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2021年07月21日

『竜とそばかすの姫』解説|細田守作品が賛否両論になる理由が改めてわかった

『竜とそばかすの姫』解説|細田守作品が賛否両論になる理由が改めてわかった


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『竜とそばかすの姫』は劇場公開からわずか3日間で、動員数60万人、興行収入8億9000万円に到達する大ヒットを遂げた。

まず、本作は絶対に映画館の大スクリーンで観る価値がある。ネット空間の仮想世界〈U〉の広大さ、ダイナミックなアニメの表現、エモーショナルに炸裂する煌びやかな演出など、細田守監督およびスタジオ地図はもちろん、『ウルフウォーカー』(20)のトム・ムーアやロス・スチュアートなど、国内外の一流クリエイターが集結したからこそのアニメーションの力を思い知らされた。世界中で人気になることに説得力を持たせた楽曲と、中村佳穂の歌唱力も圧巻の一言。そのクオリティを世界最高峰と認めるのはやぶさかではない。

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だが、細田守監督は国民的なアニメ映画監督となった一方で、作品には極端なまでの賛否両論が渦巻く作家でもある。今回の『竜とそばかすの姫』は「細田守監督の最高傑作だ!」と絶賛の声が聞こえてくる一方で、終盤の展開に「倫理観が欠如している」と強い拒否反応を覚えている方も多く、全体的には賛否どちらに振り切れているというよりも、「良いところも悪いところもある」「ここはすごいけど、ここはちょっと……」と両論併記的に論じている方が多い印象だ。

そして、褒めるにせよ批判的にせよ、受け手がこれほどまでに「語りたくなる」のは、それだけで意義のある作品という証拠だ。そして、筆者個人の主観だが、本作は「なぜ細田守監督作品がここまで賛否両論を呼ぶのか」の理由が、これまでで最もわかりやすくなった一本だと思うのだ。その理由を記していこう。なお、記事の前半では『竜とそばかすの姫』のネタバレに触れていないが、後半では警告を記した上でクライマックスの展開を記している。

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1:「肯定」をする優しさがある

細田守監督は「現実の問題をファンタジーをもって描く」作家だ。例えば、『時をかける少女』(06)はモラトリアム真っ只中な少女の奮闘を、タイムループの能力から。『おおかみこどもの雨と雪』(12)はひとりぼっちで子育てをしていた母親の成長を、狼に変身できる子どもたちを通じて描いていた。 

それは寓話(比喩によって教訓的な内容を描く物語)でもある。特に『サマーウォーズ』(09)以降の細田守監督は自身や周りの家族に起きた出来事を作品に落とし込んでおり、その親しみやすい題材であるからこそ、登場人物に大いに感情移入ができ、現実で生きるためのヒントももらえる、寓話としての強度を高めていたように思う。

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同時に、そこには「この人のこういうところを肯定してあげたい」という優しさもある。例えば『サマーウォーズ』は、親戚にいる「普通の人たち」の「特別なところ」が世界を救う大きな力になる物語だった。そして、往々にして現実の世界にあるさまざまな問題に苦しみ、そして立ち向かう人たちへのエールになっているからこそ、細田守監督作品は絶大な支持を得ているのではないだろうか。

今回の『竜とそばかすの姫』は、設定からわかりやすく、その細田守監督の「現実の問題をファンタジーをもって描く」「この人のこういうところを肯定してあげたい」作家性が、最大級に表れているように思う。

なぜなら、ネット空間の仮想世界〈U〉におけるボディシェアリング技術は「その人の隠された能力を無理やり引き出す」という設定であり、母を亡くした少女が「歌」により自己実現をして、そして誰かを救う物語が紡がれているからだ。ネットの誹謗中傷や行き過ぎた正義を振りかざす者などの現実の問題も描きながらも、その少女の「力」や「想い」を全肯定してあげているという優しさは、ストレートに伝わってきた。

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2:現実からファンタジーへの大きな「飛躍」がある

だが、現実とファンタジーは往々にして全く違うものだ。そして、その現実の問題を真摯に考えている人ほど、細田守監督作品に違和感を覚えてしまうのではないだろうか。

例えば、『おおかみこどもの雨と雪』では児童相談所の職員が自宅訪問をしてきて、虐待やネグレクトを疑われる、リアルというよりも生々しい現実の問題が描かれていたりもする。もちろん、そこには「狼に変身してしまう子どもであることがバレたら大変なことになる」というファンタジー要素による理由があるし、間違っているものとしても描かれているのだが、定期検診や予防接種にも行かずに閉じこもっている母の行動そのものに、現実的な観点から必要以上の拒否反応を覚えてしまうのも致し方ないだろう。これは、現実の問題とファンタジーが「同居」しているからこその、居心地の悪さを覚えてしまうシーンでもあるのだ。

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それはまだ「過程」だからスルーできても、物語の「結論」にも大いにファンタジーが侵食しているのも細田守監督作品の特徴だ。『おおかみこどもの雨と雪』における最後の母の決断が批判されるのもそのためだろうし、それに限らず細田守監督作品には現実からファンタジーへの大きな「飛躍」があり、そこにも違和感を覚える方も多いのではないか。特に、『未来のミライ』(18)は「わがままな4歳の男の子の成長」が、終盤でファンタジー要素と共に提示されるテーマと全く結びついていない印象があった。

もっと端的に言えば、「ファンタジーだからそうやって解決できるけど、現実ではそうはならないよなあ」と思ってしまいかねない「危うさ」が、細田守監督作品には確実にある。もちろんそれは作品としての特徴そのもの、むやみやたらに全否定されるものではないが、やはり好き嫌いが分かれる理由にはなっているだろう。その違和感を覚えたまま、前述した「この人のこういうところを肯定してあげたい」という細田守監督の心からの「善意」と結びついてしまうと……「それは違うと思う!」とさらに強い拒否反応を覚えてしまうのではないか。

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その現実からファンタジーへの大きな飛躍は、時に「物語運びの強引さ」という、はっきりネガティブな要素にも結びついているように思う。例えば『バケモノの子』(15)の後半では、展開そのものが唐突で、観念的な要素ばかりで納得がしにくいという意見も多くみられたのだから。

そして、今回の『竜とそばかすの姫』では、終盤に強引を超えて、誰もが「いやいやいや、おかしいでしょ!」と思ってしまうツッコミどころが、ある1点で限界突破してしまっていたというのが、正直なところだ。

さて、以下からは『竜とそばかすの姫』のクライマックスのネタバレに触れている。観賞後にご覧になってほしい

※次ページからは『竜とそばかすの姫』の重大なネタバレに触れています!

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