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虫・グロ注意!?それでも観たい『フェノミナ』ジェニファー・コネリーの魅力
虫・グロ注意!?それでも観たい『フェノミナ』ジェニファー・コネリーの魅力
2022年の映画界で最高に胸熱なトピックとなった『トップガン マーヴェリック』。公開延期を繰り返しつつも、ようやく観客に届けられた作品は前作への敬意と現代的アップデートにあふれ、映画史に残る興行成績を叩き出すことになった。
何よりも欠かせない本作の魅力は、36年ぶりにマーヴェリックを演じたトム・クルーズの存在だろう。歳を重ねてなおその人間性は観客を惹きつけ、決して放そうとはしない。
そんな作品に華を添えたのがジェニファー・コネリーだ。前作で名前だけ登場したペニー・ベンジャミンを演じ、記号的なヒロインではなくマーヴェリックを支える存在として輝きを放った。
──と、前口上をつらつら書いてしまったのだが。今回は、ジェニファー・コネリーが若くして主演を務めたサスペンスホラー『フェノミナ』(インテグラルハード完全版)についてご紹介したい。既に鑑賞したことがある人なら、きっとこう思うだろう。『トップガン』からの落差よ……。
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アルジェントホラーを代表する1本!
『フェノミナ』は1985年に日本でも公開されたイタリア映画。監督はホラー映画の金字塔『サスペリア』をはじめとした魔女3部作や『オペラ座/血の喝采』などを生み出してきた鬼才ダリオ・アルジェントが務め、音楽には『サスペリア』と同じくゴブリンが参加した。
正直なところ、本作はとにかく人に勧めにくい作品でもある。敢えて先に触れると、虫。虫。虫。とにかく虫が出てくる。そしてアルジェント印の直接的で痛々しい殺人描写も連続する。
その2点を除けば「すごいものが見れるから観て!」と全力で推したいのだが、いかんせんアルジェントホラーだけにメーターを振り切りすぎた感が強い。いや、だからこそ観てほしいという気持ちもある。うーむ難しい……。
舞台はスイス・チューリッヒ。冒頭からアルプスの美しく広大な風景が映し出されるも、観光客の少女がバスに乗り遅れて1人取り残されることに。助けを求めて訪れた民家で彼女はハサミを手にした“何者か”に襲われ、外へ逃げ出すも腹を刺された上に首を切断されてしまう。繰り返すがこれで「冒頭」だ。(しかも殺害される少女はアルジェント監督の実の娘フィオーレ)
一方コネリー演じる主人公ジェニファーは寄宿制の女子学校に転入し、やがて少女連続殺人事件の捜査に協力する昆虫学者・マクレガー教授と知り合う。教授はジェニファーに昆虫と交信できる能力があることを知り、彼女と「死体の肉を食べるハエ(サルコファゴス)」を頼りに事件解決の糸口を手繰り寄せようとするのだが──。
ざっとあらすじを書き出しただけで不穏なワードのオンパレード。その不穏な気配が本編でも全編にわたって横たわっているし、なんならオープニングのアルプスの風景ですら薄ら寒く感じるのだから、これはもはやアルジェントマジックという他ない。
圧倒的存在感を放つジェニファー・コネリー
アルジェント監督はホラーの名手であると同時に、“カメラの向こう側にあるものを美しく見せる”ことにも長けたフィルムメーカーでもある。それは人物であったり、『サスペリア』や『シャドー』のように、建物を生きているかのように息づいて見せてきた。
特に女優を美しくスクリーンに映し出す能力については、アルジェント監督以上のクリエイターを筆者は知らない。そんな名匠のフィルモグラフィにおいて『フェノミナ』のジェニファー・コネリーは、最も美しさが際立った女優だと断言していいだろう。
