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『空白』レビュー:不幸な事故がもたらす負の連鎖から見え隠れする人生の「罪」と「罰」、そして……!?



■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

正直に告白しますと映画の最初の30分ほど、不幸な事故がもたらす無念と怒りが悪意と化していくさまは、見ていて本当につらくきついものがありました。



暴走キャラにもほどがある主人公オヤジ(古田新太)の傲慢不遜すぎる性格、事故のきっかけを作ってしまった若きスーパー店長(松坂桃李)の受け身すぎる心の未熟さ、加えて事件を面白おかしく採り上げることにしか興味がないマスコミのゲスさや、善意の押し売りもまた悪になりえることに無自覚なスーパー店員(寺島しのぶ)の存在など、悪意が次なる悪意を生んで取り返しのつかない事態に陥っていく負の連鎖は、思わずその場から逃げ出したくなりそうなほどです。

(これがTVドラマなら、チャンネルを変えてしまう人も多いかもしれません。そこがまた本作が「映画」であるという所以でもあるのですが)



しかし、ある瞬間から流れがふっと変わっていきます。

それが何であるかを今ここで記すわけにはいきませんが、そこからは徐々に、もはや言葉にすらできない想いが映画全体に浸透し始めていき、最終的には人間の人生そのものに対する何某かの感慨が大きな波のようなカタルシスとなって見る側に覆いかぶさっていきます。

今回は𠮷田恵輔監督のオリジナル企画ですが、従来の彼の作品群はシビアな内容でもどこかしらブラックなものも含めたユーモアが見え隠れしていました。

ところが今回は真正面から現代社会の中で人が生きていく上での罪と罰をストレート・パンチとしてがんがん打ち込んでいきますので、その痛みもハンパではありません。



誰もが被害者であり、誰もが加害者であるという本作の流れもまた、どちらかといえば直視せずにすましておきたいものではあるでしょうが、そこをあえて直視させていく痛烈さもまた、この監督の覚悟のほどを大いにうかがわせてくれています。

もはや彼以外にこの役は演じられなかったであろう古田新太、線の細さを骨太の姿勢で演じることに長けた松坂桃李、そして実際に事故を起こしてしまった加害者の母を演じる片岡礼子など、キャスト陣の好演も大いに讃えたいところ。



『空白』というタイトルが意味するものも、最後まで見終えると、頭ではなく肌で理解できることでしょう。

本年度の東京国際映画祭で本作も含めた特集上映も決定した𠮷田恵輔監督、渾身の傑作です。

(文:増當竜也)

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