韓国版『ジョゼと虎と魚たち』が繊細かつ大胆な最高峰のリメイクになった理由
2003年・日本の実写映画版
日本の実写映画版『ジョゼと虎と魚たち』は今に至るまで恋愛映画の金字塔として語り継がれている。その魅力は枚挙にいとまがないが、中でもヒロインであるジョゼのキャラクターは大きかったのではないか。高飛車な性格かつ大阪弁できつい物言いをする一方で、実は本音を打ち明ける時は素直でかわいらしかったりもするジョゼは、当時はまだ認知度は低かったし短絡的な表現かもしれないが(2006年に流行語大賞にノミネートされた)「ツンデレ」のはしりとも言えるだろう。明るく優しいだけでなく情けなさも合わせ持つ青年を演じた妻夫木聡と、気だるさもあるが可憐で愛らしい池脇千鶴も、本作が代表作だと言っていいハマり役だった。
足が不自由という障害を持つ女性との恋愛を描いたことも革新的だった。ジョゼの祖母は彼女を「壊れもん」と言い人前に彼女を出すことを良しとはしない、ひどい視野狭窄に陥っていた。引きこもり同然のジョゼのその生活を救ったのは、貧乏な大学生の恒夫だった。ジョゼに言われるがまま何かと世話を焼く恒夫は、一時的に就職活動のために家から足が遠のいたこともあったが、あることをきっかけにして2人は再会し、そして「新婚旅行」という名目で旅に出る。これは、障害を持っていたがために「他の世界」を知らなかった女性が、一生ものの出会いをする物語でもある。
だが、物語の根底には「切なさ」がある。例えば旅の途中、トイレを覗こうとする恒夫にジョゼはトイレットペーパーを投げながらも「あっち向いといて」と言う。これまでの彼女だったら「出て行け」と言いそうなところなのに、なぜ「あっちを向け」なのか。それは、恒夫が「離れていってしまう」ことを何よりも恐れていたからではないか。そして、ジョゼは水族館が閉館していたために見られなかった魚たちを、ラブホテルの映写装置で見る。そこで至福の時を過ごすジョゼは、「人魚姫」の物語になぞらえて自分の境遇を語る。彼女は間違いなく、「この時は」幸せだった。
ジョゼは、これまで閉じ込められた場所では知り得なかった世界を知った。その結果として苦しさも心の傷も残るが、同時に一生ものの思い出も胸に生きていける。そういう結末であると、個人的には受け取った。通常の幸せな恋愛映画とは異なるそのラストも、本作が唯一無二のラブストーリーとして多くの人の心に残り続ける理由だろう。
2020年・日本のアニメ映画版
2020年の日本のアニメ映画版は、まずアニメとしてのクオリティそのものが高い。表情豊かで可愛いキャラクターたち、美しく繊細な表現をもって、ジョゼが世界を知っていく過程が丁寧に描かれていた。ボイスキャストの清原果耶と中川大志も本業声優と全く遜色のない上手さで、その複雑な感情を込めた声の演技そのものにも感動があった。
原作と日本の実写映画版にはセクシャルな表現があったが、こちらは性的な話題はほぼ皆無であり、子どもが観ても問題はない。日本の実写映画版で女性にだらしないところがあった恒夫はより誠実な性格となり、新たに図書館でのエピソードも重要になっている。それらをもって、原作とも実写映画版とも違う形でジョゼの「夢」を描いたことに感動があった。
終盤のとある展開には賛否両論もあったが、その後のクライマックスとラストにかけては「こういう『ジョゼと虎と魚たち』の物語が観たかったんだよ!」と思った方も多いのではないか。ジョゼの辛い心境が丹念に綴られる一方、作品の雰囲気はいくぶん明るく、毒舌なジョゼとの関わり合いも全体的には微笑ましく楽しいものになっているので、まずは気楽に観てみてほしい。
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