【夏の終わりに観たい映画】ひと夏の恋を生々しく映し出す『きみの鳥はうたえる』
#Tags
【夏の終わりに観たい映画】ひと夏の恋を生々しく映し出す『きみの鳥はうたえる』
不器用でこじらせすぎている「僕」のひと夏の恋
「大人になればなるほど、恋愛は難しくなる」
学生時代は友達として仲良くなって、どちらかが好きになって、告白されて・して付き合う、という当たり前の順序を当たり前のように踏んでいたのにーーいつからだろう、気持ちよりも先に唇を重ねてしまうようになったのは。
結果、「お互いそこまでだった」となればなんの問題もないが、どちらかは気持ちがないのにどちらかが本気で好きになってしまったり、お互いに好意があるのにどちらからともなく言い出せない状態になってしまうとそれはもうややこしい。今すぐ使いたいイヤホンが修復不可能なほどに絡まっていて、適当にしまっておいた自分にイライラするくらいにはややこしい。
柄本佑演じる「僕」は、”大人になった男の恋愛のこじらせ具合”をまさに体現している。
「僕」は、同じ書店で働く佐知子とふとしたキッカケで、身体の関係を持つようになる。ちなみに佐和子は、書店の店長・島田(萩原聖人)と不倫関係にある(後からわかるのだが、島田は2年前に離婚していたので、実際には不倫関係ではなかったらしい)ことを「僕」も知っている。佐知子、なかなかのやり手。
「僕」は静雄と同居しているので、当然静雄も佐和子に会うことになる。「僕」と佐知子が初めてそういう風になっている最中に静雄が自宅に帰ってくるのだが、その様子に気付いてそっと引き返す。静雄、見かけによらず大人。
夜になってやっと帰宅すると、佐知子は「僕」と晩酌をしているところだった。汗でじんわり湿った肌とトマトを丸かじりする所作がなんとも事後のアレ。静雄、絶対ドキドキしてるだろって思わず突っ込みたくなる。
それから毎日のように3人で酒を飲んだり、クラブで踊り明かしたり、ビリヤードをしたりする。僕と佐知子は引き続き付かず離れずな関係。どちらかが一歩踏み込めば恋人になる可能性は大いにあり、少なくとも「僕」は本気で佐知子のことを好きになっている。そう、本気で好きになってしまったからこそ、その一歩が踏み出せないのだ。
「静雄に映画誘われちゃったー」と言う佐知子(静雄は酔っていた)、「行ってくれば」と言う「僕」。「自分で誘ったんだろ。行ってこいよ」という「僕」に、「なんで?なんでそういうこと言うの」と言う静雄、「佐知子が誰と映画に行こうと自由だよ」と言う「僕」。「私たちは友達?」と聞く佐知子に濁す「僕」。「静雄って…私と店長とのこと知ってる?」と確認されて独占欲が疼く「僕」。静雄が3人でキャンプに行こうと提案するも、「俺はいいよ」と断固拒否する「僕」。「もしかしてお前もさっちゃんのこと好きだったのか」と言う同僚・森口(足立智充)にムキになる「僕」。
見ているこっちがイライラしてくるほどのこのひねくれよう、本当にどうしようもない。最後の最後に佐知子が本当に自分から離れてしまうと気付いたときに、やっと本当の気持ちを伝えるわけだが、時すでに遅し。北海道での短い夏と共に、「僕」のひとつの恋が終わった。
本当はいつだってちゃんと幸せになりたい「佐知子」
ふらふらしてるように見える佐知子だが、本当はいつだってちゃんと幸せになりたいのだ。店長とは不倫関係だし、「僕」ははっきりしないし…
なにかしらのタイミングがあれば、佐知子は「僕」と付き合っていたはず。ただ、そのタイミングがなかっただけ。そしてそのタイミングが遅れれば遅れるほど、「僕」の深い部分を知っていく。「あ、恋人にはしない方がいい人かも」と感じてしまったのではないかと思う。それに、付き合っていたとしても遅かれ早かれ別れていたんじゃないだろうか。
初めて静雄と会った日の夜、静雄から借りたTシャツの匂いをかいでにんまりしていたし、最初から静雄に対してもまんざらではなかったんだと思う。ただただ、静雄だけが佐知子にちゃんと向き合ったまで。
ミステリアスな誠実さが光る「静雄」
良く言えば裏表のない、悪く言えばエゴイズムな「僕」に対して、いつも穏やかで自分よりも他人優先、若干掴みどころのない(だからこそ余計に気になってしまう)、そんな異なる魅力を持つ静雄。人思いだからこそ自身の生き方を見失っているような闇も伺える。
静雄は、最初から佐知子に惹かれていた。でも、「僕」との関係、そして「僕」の気持ちに気付いていたからこそ、その気持ちに蓋をしていた。ビリヤードやクラブでの僕と佐知子、静雄と佐知子の距離感の対比には心をチクリと刺された。
ただ、最終的には「俺が佐知子を守らないと」となったのだろう。そのキッカケになったと思われる佐知子とのふたりきりのキャンプの様子は、一切描かれていない(描かれていなくてもどんなことがあったのかはわかる)。キャンプから帰ってきた後に3人で行ったダーツで、明らかにふたりの距離感が縮まっていることに「僕」は気付いていたのだろうか。
無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。
無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。
(C)HAKODATE CINEMA IRIS
#Tags