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『呪術』の特大ヒットを紐解く|年末年始の映画市場を制するか否か
『呪術』の特大ヒットを紐解く|年末年始の映画市場を制するか否か
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2020年10月、コロナ禍の影響でハリウッド映画はもちろん邦画のメジャー映画の多くも公開延期が重なり、寂しさが支配していた映画館を一本の映画が一気に盛り上げることになりました。
それが『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』でした。
その後、最終的に日本歴代最高興行収入&日本映画史上初となる興行収入400億円を突破することになった、モンスター映画です。
それから1年と2か月、新たな怪物が動き始めましたそれが『劇場版 呪術廻戦 0』です。
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日本映画史上歴代史上2位のスタートダッシュ!
12月24日、劇中では一大決戦の“百鬼夜行”が展開されるクリスマスイブに合わせて(?)公開された『劇場版 呪術廻戦 0』。
私はヒットの度合いや作品の勢い、観客の熱量を図るためにいつも“これは!?”という作品はTOHOシネマズ新宿で公開日に近いタイミングで作品を見ることにしています。
というのも、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』に40回以上の上映回数を構え、IMAXシアターまで開けて“大ヒットの震源地”となったのがこの劇場だったのです。
以降「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」「名探偵コナン緋色の弾丸」などをこの劇場で見て、その熱量を体感してきました。
今回の『劇場版 呪術廻戦 0』もやはり『鬼滅』や『シン・エヴァ』との“体感比較”がしたいと思い、TOHOシネマズ新宿に行ってきました。
結果的に、体感、劇場の混雑具合からすると、先行する2者に勝るとも劣らない、大きなうねりを感じることができました。
奇跡的な巡り会わせが続く
『劇場版「鬼滅の刃 」無限列車編』(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
今、思い返してみても『無限列車編』は奇跡的な巡り会わせに恵まれた作品だったと言えるでしょう。
どこまでが戦略的な計算で、どこからがラッキーな展開だったのかはわかりませんが、ちょうど30分枠2クール分のエピソードを原作に準じて進めたのちに、映画というパッケージに納めるには最良ボリューム感(約コミックス2冊分)のある“無限列車編”が回ってきたというのは“目に見ない力の支配”すら感じるものがあります。
しかも、大作がひしめき合っていた映画館がコロナ禍で完全にストップ。
レッドオーシャンだった興行戦線が一転ブルーオーシャンになり、その間隙を見事に打ち抜いた形で『無限列車編』は公開初日からの3日間で観客動員342万人、興行収入46.2億円という破格すぎる、超大ヒットスタートを切りました。
それから1年2か月がたった2021年の年末に再び大きな波がやってきます。それが『劇場版 呪術廻戦 0』です。
こちらも、映画までの道のりは『無限列車編』に重なる部分があります。
同じく30分枠で2クールの放映の後に、こちらもコミックス1冊分のボリュームの「呪術廻戦0 東京都立呪術高等専門学校」が巧い立ち位置にありました。
「鬼滅の刃」も「呪術廻戦」も原作を追っている方はご存知だと思いますが、アニメシリーズ以降のエピソードはどれもコミックス複数巻以上のボリュームがあって、2時間前後の映画という枠に納めることができないエピソードが続きます。
現在「鬼滅の刃」はシーズン2の“遊郭編”が放映中ですが、これ以降のエピソードもボリューム的には映画にできないものが続きます。“刀鍛冶の里編”や“無限城編”などを映画にするとしたら4時間くらいの映画にするか、2~3部作にしないといけません。
「呪術廻戦」もアニメシリーズで語られて以降のエピソードのボリュームは大きなものになっていて、とても映画というパッケージには収まりません。
大長編となった“渋谷事変”のエピソードなどはアニメ2クールでもおそらく収まらず、1年サイズになってしまうことになるでしょうね。
「鬼滅の刃」の大きな勢いが話題になっていた時から“ポスト鬼滅”と騒がれていた「呪術廻戦」ですが、当然アニメ化から映画への道筋を探る動きがあったと思います。