撮影当時のコネリーは13歳。大人びてはいるもののまだあどけなさが強く、実際に現在の面影はそれほどはっきり現れていないように思える。にも関わらず、彼女がフレーム内に存在するだけで画面への求心力が明らかに違う。もちろん端正な顔立ちも要因のひとつだが、コネリーがただそこにいるだけでオーラのようなものを感じることができるのだ。
コネリーを起用したアルジェント監督の慧眼はさすがと言うべきか。「面影はそれほどない」と書いたが、ふとしたカットで見せる表情(特に上目遣い)に現在の彼女と重なる片鱗が垣間見えてもいる。少女から(少し早く)大人へと脱皮しようとする、刹那的瞬間を切り取った作品として後世に残り続けるだろう。
アルジェント監督、あんた鬼や
魅力を振りまくコネリーが見られるだけで元が取れる『フェノミナ』だが、本作はとにかく「虫」の描写がエグい。たとえば切断され腐敗した頭部や体の一部にたかり、時には手を這う蛆虫が幾度となく大写しになる。
中でもホラー史に残るショッキングシーンが“蛆虫プール”だ。連続殺人の被害者が放棄された小さなコンクリートプールは生理的嫌悪感を催すほど生々しく、あろうことかそんなプールにジェニファーを落としてしまうのだから、アルジェント監督の鬼畜ぶりも本作の連続殺人犯に負けていない。(褒めている)
ジェニファーは昆虫と交信する能力があり、当然昆虫に対する忌避感を持たない。だが観客の中には程度の差こそあれエントモフォビア(昆虫恐怖症)の人もいるだろうし、そうでなくても執拗に蛆虫を大写しにするところなどやはり鬼畜の所業と呼ばざるを得ない。(褒めてい…… るのか?)
しかし──、ふと。人はなぜ「虫だから」と忌み嫌うのか。外見? サイズ? 生態? 本作でジェニファーは母親に見放されており、特異ゆえに女子学校で異常者のレッテルを貼られる。連続少女殺人犯もまた“ある理由”から外の世界から切り離されており、忌避される存在として描かれている。
そういった意味では2人のキャラクターの立ち位置はまったく違うのに、“正常か異常か”というフィルターで「普通の人」の枠から外されてしまった点は同じ。しかしジェニファーには学校を離れれば帰る場所があり、連続少女殺人犯とは気づかず“その人物”と向かい合った瞬間には悲鳴を上げて一目散に駆け出してしまう。彼女もまた1人の人間なのだと本質を突くアルジェント監督の視線は、特定のキャラに寄り添うことなくどこまでも冷たい。
美少女と虫とチンパンジー
本作の登場キャラとして、車椅子生活を送るマクレガー教授の介助者であるチンパンジーの「インガ」も印象的。知能が高く教授の指示に従い、異常な状況を理解してすぐに反応を示すこともできる。実際に演じているチンパンジーがなんとも芸達者で、助演級の役割を全うしていることは間違いない。
ジェニファーはインガを抵抗なく受け入れ、インガもまた彼女が教授の“友人”であることを認めていた。インガは中盤で大きなターニングポイントを迎えることになるが、終盤で見せた“ある行動”直後の表情はトレーナーの指示を受けて出せるようなものではなく、本当に役柄を理解しているのではないかとさえ思える。ジェニファーとインガが生み出す余韻は、凄惨な物語とは裏腹に切なく抱えきれないほど大きい。
まとめ
『サスペリア』とはまったく異なる角度から、改めてホラー映画がたどり着き得る境地に達してみせたダリオ・アルジェント。そんな名匠を支えた若きジェニファー・コネリーの存在なくして、『フェノミナ』の成功はなかっただろう。彼女の足跡をたどる意味でも、本作は絶対に欠かすことのできない1本だ。
(文:葦見川和哉)
■『フェノミナ』(インテグラルハード完全版)配信サービス一覧
| 1984年 | イタリア | 115分 | ©1984 TITANUS | 監督:ダリオ・アルジェント | ジェニファー・コネリー/ドナルド・プレザンス/ダリア・ニコロディ|
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