『決戦は日曜日』の監督が放つ『エキストランド』、映画制作の赤裸々な裏側を描いた痛烈コメディ!
1月7日より公開される『決戦は日曜日』は、衆議院選挙に立候補したすっとこな二世候補者(宮沢りえ)と事なかれ主義の秘書(窪田正孝)の素っ頓狂なやりとりの中から、選挙の裏側はもとより現代社会そのものを大いに風刺批判し、それを巧みに笑いへ転化させた、日本映画には稀有な社会派コメディの快作です。
監督はこれまでも『東京ウィンドオーケストラ』(17)や『ピンカートンに会いにいく』(18)など笑いの中から人間の機微をピリリと描くことに長けた若手気鋭の坂下雄一郎。
今回はそんな坂下監督の出世作の1本でもある『エキストランド』(17)をご紹介。
この作品、何と地方における映画制作の裏側を赤裸々に描いた辛辣かつ痛快なコメディ映画なのでした!
悪徳どん底プロデューサー
地方での映画制作は成るか
『エキストランド』の主人公は、映像制作プロダクションに所属しつつ、過去に大コケ作品を世に放って新作を作れなくなって久しい社員プロデューサーの駒田(吉沢悠)です。
そんな折、傲慢脚本家のひどいシナリオ『フリーター、一人で家を建てる』(どこかで聞いたことがあるようなタイトル……)を一言一句変えずに映画制作しなければいけなくなり、その企画にうっかり駒田が名乗りを上げてしまいました。
そこで駒田は、映画を作って地元を盛り上げようという昨今の町興しの風潮に目をつけて、まさに映画制作を望んでいる“えのき市”フィルム・コミッション(FC)の内川(前野朋哉)らを巧みにだまくらかしながら(自分の都合のためだけに)映画を作ろうと画策。
地元の人々も最初は町のためならと、駒田の指示におとなしく従ってはいましたが、彼(のみならず地元ボランティア・スタッフも次第に何か勘違いしながら)の横柄で横暴な振る舞いの数々に疑問を抱くようになります。
・ロケに使った場所の後片付けはしない。
・エキストラを延々待たせた挙句、撮影をばらす。
・エキストラの弁当にハシがない。
・撮影場所の品具を平気で壊してしまう。
……やがて彼らは、自分たちが駒田からいいように利用されていることに気づいてしまいます。
かくして、憤慨した内川たちは撮影のクランクアップの日に……。
このリアルな内幕は
フィクションとは思えない!?
いやはや、シニカルな笑いに満ちた作品ではあるのですが、映画業界に身を置く側からすると、誇張こそあれかなりリアルで、とてもフィクションとは思えない内容です。
一見すると善良そうに見えますが、実は腹黒さにかけては誰にも引けを取らないプロデューサー(います!)。
彼は「一言一句直すな」と命令する傲慢な脚本家(います!?)のシナリオがゴミであることを知りつつ、映画を撮ることさえできて次につなげられれば、その内容がゴミであろうと何であろうと知ったことではないのです……。
監督として抜擢された石井(戸次重幸)もこんなひどい体制(予算に至ってはたった100万円!?)で映画を撮れるのかと疑問に思いつつ、実はもう何年も映画を撮れておらず、実家の酒屋の仕送りでかろうじて生活しているだけに(います……)、キャリアを重ねていくために従わざるを得ません。
さすがにエキストラへの心ない仕打ちの数々は、さすがにちょっとそれはないかなとも思いつつ(でも意外にあったりして……)、純朴な映画ファンであったFCの内川ならずとも愕然&憤慨とさせられること間違いなし!
「映画が撮れたら、みんな幸せになると思ってたんです……」
そうつぶやく内川の、忸怩たる胸の内たるや……。
「映画ってそういうもんだから」と勝手に思い込んでいる映画人に対して、「映画なら何をしてもいいのか?」と素朴な疑問を抱く一般市民。
こうした図式は昔からいろいろ虚実含めて伝わり聞かされてきたことではあり、坂下監督も実際に現場などで経験したり、周囲から見聞きしたことなどが盛り込まれているのかもしれません。
本作は全国各地のフィルムコミッションの人々に取材しながら企画脚本を開発し、制作そのものには信州上田フィルムコミッションが協力して完成したもので、おそらくは劇中に登場するエピソードに似たようなことはいろいろあったものと思われます。
(もちろん今はかなり改善されていることでしょうけど)
映画は人を不幸にするのか?
幸福にするのか?
市民の一人が問いかける一言「映画の人ってあんなもんなの?」
いや、みんながみんなそうではありませんが、駒田のような輩が時々いるのも事実でしょう。
もっとも、彼にしても本来は内川と同じように純粋に映画が好きで業界に入り、そこで理想と現実のギャップに打ちのめされて闇落ちしてしまった類いの映画人ではないかと思われます。
だからこそ「映画は人を不幸にするんですよ」と冷たい笑顔で語る彼に、どこかしら憎み切れないものを感じてしまうのも事実。
実際、劇中で語られるように、今の日本映画界、東京で1週間レイト公開して終わりといった作品は山ほどあります。
もちろんその中には秀逸な作品もあるものの、悲しいかな見てくれる人が少なければ埋もれてしまうのも道理ではあり、駒田も石井もそんな現代の映画界事情の波に飲み込まれてしまった犠牲者なのかもしれません。
しかし、それでも映画は作られ続けます。
日本映画だけでも、ここ最近は毎年500本以上は公開され、その中から抜きんでいこうとみんな切磋琢磨し続けているのです。
本作からおよそ5年後にして『決戦は日曜日』を発表するに至った坂下監督もそのひとりであり、こうした気鋭の躍進は今後も見守り続けていきたいと思う次第です。
(エキストラに朝倉加葉子、メイキングに堀江貴大など、これからの逸材が本作に参加しているのも、どことなく頼もしく思えてなりませんでした)
(文:増當竜也)
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