『竜とそばかすの姫』レビュー:仮想空間の細田守版『美女と野獣』から導かれる現代少女のリアル
ネットと現実の対比から
浮かび上がる少女の心理
さて、こうした世界中のクリエイターが集結しての仮想空間〈U〉と対比するかのように、ヒロインすずが実際に生活している田舎の現実空間は『サマーウォーズ』や『おおかみ子どもの雨と雪』などを彷彿させる非常に素朴で味わい深いもの。その現実世界の中で、すずは絶えず自分に自信なさげにオドオドし続けています。
しかしながら〈U〉の華やかなベルと現実の地味なすずのギャップは、ひいてはすず自身の青春のリアルな息吹を躍進させていくことにも繋がっていくのでした。
その意味では今回、すず&ベルの声を担当したミュージシャン・中村佳穂を讃えないわけにはいかないでしょう。
とにもかくにも〈U〉の中でベルとして歌う歌曲の圧倒的迫力と感動!
(クライマックス、すごいことになってます!)
また、それによって声優としては初挑戦ゆえの若干のぎこちなさ(でも十分許容範囲)も、特にすずの内気さまで巧まずして表現し得ることになり、ひいては華やかコスチュームのベル以上にそばかす少女すずの魅力を増幅させ得る結果となっています。
細田作品は現実世界と異世界の交錯を描くことが常ではありますが、特に映画デビュー作の短編『劇場版デジモンアドベンチャー』(99)や『サマーウォーズ』などを初見した際、とかく閉塞的な現実と、対するインターネット世界を壮大なスケールのものとして描こうとしている節を個人的には読み取ってしまったりもしたものですが、それは当時まだメディアとして目新しいものであったインターネットへの細田監督の無邪気な興味の素直な顕れでもあったのかもしれません。
(『劇場版デジモンアドベンチャー』の場合、発表時期が世紀末だったこともあり、同時期の『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』とも共通したテイストをどこかしら感じてしまいます。また、あたかも現実がデジタル異世界の影響下に置かれ、さらには封じ込まれているかのような錯覚すら受けてしまいました)
しかし今やネットがなければ人々の生活が保たれないほどに普及した現在において、現実とネットの双方をいかにバランスよく立ち回っていくかが今後の人々が生きていく上での大きな鍵になっていくであろうという、そんな予想を確信にまで転じさせて本作の製作にあたっているかのようでもあります。
壮大なるスケールの仮想空間〈U〉の存在によって、現実のちっぽけな高校生少女の思春期が少しずつ変わっていく、その繊細な過程こそを最大のキモとして描いていく『竜とそばかすの姫』、私自身はこれまで見てきた細田守監督作品の中で、一番好きかもしれません。
(文:増當竜也)
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