinemas PLUSで、「映画VS原作」という新連載が始まったようです。確かに原作付きの映像化には賛否両論がつきものなので、映画レビューサイトとしては大いにアリな企画でしょう。

でもまあ、さっそく企画タイトルを否定しようとしているライターが、偉そうに言っていいことではないんですけれども……。

なぜなら今回紹介する『映画大好きポンポさん』は、原作が持つ狂気・熱狂と劇場版の作り手のプライドが見事に融合した、近年稀に見る素晴らしい原作付きの映像化だったからです。

※以下、ネタバレあり

原作から受け継がれた2つの意志

映画の都“ニャリウッド”を舞台に、敏腕映画プロデューサーのジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネット(以下、ポンポさん)とそのアシスタント ジーン・フィニ(以下、ジーン)、俳優志望のナタリー・ウッドワード(以下、ナタリー)ら映画人たちの、映画作りにかける熱狂を描いた原作漫画『映画大好きポンポさん』。

その意志は、劇場版に2つの大きな要素としてしっかりと受け継がれていました。

上映時間90分への執念


カチッという音とともに刻まれる、「90:00:00」のタイムコード。

もうすでに映画を観た人の中には、このラストに快感を覚えた人も少なくないでしょう。

この「90分」という時間には、原作でも映画でも描かれている“ポンポさんの原体験”が大きく影響しています。




今やニャリウッドの敏腕名物プロデューサーとして名をはせている、ポンポさん。その実力と才能の土台には、祖父であり伝説のプロデューサーでもあるジョエル・ダヴィドヴィッチ・ペーターゼン(以下、ペーターゼン)の映画英才教育があります。彼女は幼いころからずっと、彼のもとでありとあらゆる映画を観ては、感想戦を繰り広げてきました。

ただ幼い頃のポンポさんにとってこの時間は、必ずしも楽しい時間ではなかったようです。彼女は、たとえ名作であっても2~3時間にも及ぶ大作を観るのがしんどかったと、そしてわかりやすい90分未満の映画が砂漠のオアシスのように感じられたと、語っています。

“上映時間が90分ってところですね”
※引用:映画大好きポンポさん(杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA) chapter6 P.145 ジーンのセリフより

ポンポさんが脚本を手掛けた劇中の新作映画「MEISTER」の監督に抜擢されたジーンも、原作と映画のラストでこの作品のお気に入りポイントを、にんまりと口角をあげながらこう言いました。

さらに本作の監督を務めた平尾隆之氏(以下、平尾監督)は、パンフレットで90分であることはマストだと考えていたと語っています。また作中でもキーとなる「編集」に携わった今井剛氏も、まさか本作自体も90分にするということに衝撃を受けながらも、約6分半オーバーした映像を90分ジャストに仕上げたそうです。

これらの事実からわかるのは、本作における「90分」という時間の重要性。これに加えてポンポさんには、今の映画界を担う映画人としての強い信念もあります。

“2時間以上の集中を 観客に求めるのは 現代の娯楽として やさしくないわ”
“製作者は シーンとセリフを しっかり取捨選択して できる限り簡潔に 作品を通して伝えたい メッセージを 表現すべきよ”
“削るべき要素を 残したままの ぶよぶよした 脂肪だらけの映画は 美しくないでしょう?”
※引用:映画大好きポンポさん(杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA) chapter4 P.61 ポンポさんのセリフより

「作り手の伝えたいメッセージ」が「上映時間90分」の中できちんと表現されている、「現代の娯楽として価値ある」作品かどうか――。
この作り手にとって少々、いやだいぶハードな使命を、劇中のキャラクターだけでなく、劇場版の制作(製作)陣までもが自らに課す、マゾヒスティックスタイル。

ラストのジーンのセリフ後に刻まれた、「90:00:00」のコードからは、「何が何でもきっちり90分のフィルムにする」という作り手たちの“執念”が感じられました。

一番見てもらいたいのは、誰?



90分という時間への執着が見えた『映画大好きポンポさん』ですが、実は原作、映画ともに、「MEISTER」の上映時間に関する具体的な指示はありません。90分という時間はあくまで、ポンポさんの信念です。「1分でも長い上映時間は嬉しい」という認識を持っている映画マニアのジーンなら、90分以上の作品を作り上げてもおかしくないようにも思えます。

しかし彼は、原作では17時間、映画では72時間にも及ぶ「MEISTER」の総撮影シーンを容赦なくカットし、きっちり90分のフィルムに仕上げています。その理由は、自分の映画を一番見てもらいたい人がポンポさんだったからです。

“その映画を一番見てもらいたい誰かのために作ればいいんだ”
※引用:映画大好きポンポさん(杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA) chapter5 P.108 コルベットのセリフより

世界一の名俳優マーティン・ブラドック(以下、ブラドック)を主演に迎えたこともあり、映画の撮影は順調に終了。ジーンは、ブラドックにふさわしい大作感を出していこうと編集の工程に進みますが、すぐに手を止めます。その時の彼の頭をよぎったのは、ポンポさんとよくタッグを組む映画監督コルベットから打ち入りパーティーの際にもらった、このアドバイスでした。

“この映画………間違いなくミャカデミー賞取っちゃうぜ”
※引用:映画大好きポンポさん(杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA) chapter6 P.136 ポンポさんのセリフより

ジーンはきっと、ただの映画マニアだった自分に映画監督という夢を叶えるチャンスをくれ、さらに作ったものに対して期待を寄せてくれたポンポさんに、映画で応えたかったのではないでしょうか。

その証が、上映時間90分。数々の名シーン、名台詞よりも、90分であることを一番のお気に入りとしてあげたところに、彼の「ポンポさんに見てもらいたい」という熱い想いが込められているように感じました。

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