映画コラム
女性スパイ映画の変遷と見る『ブラック・ウィドウ』の変化
女性スパイ映画の変遷と見る『ブラック・ウィドウ』の変化
スカーレット・ヨハンソン主演映画『ブラック・ウィドウ』が劇場で公開中、Disney+(ディズニープラス)で配信中です。
本作は「007」シリーズや「ミッション:インポッシブル」シリーズの流れを汲んだ迫力のアクションに、「女性の解放」や「家族」といった深いテーマを盛り込んだスパイ映画の最新版。
シリーズを追っていない人でも楽しめるスピンオフ的な内容で大人も満足できるシリアスなドラマ展開のため、多くの人にオススメしたい一作です!
2010年の初登場から約11年を経て、いまや映画界における女性ヒーローの象徴にもなったブラック・ウィドウは、時代に合わせて様々な変化を遂げてきました。
今回は、近年を代表する女スパイ映画3作品と共に、これまでの彼女の活躍を振り返っていきます。
『ソルト』(2010年)
アンジェリーナ・ジョリーが主演を務めた『ソルト』は、二重スパイ容疑をかけられたCIAの女性諜報員・イヴリン・ソルトの逃走劇を描くサスペンスアクション。
劇中では、男性だらけの組織に立ち向かう女性スパイの姿が印象的です。
公開時、主演のアンジェリーナ・ジョリーは「規則に従うように生きてきた女性が自立し、本当の自分を見つける物語」と称しており、男性スパイ映画が主流だった当時としては革新的な作品だったと言えるでしょう。
(実は、もともと本作も男性主人公の脚本を練り直したという裏話があります。)
同年には『アイアンマン2』が公開され、ブラック・ウィドウが映画に初登場します。
本作では主人公を誘惑する女スパイという役回りで、自身の美貌を武器に男性を翻弄する姿や体操選手のようなアクションシーンが描かれていました。
当時のスカーレット・ヨハンソンは、本作におけるキャラクター像を「セクシーさだけを売りにしていないミステリアスな人物」と語っており、脚本時から積極的に人物設計に携わっていたそう。
しかし、この時点では、両作ともに男性社会の中で彼らを巧みに騙す「魔性の女」というイメージが強かったと言えるでしょう。
『アトミック・ブロンド』(2017年)
シャーリーズ・セロンが主演を務めた『アトミック・ブロンド』は、冷戦終結直前のベルリンを舞台にMI6のスパイ・ロレーン・ブロートンが活躍する物語。
劇中では自立したクールな主人公像が一貫しており、スタイリッシュなアクションシーンが特徴的です。
タフな主人公を演じるにあたって、シャーリーズ・セロンはあえて優秀な男性スパイを参考に役作りをおこない、製作にもプロデューサーとして携わっています。
そのため、劇中では、男性社会の中で対等に戦う「強い女性」の姿が描かれているのです。
一方、前年には『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』が公開され、対立するヒーローたちの一員として、ブラック・ウィドウが再登場しました。
劇中では、アイアンマン陣営に所属する彼女ですが、次第にグレーな立ち場へと変わっていくため、独立した行動をとることになります。
組織に囚われずに自身の信念を貫く姿は初登場時とは大きく異なっており、「自立した女性像」が強調されたようにも感じられるのです。
『チャーリーズ・エンジェル』(2019年)
TVや映画などで繰り返し映像化されてきた『チャーリーズ・エンジェル』は、女スパイ映画の変遷を辿る上でも重要な作品といえます。
クリステン・スチュワート、ナオミ・スコット、エラ・バリンスカの3人が女スパイチームとして活躍した本作は、過去2作の映画版以上に「自立した女性像」が強調されているのです。
これまで多用されていたコスプレ的変装シーンや肌の露出を削減した本作では、各メンバーが自立しているがゆえに衝突。
知性などで勝負をする描写もあり、過去作の「キュートで強い女性像」から「クールで強い女性像」へと変化していることが分かります。
また、ここまで紹介した2作の女スパイ映画と異なり、女性のエリザベス・バンクスが監督を務めたことにも注目すべきでしょう。
製作においても女性が積極的に参加できるようになり、よりリアルな女性像を描くことが可能になったのです。
同年には『アベンジャーズ/エンドゲーム』が公開されました。
約30名以上のキャラクターが登場した本作でも、ブラック・ウィドウは確かな存在感を発揮しています。
かつてはサブキャラクターとして登場した彼女が、「チームを結束させる女性」として描かれた物語には感慨深いものがあります。
シリーズ屈指の大活躍を経て、ついにブラック・ウィドウは単独映画デビューを果たしました。
スカーレット・ヨハンソンが製作総指揮として名を連ね、物語と映画製作の双方でリーダー的な立ち位置となった『ブラック・ウィドウ』。
長年にわたる彼女の思いが結実し、女性スパイ映画としても歴史的な一作となった本作をぜひ多くの方々に見届けていただきたいです!
(文:大矢哲紀)
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