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2022年01月19日

【アマプラ】韓国サスペンスの傑作「怪物」はエグいほど繊細な人間ドラマ

【アマプラ】韓国サスペンスの傑作「怪物」はエグいほど繊細な人間ドラマ


2022年1月1日、Amazonプライムビデオにて全16話が配信されるやいなや、瞬く間に完走者が続出した韓国ドラマ「怪物」をご存じだろうか。

本国では2021年の2月から放送され、同年、韓国のゴールデングローブ賞とも言われている百想(ペクサン)芸術大賞で「作品賞」「脚本賞」「男性最優秀演技賞」を受賞し、見事3冠を達成した、まさに歴史に名を刻んだ本格サスペンスドラマである。

韓国での放送中から、2018年の同賞で脚本賞・男性最優秀演技賞・TV部門大賞受賞をした「秘密の森」に匹敵するとも言われ、百想芸術大賞の受賞で一気に話題になった本作。日本では昨年CSでの放送はあったものの、主流である動画配信サービスでの配信を今か今かと待ちわびていた人も多いはず。筆者もその1人だ。

この「怪物」の魅力を、劇中に起こる事件の概要とともに語らせてほしい。

>>>Amazonプライム・ビデオで「怪物」を観る

あらすじ・事件概要



物語は、両手の指先がすべて切り落とされた状態の白骨遺体が発見されるところから始まる。

発見現場となったのは、田舎町マニャンの葦原。実はこの葦原では、20年前にも指先だけが無い女子大生の遺体が見つかっており、さらに同じ日、逆に指先だけを残して姿を消してしまった者がいた。失踪者扱いとなったその女性の名前は、イ・ユヨン。

主人公のイ・ドンシク(シン・ハギュン)は、ユヨンの双子の兄という被害者家族であると同時に、20年前の当時、女子大生殺害とユヨンの傷害及び遺棄の容疑者として逮捕され、友人のアリバイ証言により無罪となった過去がある。20年経った今も消えた妹の行方を追いながら、警官としてマニャン派出所で働いている。

一方、ソウルでエリート警官として勤務していたハン・ジュウォン(ヨ・ジング)は、全国で相次いで見つかった白骨遺体の捜査中、遺体の共通点(両手は祈りを捧げるように指を組まれ、両足は丁寧に包まれてリボンで結ばれているという猟奇的な状態)から、20年前の事件へとたどり着く。

警察庁次長を父に持つジュウォンは、そのコネを大いに生かし、当時の容疑者であるドンシクのいるマニャンへ転任。意図せずパートナーとなったドンシクを中心に、閉鎖的で何かを隠しているような、匿っているようなマニャンという町の住人たちへ疑いの目を向けていく。

そんななか、新たな事件が発生する。

被害者となったのは、ドンシクとも親交の深い女子大生のミンジョン。ユヨンの時と同じように、10本の指先だけが残された状態で行方不明となってしまう。


果たして冒頭で発見された白骨遺体は誰なのか。

ユヨンは、ミンジョンは、一体どこへ消えてしまったのか。

未解決となった20年前から繋がる事件の真相へと迫るべく、再び捜査が始まった……。

シン・ハギュン、圧巻の表現力


神経をすり減らすような繊細な心理描写と、緻密なストーリー展開に一瞬たりとも目が離せない「怪物」。

このドラマにおいて、とにかく一番怪しいのがシン・ハギュン扮するドンシクである。

ジュウォンが疑っているからそう見えるのではなく、誰がどう見ても怪しい。怪しすぎるのだ。

その怪しさは、例えば笑顔に表れる。

ジュウォンからの疑念を込めた質問に、何故かいつもはぐらかすような笑顔で答えるドンシク。

極めつきは1話のラストシーン、「妹を本当に殺していませんか?」という超ドストレートな問いに対して見せた、満面の笑みだ。

綺麗に並んだ歯を惜しみなく出し、これでもかというくらいのニッコリ笑顔をあんなに不気味に感じるのは、シン・ハギュンか喪黒福造くらいだろう。

また、"目の血管まで演技している"と話題を呼んだ、赤く充血した目にも注目してほしい。

激しい怒りのみならず、深い悲しみや強烈な後悔まで、真っ赤に濡れた瞳のなかにその感情を宿して演じる姿は、まさに演技の神(シン)・ハギュン

というか、白目の毛細血管って自らの意思でコントロールできるんでしたっけ……?

