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2021-12-09

「ヒロステ」レビュー:「僕のヒーローアカデミア」が観せてくれたコロナ禍での“最大の勝利宣言”

感染者数の増加や緊急事態宣言による中止や席数減など、エンタメの中でも舞台はコロナ禍で特に大きな影響を受けてきた。

2020年春に数回の上演のみで情勢をかんがみた中止を英断し、再度夏に日程が発表されたものの、上演が叶わなった作品。それが「僕のヒーローアカデミア」The “Ultra” Stage 本物の英雄(ヒーロー)(以下、「ヒロステ」)である。2度の中止を経てPLUS ULTRA ver.として、12月3日よりついに幕を上げた。


原作は「週刊少年ジャンプ」で連載中の「僕のヒーローアカデミア」。人口の8割が“個性”をもった能力者という世界を舞台に、無個性で生まれた主人公の緑谷出久(みどりや・いずく)が誰もが憧れるトップヒーロー・オールマイトから個性を譲り受け、最高のヒーローを目指すべくヒーロー育成の名門高校で切磋琢磨していく物語だ。


そんなストーリーも知らないまま、2.5次元作品から10年近く離れていた筆者は縁あって2019年の初演を観ることになり、芝居と音楽、ダンスで表現されるそのストーリーに魅了された。ステージを観てすぐに原作を読み、今ではすっかり作品のファンである。

もちろん、無念の中止となってしまった春公演のチケットも取っていて、まさに当時放送されていたアニメ4期の文化祭編のように、“受難”を超えて「千秋楽までなんとか上演を…」とハラハラとした気持ちで過ごしていた。それは、筆者だけでなく、おそらく多くのファンが同じ気持ちだったと思う。

そんな思いを背負った、待望の本作。スモークからキャラクターたちのシルエットが浮かび上がっていく。歌とダンスで前作のストーリーをなぞり、さらにPLUS ULTRA ver.として追加キャラクター(ヴィランズ)も登場したオープニング。その最後、キャストがずらりと並ぶ圧巻のステージの中心で、田村心演じる緑谷出久が力強く放つ「僕らはすべて乗り越えていく」という言葉には、2度の中止を乗り越えてその場に立つ彼らの思いが集約されている。


ついにこの日を迎えたという思いで、すでに涙なしでは観られない冒頭に始まり、個々のキャラクターが立った教室の様子や続々と現れるプロヒーローにワクワクする職場体験、舞台ならではの演出で、前作のストーリーをクロスオーバーさせながら描くヒーロー殺し・ステインとの対決など、2次元で見ていた世界が目の前でショーのように次々と展開されていく。

コミカルなテイストのものからロックナンバーやEDM、ヴィランの登場には不穏な雰囲気の楽曲など、さまざまなジャンルの音楽が世界観や心理描写を強調し、没頭させてくれる。さらに、歌とダンスを取り入れた表現が可能にしている密度の濃さと展開の早さによって、2時間50分(休憩20分込み)があっという間だ。


原作のセリフが絶妙に組み込まれている歌詞や、キャラクターの完成度の高さを目の当たりにしたら、作り手やキャストがいかに作品を尊重し、愛をもって臨んでいるのか、2.5次元舞台に初めて触れるという人にでもきっと伝わるだろうと思う。


もちろん原作を知らない人でもストーリーを把握しながら楽しめる作品であり、ファンにとってはメインストーリーの背景で各々過ごすキャラクターの挙動なども含めて見どころしかない、何度でも観たい作品に仕上がっている。


なにより、コロナ禍で2度もの中止を余儀なくされ、それでも公演を実施しようと立ち上がる「ヒロステ」の状況が、高校生の登場人物たちが逆境や大きな壁を乗り越えてヒーローになっていくというストーリーと重なりすぎているのだ。観客以上に悔しい思いをしてきたであろうキャストやスタッフの熱量が、これでもかとステージから伝わってくる。その極めつけが、カーテンコールでの客席降り演出だろう。

2020年秋以降、上演される作品も少しずつ増えてきているけれど、客席降りという演出は2020年以前の文化とすら思っていたし、世間体的な面も含め、リスクがあるものとされてきたのではないか、と思う。相当の苦労を乗り越えて、客席降りを実現させたことは想像に難くない。


キャストがステージを降りた瞬間、驚きと同時に、この作品はコロナ禍に“負けない”のではなく、“勝ちにきた”ということが伝わってきた。ステージからの後光を受けて客席に降りていく彼らの姿はまさにヒーローそのもので、この光景を見られたことに感動したし、死ぬ間際に思い出したいシーンNo.1になった。まだまだ油断のできないコロナ禍ではあるものの、“今最大の勝利宣言”を称えたい気持ちで、この文章を書いている。


コロナ禍において不要不急だとされてきたエンタメ。でも、こんな状況で心がすり減ってしまった人たちに、作品の中という別世界で人々を救ってきたヒーローが希望を与えることができる。それは、こういったエンタメだからこそなのではないか。舞台は観客がいて完成するとも言われるけれど、“本物のヒーロー”とは何かを問うこの作品が、エンタメの意義を体現すると同時に観客にとっての本物のヒーローになるという、この時代だからこその完成形を見せてくれたように感じた。

劇場では感染症対策ももちろんされている。健康不安以外の理由で観に行くか迷っている人には、まだチケットが買える公演もあるので、できれば劇場に足を運んでほしいし、劇場に足を運べないという人も大千秋楽の12月26日(日)の配信で、ぜひ「ヒロステ」の世界を感じてほしい。

(文:大谷和美)
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(C)堀越耕平/集英社・「僕のヒーローアカデミア」The “Ultra” Stage製作委員会