そういう中で「鬼滅」の経緯も参考にしつつ、工程表が組まれていく中で、本当にいいタイミングで「呪術廻戦0 東京都立呪術高等専門学校」の映画化へ繋がっていきます。
結果として、『劇場版 呪術廻戦 0』は興行収入26.9億円、観客動員190万人を記録しました。
これは『無限列車編』に次ぐ、日本映画興行史上場歴代2位の大ヒットスタートの数字で、『無限列車編』との興収対比で58%、動員対比で55%の数字になっています。
何事も単純計算で進むことはありませんが、それでも『劇場版 呪術廻戦 0』は興行収入100億円の大台は、あっさりと越えてくると思います(そうなると39番目の100億円映画となります)。
「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」の興行収入が102.8億円ですが、おそらくこのラインはすぐに超えて来るでしょう。
さらには、興行収入200億円という日本でも7作品しかない(『鬼滅』『千と千尋』『タイタニック』『アナ雪』『君の名は。』『ハリポタ1』『もののけ姫』)領域も見えてきました。
『劇場版 呪術廻戦 0』のこれから
『無限列車編』は公開後もブルーオーシャンを航っていくことになりましたが、『劇場版 呪術廻戦 0』の場合はなかなか厳しい航海になりそうではあります。
公開2週目には『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』が、年明けすぐの1月7日にはアメリカで記録的な大ヒット中の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が、1月14日には人気シリーズ第3弾の『コンフィデンスマンJP英雄編』がという具合に強力なライバルが待ち構えています。
特に興行収入に大きな効果を生むIMAXなどのラージフォーマットでは『スパイダーマン』が上映される可能性が高い、そのあたりを見ると年明け以降の『劇場版 呪術廻戦 0』にとって厳しい状況が控えていると言えます。
その一方で、『劇場版 呪術廻戦 0』には『無限列車編』に比べて、大きな利点があると思います。
それは、“一見さん”に対してのハードルが非常に低いということでしょう。
シリーズの“エピソードゼロ”である『劇場版 呪術廻戦 0』はアニメシリーズへの予習が要りません。
もちろん映画を見るとアニメシリーズを通過してきたファンに向けて原作にはなかった、サプライズ出演&サービス演出もあって、そこはニヤリとさせます。その一方で『劇場版 呪術廻戦 0』を映画単体で見た場合でも、シリーズや世界観の予習は全くなしで見て楽しむことができます。
ムーブメントが大きくなればなるほど、そこに乗り切れない人たちはどんどんハードルが高く感じるようになるものですが、『劇場版 呪術廻戦 0』に関してはこのハードルがとても低くなっています。
『無限列車編』はやはり、そこまでの流れや人間関係を知っていることが前提で話が進んでしまい、ヒットを理由に映画館に行くと分かりにくい部分があったたのも事実です。
それに対して『劇場版 呪術廻戦 0』は(もちろん原作を知っているとなお楽しめますが)、ヒットの勢いに乗ってフラッと映画館に向かっても素直に物語に入れます。
これは大ヒットに欠かせない“リピーター”と“ロングラン”には最高の条件です。
実は最近、ちょっと映画業界に元気がなくて大ヒット作が欲しかったところですが、最高のタイトルがやってきてくれたなという感があります。
残念なことと言えば、これは「鬼滅の刃」にも言えることですが、基本的にアニメーション特に映画は原作からのものにするとしたことで、“次の映画版”がないことでしょう。
「呪術廻戦」については2時間半以上になることを覚悟のうえで“過去編”を映画にすることは、もしかしたら可能かもしれませんが……。
『名探偵コナン』や『ドラゴンボール』、『ドラえもん』もそうですが、これらのシリーズの映画は原作連載部分から外れた“スペシャルエピソード”です。この手法だと映画を何本も作れますが、「鬼滅の刃」と「呪術廻戦」についてはスペシャルエピソードの方針をとっていないので(映画館の盛り上がりからすればもっと欲しいところなのですが)、“今回限り”となってしまいそうです。
ヒット作が映画界を引っ張って全体を元気にするべきと思う私個人としては、そこが残念で仕方がありません。
(文:村松健太郎)
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