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『いとみち」レビュー:女子高生とメイド喫茶と三味線の不可思議な融合からもたらされる青春の真摯な調べ



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

見出しに偽りなく「女子高生」と「メイド喫茶」を繋げたような作品なら、いくらでもあるでしょう。

「女子高生」で「三味線」を習っている人も、いっぱいいることでしょう。

しかし、この3つの要素が融合すると一体どういうことになるのか?

越谷オサムの原作を未読ということもあって、鑑賞前はもっとコミカルなテイストのものかと思いきや、その中身は決して暗くはないもののかなりシック&しんみり調で、なかなか自分の心を表に出せないヒロインの心情の推移が自然と見る側の胸へ染み入り、映画の進展とともに徐々に晴れやかな躍動感すら覚えるようになっていくのは奇跡的なほど。



主人公となるいとの訛りのきつさは、東京出身の父親(豊川悦司)ならずとも全ての台詞を理解しきれないほどですが、そういったリアルさをこれが主演2作目となる駒井連が見事に醸し出してくれています。

彼女をはじめキャストの多くは青森県出身で、横浜聡子監督も同様という、そういった郷土に対する思い入れみたいなものも好ましく画に反映されており、さらにはおよそ1年かけて習ったという駒井連の三味線演奏の素晴らしさ!



その伝では、彼女のおばあさんハツエに扮した西川洋子が新藤兼人監督の名作『竹山ひとり旅』(77)の主人公としても知られる津軽三味線の名匠・高橋竹山の最初の弟子であったという事実を知るに、もはやそこにいるだけで映画の空気感を柔らかくもしっかりと決定づけてくれる存在感に感服してしまいます。

また冒頭のほうで語られる「人が歩いた後に道ができる」とは、青函トンネル建設を題材にした森谷司郎監督『海峡』(82)の中で主人公(高倉健)の信念として幾度も唱えられた言葉でもあり、つまりはこの映画のタイトル『いとみち』とは、ヒロインのいとが歩む後から道ができていくという、そんな彼女の人生にエールを贈るタイトルでもあるのでした。



(森谷監督といえば、彼の代表作『八甲田山』(77)の劇中軍歌《雪の進軍》を豊川悦司が歌うお遊びにもニンマリ)

冒頭ではガチガチに硬い(というか無表情に近い)いとの表情が、徐々に徐々に感情の喜怒哀楽を伴いながら柔らかく豊かになっていく過程の描出は、映画ならではの優れた醍醐味であるともいえるでしょう。

気がつくと、とても気持ちの良い真摯な映画を見せてもらったという、そんな印象に包まれてしまうこと必至の青春映画の秀作です。

(文:増當竜也)

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