『キネマの神様』山田洋次監督による名物シリーズ集大成『男はつらいよ おかえり寅さん』
(C)2021「キネマの神様」製作委員会
2021年8月6日より最新作『キネマの神様』が公開される山田洋次監督。
現在89歳にして今や現役映画監督最長老のひとりといっても過言ではない名匠・山田監督ではありますが、そんな彼の代表作と言えば、何といっても1969年よりスタートした『男はつらいよ』シリーズ。
そして、およそ50年の歳月を経て、ついにシリーズ最新第50作『男はつらいよ おかえり寅さん』が2019年に公開されたのでした!
一度は終わったはずの
長寿シリーズまさかの新作!
『男はつらいよ』シリーズに関して、今更総多くのことを語る必要はないでしょう。
ただ、主人公の寅さんこと車寅次郎を演じ続けた渥美清が1996年に亡くなったことで、シリーズは第48作『男はつらいよ 寅次郎紅の花』(96)をもって一旦ピリオドを迎え、1997年に第25作に追加撮影&再編集を施した『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇』(97)を発表し(現在これが第49作としてカウントされています)、以後長らく新作は作られないままでいました。
主演俳優が死んでしまったのだから、作れるはずもないでしょう。
またこの長寿シリーズの場合、渥美清以外の寅さんなど絶対に考えられず、別の俳優でシリーズ継続という方法など採れるはずもありませんでした。
しかし、実はシリーズ新作を作る意外な方法が、実はひとつだけあったのです。
それは、いつ故郷の葛飾柴又に帰ってくるかわからない寅さんのことを思い続けているレギュラー陣の「今」を描けばよいのだと!
閉塞的時代の空気の中
寅さんと過ごした人々の今
かくして2019年に完成した『男はつらいよ おかえり寅さん』は、『寅次郎紅の花』から20年以上経った寅さんの甥っ子・諏訪満男(吉岡秀隆)を中心に、寅さんゆかりの人々の今が描かれていきます。
昭和から平成、令和へと至る時代の流れの中、多くの日本人が閉塞的な雰囲気に包まれたまま息苦しい日々を過ごしています。
寅さんの実家・車屋はカフェになっており、店主のおいちゃん(森川信or松村達雄or下条正巳)&おばちゃん(三崎千恵子)は既に亡く、寅さんの妹さくら(倍賞千恵子)と夫の諏訪博(前田吟)もすっかり老けました。
お隣のタコ社長(太宰久雄)も亡くなり、工場は娘の明美(美保純)が継いでいます。
そして、さくらと博のひとり息子で脱サラして小説家になった満男もまた、妻を亡くして七回忌を迎えたばかり。
愛娘のユリ(桜田ひより)が父に理解あるのは救いではありますが(父は娘に初恋の女性の話を普通にし、娘もまた父の再婚に理解を示しています)、それでもどこかやはり忸怩たる日々を過ごしていた満男は、ある日初恋の女性イズミ(後藤久美子)と再会を果たすのでした……。
みんなが寅さんの帰りを
すっと待ち侘びている
『男はつらいよ』シリーズは第42作『男はつらいよ ぼくの伯父さん』(89)以降、青春期真っ盛りの満男を中心にしたエピソードに比重を置くようになり、そこに寅さんが関わっていく構図が多く見受けられるようになっていきました。
そんな満男の初恋の相手がイズミであり、『寅次郎紅の花』では満男がイズミの結婚を阻むことで改めてふたりの絆が強くなっていくさまが描かれていたことで、シリーズのファンのほとんどはきっとふたりは結ばれたのだろうと思い込んでいました。
しかし、「あゝ人生……」とはこのことで、どういういきさつがあったかまでは明確に語られませんが、結局ふたりは別れ、それぞれ別の道を歩んでいたのです。
果たしてふたりの恋は再燃し、もしかして今度こそ結ばれることはあるのかないのか?
ファンの焦点はそこに絞られていき、同時に彼らの過去がシリーズ・ライブラリーを用いた回想として流されます。
勿論その中には寅さんもいます。
実は寅さんこそ、ふたりの恋のキューピッドみたいな存在だったのです……。
そう、本作は劇中あちこちにシリーズ名場面が挿入されては、若き日の寅さんの名物エピソードが回想されていきます。
その賑やかさと、現代のもの寂しさのギャップは一体何なのだろう?
本作には寅さんの永遠の恋人たるリリー(浅丘ルリ子)も、イズミの母・礼子(夏木マリ)も、またシリーズ常連俳優たちも役割を変えて次々と登場していきますが、そこには懐かしさもさながら、寅さんがいないことの寂寥感みたいなものまで醸し出されていきます。
寅さんは今どこにいるのか……。
シリーズのレギュラー陣をはじめとする登場人物たちの想いは、そのまま見る側の想いと直結し、ひいては寅さんは永遠なる存在として刻印されていくのです。
実際、本作を見るとこの後も『満男はつらいよ』をシリーズ化できるのではないかと思えるほどに満男の存在感が際立ってはいますが、『男はつらいよ』シリーズそのものは、この第50作で完全に完結でしょう。
そして映画ファンはいつまでも全50作を繰り返し繰り返し見直しては、いつかは寅さんが葛飾柴又に帰ってくるのではないかと待ち侘びるという、まさに映画的な永遠の夢と希望を抱かせてくれるのでした。
(文:増當竜也)
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