2022年01月14日

大九明子が描く失恋女子と飯テロ|広瀬アリス主演ドラマ『失恋めし』インタビュー

大九明子が描く失恋女子と飯テロ|広瀬アリス主演ドラマ『失恋めし』インタビュー

木丸みさきのショートコミック「失恋めし 京都・奈良・大阪・神戸編」を原案に実写化したドラマ『失恋めし』が、1月14日よりAmazon Prime Videoで配信される。



イラストレーターのミキ(広瀬アリス)が、失恋エッセイ漫画のネタを探す先で、失恋したばかりの人とおいしいものに巡りあう展開をコミカルに描いた本作。映画『勝手にふるえてろ』(2017)や『私をくいとめて』(2020)を手がけた大九明子が監督を務める。

日常を懸命に生きる女性の”いま”を切り取り、共感を集めてきた大九監督が本作で大切にしたのは「ゆるい世界観」だった。それにともなって実現した「新しい広瀬アリスの姿」や、ドラマ作りの姿勢について話を聞いた。

原作の「ゆるい世界観」に忠実に

——どんな経緯で『失恋めし』をドラマ化することになったんでしょうか?

大九監督(以下、大九):2020年の末くらいに、プロデューサーから直接ドラマ化のご依頼をいただいたのがきっかけです。「広瀬アリスさん主演の連ドラにしたい」と。

——広瀬アリスさんが主演なのは、最初の時点で決まっていたんですね。原案の「失恋めし」原作は1話2ページのショートコミックですが、ドラマの形に膨らませるために、どんな工夫をされましたか?

大九:まず、アッと驚くような”どんでん返し”を最後に盛り込んだらどうか、と考えました。ミキは過去に大失恋をしていて、部屋から一歩も出られなくなってしまった子。これまでの物語は、全部彼女の妄想だった……という”妄想オチ”にしよう、と。

ただ、そうすると彼女自身の恋愛模様をストーリーに織り込むのが難しくなります。原案の「ゆるさ」を忠実に再現するためにも、自分ひとりで脚本を書くのではなく、ベテラン脚本家の今井雅子さんに助けてもらおうと思ったんです。



——その背景があって、今井さんに脚本をお願いすることになったんですね。

大九:彼女は、私の取り留めのない話も素敵な脚本にまとめてくれます。おいしいものが大好きな方だし、この作品にぴったりだと思って依頼しました。

どうしても「恋愛要素」を意識すると、激しいうねりのような展開を入れ込みたくなる。そういった話が浮上するたびに「原案のゆるい世界観を守らないとだめだよね」と、ふたりで軌道修正を繰り返しました。それくらい、この作品には”ゆるさ”が必要不可欠だと思ったんです。

監督の見たい「新しい広瀬アリス」の実現

——広瀬アリスさんは、近年コメディエンヌとしての評価も高い役者さんですよね。ゆるい世界観を大事にした「失恋めし」との相性はいかがでしたか?

大九:広瀬さんって、勘の良い役者さんなんです。私が「こういう演技はどうですかね?」と一言伝えるだけで、一瞬で芝居が変わる。ドラマのゆるい世界観に合わせて、どんどん彼女をゆるゆるに演出していくのは本当に楽しかったです。

あの端正な顔立ちと、ハキハキよく通る声がゆる〜くなっていくのを見るごとに「もっと広瀬さんのゆるい姿が見たい」と欲が出てきました。これまでにない、新しい広瀬アリスが見られると思うので、その点も楽しみにしてほしいです。

——広瀬アリスさん主演は最初から決まっていたそうですが、他の方の配役はどのように決まっていったのでしょうか?

大九:たとえば、苗字が「佐藤」の人しか勤められない「STO企画」という編集プロダクションが作中に出てきます。そこに勤める佐藤1号(部長)、佐藤2号(課長)、佐藤3号(社員)の3人のキャラクターのうち、佐藤2号は臼田あさ美さんにやってもらおうと最初から決めていました。

というより、このSTO企画やキャラクター設定そのものが、臼田さんありきで決まったようなものです。「臼田さんには、どの役をやってもらおうかな?」という感じで。あとは、男女比のバランスを考えて、1号は男性(杉村蝉之介)、3号は女性(安藤ニコ)にしよう、といった流れで決めていきました。


現場で生み出される空気を大事にする大九監督のドラマづくり

——第2話で、ミキと2号さんが焼き鳥を食べているシーンが印象的でした。勢いよくかぶりつくも、なかなか串から外れなくて笑ってしまう流れは、もともと台本にあった演出ですか?

大九:いえ、たまたまその場で起こったことを生かしました。焼き鳥のシーンに限らず、私はその日その瞬間に生み出される空気を大事にして撮影を進めています。わざとハプニングを”狙う”というよりも、与えられた役を生きている役者から自然と出てきた表現を、そのまま生かしている感覚に近いかもしれません。ミキが焼き鳥にかぶりつく場面含め、ミキらしいなと思ったシーンを意図的に残しています。

——そういった演出や、生かすシーンの選別については、人と話しながら決めていくことが多いのでしょうか。

大九:そうですね、今回に限らずどの現場でも、人と話しながら決めていくことが多いです。役者やスタッフと話しながら、面白そうなことを思いついたら作品に反映させています。

特にSTO企画の3人に関しては、放っておいても何かしてくれそうなので、わざとカットをかけずにしばらくカメラを回していることもありました。私自身も”4号”になったつもりで、大好きな役者たちと一緒に”つくる楽しさ”を実感できる現場でした。



——日常に起こり得ることを生かしているからこそ、この作品のリアルさや親近感が際立っているんですね。

大九:その話でいうと、毎話ごとに登場する飲食店の店員役も、日頃からお店にいらっしゃる方にお願いしています。毎日お店にいる方たちだから、一番そのお店に似合うんです。

作中の店員さんの動きやセリフも、あえて細部まで作り込まずに、最低限の段取りだけを決めるようにしました。演技やセリフが指定されていると、せっかくのホンモノの空気が壊れてしまうかもしれません。普段、お店でどのように立ち回っているかを聞いて、できる限り自然に物語に組み込んでいくことを意識しました。

店員さんもキャストもスタッフも、ともに作品を作る一体感があったおかげで成立した作品だと思います。

——これから「失恋めし」をご覧になられる方に、メッセージをお願いします。

大九:寝る前のひとときに見て、いい気持ちで一日を終えてもらえたらうれしいです。寝るつもりが、お腹が空いちゃったらごめんなさい。最後にびっくりするような展開もあるので、楽しみにしていてください。

(文・北村有)

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(C)木丸みさき・KADOKAWA/ytv

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