映画コラム

REGULAR

2021年12月15日

『ジャネット』解説:ヘドバンする若きジャンヌ・ダルクから見えるもの

『ジャネット』解説:ヘドバンする若きジャンヌ・ダルクから見えるもの




→『ジャネット』画像ギャラリーへ

あなたは想像できるだろうか?

幼少期のジャンヌ・ダルクがヘッドバンギングしながら、尼僧と議論を交わす映画を。

2021年12月11日(土)より渋谷・ユーロスペースにて公開されている『ジャネット』は、今まで30作品以上制作されてきたジャンヌ・ダルク映画の中で異彩を放っている。その斬新さから、フランス老舗の映画雑誌カイエ・デュ・シネマ2017年の映画ベストで2位に輝き、2018年には『ピンク・フラミンゴ』(72)で知られるジョン・ウォーターズの映画ベストにて1位に選出された。今回は、この奇妙な傑作『ジャネット』について掘り下げていくとしよう。

【関連記事】<解説>映画『ジャンヌ』を読み解く4つのポイント
【関連記事】『ダンサー・イン・ザ・ダーク』が賛否両論である理由と、それでも観て欲しい理由をいま一度考える。
【関連記事】『ラストナイト・イン・ソーホー』こんなもん最高に決まってるじゃないか。エドガー・ライトに映画館いっぱいの感謝を

ヘッドバンギングする若きジャンヌ・ダルクから見る思春期像



ジャネットは田舎町ドンレミで農夫の娘として生まれた。彼女は神の「声」を聞いたことで、ジャンヌと名乗り、王太子シャルル7世へ会いに行く。その後、オルレアンの戦いでイングランド軍に勝利し実力が認められるものの、彼女の過激な意見に反感を持つものが現れ始める。最終的に、コンピエーニュの戦いで捕虜となった彼女は異端者として宗教裁判にかけられ、ルーアンで火刑となった。17歳〜19歳の2年間におけるジャンヌ・ダルクの生き様は、ジョルジュ・メリエスを筆頭に、カール・テオドア・ドライヤー、ヴィクター・フレミング、リュック・ベッソンと様々な巨匠によって映画化されてきた。

しかし、本作は彼女が神の「声」を聞く13歳から王太子へ会いに行くことを決意する17歳までにフォーカスを当てている。「声」を聞いたジャンヌ(リーズ・ルプラ・プリュドム)は、周囲に疑問を投げかける。しかしながら、マダム・ジェルヴェーズ(アリーヌ・シャルル&エリーズ・シャルル)や友人オーヴィエット(リュシル・ゴティエ)は欺瞞に満ちた正論で彼女を潰そうとしてくる。



「あなたは何をしても物足りずに絶望しているだけ。」「指揮官になることはできないから働くしかない。」「あなたは愛しているふりをしている卑怯者だ。」と言葉の呪いをかけられるのだ。このような大人や社会という大きな存在に抑圧される普遍的な構図を描くために、15世紀には存在しないブレイクコアの音楽が採用されている。つまり、ジャンヌ・ダルクの物語を神話から民話に落とし込んでいるのだ。ヘッドバンギングをしたり、ロボットダンスのような静止と動作を繰り返す動きからは思春期の心理と肉体の関係性が感じ取れる。時として社会によって抑圧された感情が、肉体から溢れ出て思わず動き始めてしまうことは思春期の特徴である。

瀬田なつき監督の『ジオラマボーイ・パノラマガール』(20)では恋に溺れた渋谷ハルコが、その感情を抑えることができず終始、クルクルフワフワと動き回っている様子を通じて思春期における感情と肉体の連動を捉えていた。『ジャネット』でも同様に、神の「声」を聞いたジャネットは、その動揺を隠すことができず、ヘッドバンギングしながら周囲に訴えかける。しかし、誰も寄り添う者がいない。これにより数年間、「声」の存在を内に秘めることとなる。

【関連記事】映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』が私たちに残すもの

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

(C)3B Productions

RANKING

SPONSORD

PICK UP!