複雑な心理描写をここまで巧みに表現する俳優は、そう多くないのではないだろうか。

先の百想芸術大賞で、最優秀演技賞を受賞したのもこのシン・ハギュンである。


優しいのか恐ろしいのか分からない掴みどころのなさ。頼もしさと危うさを同時に漂わせる色気。年を重ねたからこそ味が出てくる目じりの皺からほうれい線まで、その不思議な魅力にまんまとハマってしまうのは間違いない。

ちなみに、20歳のドンシクを演じたイ・ドヒョンは、今若手で最も注目されている演技派俳優のひとり。

別の作品だが、この年の百想芸術大賞で新人賞を受賞している。

2役分楽しめる、ヨ・ジングのキャラ分け



ヨ・ジングの演じるジュウォンというキャラクターは、物語の前半と後半で生まれ変わったようにガラッと変わるのが印象的だ。

マニャンへやってきた当初は、お金持ちのおぼっちゃまで温室育ちのエリート警官、周りを見下した態度に潔癖症という属性まで加わったいけ好かないイケメン設定。

ところが後半、事件が一旦の終局を見せた9話以降だ。端正で賢そうな顔立ちはそのままに、偏食や潔癖症、高慢な態度を封印して再登場してきたではないか。

これらはすべて、新たに浮上した謎からさらに複雑になった事件の真相を突き止めるための、ジュウォンの努力の表れにほかならない。

「俺の真似をしているようだ」というドンシクのセリフ通り、ジュウォンはドンシクにやられた"仕打ち"を、はぐらかすような笑顔と一緒にやり返そうとする。

終盤、前半の高慢な態度のときに投げた自分の質問に今更になって自分で傷つくジュウォンは、明らかに人間として成長している。

ついに突き止めた事件の真相と向き合う姿も、いつの間にか芽生えていたドンシクとの信頼が垣間見える号泣必至のシーンだ。

この演じ分けこそがヨ・ジングの演技力を大いに示しており、本作においてヨ・ジングがシン・ハギュンにも引けを取らない存在感を示している。

余談だが、ヨ・ジングの2役と言えば「王になった男」もおすすめしたい。

冷血漢の王様と温かな人間味溢れる王様を見事に演じ分けているうえ、こちらは切ない胸キュン・ジングも堪能できる時代劇になっている。

先の読めない秀逸な脚本と演出



動画内では以下のような会話が繰り広げられている。
ドンシク 「人を殺したんだ」
ジュウォン「どうやって?どうやって殺した?」
ドンシク 「ここには秘密なんてない。どこからか、誰かが、すべて見ている。」
ジュウォン「誰が殺したんです?」

犯人がわからない・先が読みにくいサスペンスドラマは数あれど、これほどまでに複雑に絡んでいく展開に感服したことがあっただろうか。

謎が謎を呼び、どんどん思わぬ方向へ転じていく事件と次々に浮上してくる怪しい人物。

一体わたしは”予想してはハズレ”を何度繰り返したのだろう……。


猟奇的な事件を中心に進んでいく前半はもちろん、残された20年前の真実が明らかになっていく後半も、驚きとともに鮮やかに伏線が回収されていく。

特に8話あたりからのラストシーンは毎回衝撃が大きすぎて、「おいおいおいおい……!!」と、1人テレビに向かって突っ込まずにはいられなかった。

ふとした瞬間の表情や何気ない一言からも目が離せないのでかなり集中力を必要とするが、間違いなくその価値があるし、この記事をここまで読めたあなたならきっと最後まで楽しめるはずだ。

また、「怪物」の素晴らしいところはサスペンス以外の部分にも隠されている。

それは、登場人物たちの苦悩と選択・決断という”生き様”が丁寧に描かれていることだ。

家族を理不尽に亡くした者、家族が加害者となってしまった者、疑いをかけられた者、自分を守るために記憶を失くした者、被害者を救えたかもしれない者……。

みんながそれぞれの痛みと後悔と悲しみの中で、それでも生きている。

自分を哀れみ、生きていることを申し訳なく思ってもどうにもならない。何があってもお腹は空くのだから、食べて、生きていくしかないのだ。

特に、ジュウォンが決断した責任の取り方は、その悲しすぎるほどの覚悟の強さは、涙なしにはとても観ていられなかった……。

こんなに泣いてしまうサスペンスドラマ、なかなかないのでは……。

「怪物」は人間ドラマの傑作だ!

このドラマは、根幹にある連続殺人事件を通して私たちに問い続けている。

「怪物とは誰か?」

「怪物を捕まえるために怪物になるのは?」

そして、

「私たち自身が怪物になり得る可能性」を。

韓国ノワールとしても最高の展開から、深く繊細に表現された心理描写によって素晴らしい完成度を誇る人間ドラマの傑作を、是非1度味わってほしい。

(文・加部)

>>>Amazonプライム・ビデオで「怪物」を観る

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