映画コラム

REGULAR

2022年03月11日

千葉真一・田中邦衛・福本清三へ贈る「仁義なき」追悼文

千葉真一・田中邦衛・福本清三へ贈る「仁義なき」追悼文


福本清三~「死に様」という生き様~


(C)2013 UzumasaLimelight.All Rights Reserved.

日本一の斬られ役」、「五万回殺された男」、「『ラストサムライ』のオファーを蹴って『コロッケものまね公演』を選ぼうとした男」などの異名を持つ。

ちなみに『ラストサムライ』(’03)を断ろうと思った理由は、「めんどくさかったから」だそうだ。

「無欲の男」福本は、この『仁義なき戦い』シリーズ5部作すべてに出演している。すべて違う役で。

基本的に下っぱ組員役。ただ、角刈りで開襟シャツなどの「オーソドックスなヤクザ・ファッション」の人物が多い中、福本はリーゼントに革ジャンだったりする。まるでキャロル時代の矢沢永吉のようだ。時代背景(昭和20~30年代)を考えると、相当オシャレなヤクザである。

特筆すべきは、2作目『広島死闘編』(’73)における死に様である。
銃をバラしての手入れ中に、敵対組織のヒットマン・北大路欣也に踏み込まれる。慌てて銃を構えるが、手入れ中のその銃には弾倉がハマっていなかった。

北大路のマグナムが火を吹き、ふっ飛ぶ福本。

普通の役者は、ただまっすぐ後ろにふっ飛び背中から落ちるだけだが、福本は違う。
バク宙でふっ飛び、しかもムーンサルト気味に空中でひねりを加え、真っ逆さまに落ちる
いくらマグナムで撃たれたとは言え、さすがにそんなふっ飛び方はしないだろう。しかし福本は、「派手に死ぬこと」に命を懸けている。

同じく、同作品で派手な死に様に命を懸けたのが、川谷拓三である。

千葉真一率いる敵対組織に捕まった川谷は、木から吊り下げられ、生きたまま射撃訓練の的にされる。
福本と川谷は、駆け出し時代にアパートの同じ部屋で同居していた仲である。
「俺の死に様の方が派手だ」
「いや俺の方が」
そんな対抗意識を燃やしていたのではないか。

その愚直なまでの一生懸命さが、『ラストサムライ』におけるトム・クルーズとの共演、『太秦ライムライト』('14)における最初で最後の主演と、晩年を迎えてからの突然のブレイクへと繋がった。

(C)2013 UzumasaLimelight.All Rights Reserved.

あるトークショーで語ったとされる福本の言葉を聞いて、筆者は戦慄した。
いかに惨めに殺されるか。日々これだけを考えています」
俳優を志し、「いかにかっこよく映るか」を日々考えている人間なら、腐るほどいるだろう。

昔、役者の端くれだった筆者は、そんな人間を嫌と言うほど見てきた。筆者自身も、そうでなかったとは言えない。

今になってみると、福本の「斬られ役」としての矜持、「殺され役」としてのプロ根性を、死ぬほどかっこいいと感じる。

皮肉なことに、その死に様においても福本自身の「生き様」が垣間見えてしまい、惨めどころか、どの死に様もかっこいい

先述の『広島死闘編』における死に様は、そのあまりの躍動感から、「生命力の強さ、若さの美しさ、命の素晴らしさ」まで感じてしまう。死んだのに。

『ラストサムライ』においては、主人公のトム・クルーズをかばって撃たれる。「生涯一大部屋俳優」を自認していた男が、そんなヒロイックな死に方をするのだ。他の日本人キャストである渡辺謙や真田広之は、言うまでもなくかっこいい。ただ、福本清三のかっこよさも、確認してほしい。

唯一の主演作である『太秦ライムライト』のラストシーン。劇中劇における松方弘樹と山本千尋との立ち回り。山本千尋に斬られ、トレードマークの「海老反り」で倒れる。倒れた福本に桜が降り積もり、起き上がることなくエンドロール。

まるで『あしたのジョー』の最後のような、「えっ、もしかして死んだ……?」と思わせるようなラストシーン。「生涯一斬られ役」の美しさが、そのシーンに凝縮されている。

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

(C)東映

RANKING

SPONSORD

PICK UP!