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『ドライブ・マイ・カー』における車の重要性|監督の過去作と「車」の関係性を振り返る

濱口監督作品と「車」の関係性


濱口竜介監督が手がけた作品では、これまでも「車」が登場する名場面が多々描かれてきた。
ここからは彼の監督作品の中から3作品を抜粋して、その魅力を紹介していきたい。

『PASSION』



1組の男女が婚約発表をしたことで6人の男女に恋愛トラブルが巻き起こる群像劇『PASSION』では、タクシーの車内から見た窓に、タイトルが映し出される冒頭場面からインパクト抜群だ。
(目的地であるレストランの出来事から、彼らに思わぬ騒動が巻き起こる。それゆえ、タクシーは物語を動かす装置としても機能している。)

また、劇中では、男たちが貸切状態のバスでじゃれ合う様子がおさめられている。
この場面からは、彼らの"親密さ"が浮き彫りになっているといえるだろう。

特に必見なのは、クライマックスの長回しシーンである。
婚約者のいる果歩に、必死に好意を伝える健一郎。
この場面では、彼らのモーションと一致するように車体の動きが捉えられる。
偶然に撮影されたというこのショットは、役者の自然な動きや状況に応じて、撮影方法を考えるという濱口監督の作品ならではの名場面と言えるだろう。

『ハッピーアワー』



世界の映画祭でも高く評価され、濱口監督の名前を知らしめた一作『ハッピーアワー』では、人間関係を象徴する場所として、車内が効果的に使われている。

男性とその妻の親友、不仲の夫婦、既婚者の男性と彼に思いを寄せる女性など、気まずい空気が漂う空間として、車内が多用されるのだ。

中でも印象的なのが、バスの会話シーンだ。
温泉旅行の帰り道、友人と別れて、1人でバスに乗って帰ることにした女性・純。
彼女は旅先で出会った観光客・葉子と再会し、ほぼ初対面の二人が車内で会話をすることになる。
独特な気まずさに何とも言えない滑稽さが漂い、思わぬ顛末が待ち受けるこの場面。
それは、まさしく"人が出会っては離れていく人生の営み”を描いた『ハッピーアワー』において、世界観とテーマを象徴する名場面といえるのだ。

『寝ても覚めても』



上映規模も大幅に膨れ上がり、濱口竜介監督作品の中でも比較的知名度が高い『寝ても覚めても』も「車」の存在が重要な一作だ。

『ドライブ・マイ・カー』と同様に、東京・大阪・仙台など、広いロケーションが舞台となった本作では物語の転換として「車」が使用される。

そして、その存在が物語に大きな波乱を巻き起こすことになるのだ。
まるで、これまでの展開を突き放すように、主人公・朝子を驚くべき世界へ連れ出してしまうクライマックスの「車」。
その重要性は作品をご覧になれば、理解できるはずだ。

終わりに


巧みな会話劇を成立させ、人々の心の交流を描いた傑作『ドライブ・マイ・カー』。

カンヌ国際映画祭の最優秀脚本賞に選ばれたことにも納得の脚本には、多くの観客が胸を打たれる印象的な言葉が凝縮されている。

そんな物語を支えたのが、ほかならぬ「車」の存在である。
"車内"は限られたようでいて、無限の可能性を秘めた舞台空間なのだ。

この冬に公開予定の短編オムニバス『偶然と想像』内の1編でも、車内の会話劇を描いていると公表している濱口竜介監督。

監督は、これから先、「車」という空間をもちいて、私たちをどのような場所へ連れて行ってくれるのだろうか……。

今後の作品にも期待しながら、いち映画ファンとして、その動向を追いかけていきたい。

(文:大矢哲紀)

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