映画音楽家<佐藤直紀>の2021年が凄すぎる! 「青天を衝け」「るろ剣」「五輪表彰式」など!
多彩なメロディーを生み出す“佐藤直紀節”がエモすぎる
前述のように佐藤さんの音楽の持ち味は、なんといってもハリウッド的なダイナミズムと物語をより情緒豊かにする繊細さにあります。“佐藤直紀節”とも言える特徴的なサウンドメーキングは初期作から顕著で、たとえば『海猿』や『ローレライ』で鳴り響くヒロイックなメロディーは勇壮かつ明解で、1度聴けばサビのフレーズが記憶に残るはず。
特に『ローレライ』は悲壮感を漂わせるトランペットやキャラクターを鼓舞するようなオーケストラ&コーラスの畳みかけは、同じく潜水艦を扱ったトニー・スコット監督の『クリムゾン・タイド』の音楽を彷彿とさせるほどです。
ちなみに佐藤さんは「オールタイム・ベスト 映画遺産 映画音楽篇」の“好きな映画音楽作曲家”の1人にハンス・ジマーを挙げているので、もしかすると『クリムゾン・タイド』を意識して曲作りに挑んだのかもしれません。
ジマーの他にジョン・パウエルやアラン・シルヴェストリを好きな作曲家に挙げていることからも想像できるとおり、佐藤さんの楽曲もスピード感あふれるアグレッシブなものが目立ちます。
佐藤節の1つに太鼓などの打楽器でドラムリズムを前面に押し出した曲があり、ソードアクションが冴えわたるアニメ映画『ストレンヂア 無皇刃譚』(07)の「羅刹の宴」や『劇場版 BLOOD-C The Last Dark』(12)の「ミッションスタート」、『るろうに剣心』の「暁闇の戦い」、「喧嘩上等!」などはまさに好例です。
佐藤さんの荒々しいパーカッションやドラムリズムは、『るろうに剣心』シリーズで発揮されているように歴史モノとの相性が抜群。わかりやすいのが山崎貴監督の『BALLAD 名もなき恋のうた』(09)で、戦国時代が舞台だけに「火縄銃撃戦」全編で鳴り響くのは力強い太鼓サウンド。そして「助太刀」のドラマチックな“泣きメロ”から一転して響き渡る後半の勇ましい太鼓の音色は、邦画だからこその魅力と邦画の域を超えた迫力を同時に兼ね備えた楽曲として輝きを放っていました。
また「助太刀」前半パートの泣きメロのように、佐藤さんが紡ぎ出す繊細なメロディーはとにかく涙腺を刺激したり胸に深く突き刺さるものばかり。
たとえば生者と死者の再会を題材とした松坂桃李主演作『ツナグ』(12)の「約束」という曲で王道的に泣きメロをクリエイトしたかと思えば、『寄生獣』『寄生獣 完結編』(14・15)では女性コーラスとストリングスに主旋律を託した「母愛」がウェットな悲壮感を生み出すことに……。
他にも『ウォーターボーイズ』シリーズと同じく青春の躍動感に触れられる作品として、カーリング女子を描いた『シムソンズ』(06)の「Last Stone」や『暗殺教室』の「やっぱり殺せんせー」もぜひ聴いてほしい佐藤節の楽曲。民族音楽的な様相を呈する『ホットスポット 最後の楽園』シリーズ(11・14)を筆頭とした、NHKドキュメンタリー番組のサントラ群もおススメです。
進化を続ける音楽がたどりついた現在の着地点
※『新時代へ』(作曲/佐藤直紀 演奏/読売日本交響楽団)日テレ×読響×人気作曲家佐藤直紀
オーケストラやシンセサイザー、ロックテイストなど変幻自在のサウンドで映像を支える佐藤さん。その音楽は初期から現在にかけて着実に進化を続けているだけでなく、近年は敢えてスタイルの固定を避けるかのような変化も見られます。初期作品の多くが明朗なメロディーをテーマ曲に据えているのに対し、最近は楽曲の独り歩きを防ぐ意味合いがあるのか映像に寄り添うサウンドが目立ってきたような印象。
といっても『罪の声』(20)や『名も無き世界のエンドロール』のように、決して印象に残らないというわけでもない。あくまで“作曲家・佐藤直紀の音楽”という性質は一貫しているのです。
そういった意味では、音楽そのものが美しい『青天を衝け』は佐藤さんにとって1つの到達点であり現在地点と呼べるかもしれません。同じ大河ドラマのテーマでもハリウッドで活躍するリサ・ジェラルドをボーカルゲストに招いた『龍馬伝』の華やかさとは対照的に、『青天を衝け』では主人公・渋沢栄一という1人の男の人生と、明治維新を迎える日本の運命そのものを楽曲に昇華した威厳のある音楽に仕上がっていることからもその差は明らか。映像に被さって“主張”するのではなく、映像に合わせて“表現”する作曲スタイルに舵を切っているのではないでしょうか。
今後佐藤さんがどのような作品にクレジットされるのか、タイトルとともにぜひ音楽にも耳を傾けてみてください。
(文:葦見川和哉 )
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