2021年08月12日

『ジュゼップ 戦場の画家』レビュー:現在も過去も、未来でさえも蔑ろにしない。鮮やかな筆致でラストまで描ききる職人技

『ジュゼップ 戦場の画家』レビュー:現在も過去も、未来でさえも蔑ろにしない。鮮やかな筆致でラストまで描ききる職人技



『ジュゼップ 戦場の画家』は、実在の画家ジュゼップ・バルトリの半生を描くアニメーション作品だ。彼はスペイン内戦時代に共和国軍サイドでフランコと戦い、1939年にはフランスの強制収容所で難民生活を経験。1942年にメキシコへ亡命し、フリーダ・カーロと関係をもち、1945年にはニューヨークに拠点を移した。画家としては異色の経歴、というか人生だろう。

以下、少しだけネタバレしてしまうかも知れないが、予告編で思いっきり触れているので可と判断する。筆者は予告編を観ておらず本編から観たのだが、まず冒頭で驚かされた。不穏なオープニングを観るにつけ、こちとら「ああ、これから強制収容所のキッツい生活とか出て、それでも絵を描くことを諦めない画家の話が始まるのだな」と思いきや、突如親子が車内で会話をするシーンに切り替わる。息子はイヤホンをしてヒップホップを聴き、ホームレスの老婆が佇む横に描かれた壁のグラフティを模写する。息子は年老いた祖父の見守りを言い渡され、祖父から「昔話」を聞かされることとなる。つまり祖父が「現在から回想する」という形で物語が駆動していく。



現代から過去、過去から現代へと時代を飛び越えて紡がれる語りは「むかしむかし……」の如く良くあるが、本作はさらに劇中でジュゼップ・バルトリ本人の作品を使用し、イラストレーターでもある監督のオーレルが全体としての一枚絵に仕上げている。これは「そのまんま使いました」といったレベルではなく、凄まじきリスペクトに溢れており、紡がれる語りと同じく現代から過去、過去から現代へと時代を飛び越えて、入れ子のような構造になっている。オーレルは現在も過去も、未来でさえも蔑ろにしない。全ての時代にしっかりと落とし前をつけて、色を獲得したジュゼップのように鮮やかな筆致でラストまで描ききる。さては職人仕事である。

『ジュゼップ 戦場の画家』は絵も強いが、音楽も強い

ジュゼップが収容されていたのは、検索をかけるにアルジュレス=シュル=メール強制収容所だが、おおよそ「収容所」の体を成したものではなく、砂浜を鉄条網で囲っただけのもので、人々は砂浜を掘って寝ている有様だったそうだ。作中でも徐々にバラックが建てられてていく様子が描かれている。もちろん衛生状態は最悪で、食料もない。被収容者の人権もあるわけがない。そんななかでも、被収容者たちは尊厳を失わず、連帯して必死に生きている。と書くと牧歌的に過ぎるような気もするし、おそらく「収容所の描き方がヌルい」といった指摘もあるだろう。

だが、筆者が見積もるに過不足はない。まず「憲兵であった老人の回想」で物語られている時点でその問題はクリアされている。そもそもジュゼップ本人が収容所内で描いた絵がそのまま出てくるのだから、これ以上にシンプルで強い表現があるか。



「シンプルで強い」といえば、本作は音楽も強い。口笛から葬送曲、収容所での「ちょっとしたお楽しみ」で披露される歌、マリアッチの演奏、エンドロールまで、一切妥協がない。冒頭のヒップホップを入れれば、これとて現代から過去、過去から現代へと時代を飛び越えている。さては職人の仕事であろう。



さて、奇しくも2021年の夏には『ジュゼップ 戦場の画家』とともに、ユダヤ人がナチス(ドイツ)について復讐を企てる『復讐者たち』や、第二次大戦中にジェノサイドに加担したノルウェー警察の罪を描く『ホロコーストの罪人』など、強制収容所に関連した作品がスクリーンにかかる。

ただ、いずれも軽くはない作品なので、連続で観るには胃がもたれてしまう方もいるはずだ。なので個人的には『ジュゼップ 戦場の画家』と組み合わせるなら『ベルヴィル・ランデブー』をおすすめする。『ジュゼップ 戦場の画家』とはテーマこそ違えどアニメーション作品であり、別種の感動を味わうことができるはずだ。ちなみに『ベルヴィル・ランデブー』は製作20周年を機にリバイバル上映されている。本作の構造と同じく、続けて観れば現代から過去、過去から現代へと時代を飛び越えることができる。さては運命の仕業であろう。

(文:加藤 広大)

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