映画コラム

REGULAR

2022年03月11日

千葉真一・田中邦衛・福本清三へ贈る「仁義なき」追悼文

千葉真一・田中邦衛・福本清三へ贈る「仁義なき」追悼文


田中邦衛~笑いを呼ぶ悪党~


(C)東映

田中邦衛と言えば、まず『北の国から』を思い浮かべる方が多いだろう。「不器用で実直な親父」というイメージだ。

だが、本来の彼の持ち味は、その喜劇性である。

加山雄三の『若大将』シリーズにおける青大将、さらにさかのぼれば、黒澤明の『椿三十郎』(’62)における、やたら三船敏郎に殴られる若侍など、その「小物」っぷりが、笑いを誘うのである。

その「笑える小物」の最たるものが、『仁義なき戦い』における槇原政吉役だ。
二枚舌でいいとこ付きで、虚勢を張るが実はビビリと、これだけ褒めるところの無いキャラも珍しい。

立場が悪くなると必殺のウソ泣きで切り抜け、常に優勢な方に乗り換え、憎まれ口を叩きながらも、腰が引けている。

本来なら心の底から憎たらしい悪役なのだが、田中邦衛がとにかくコミカルに演じているため、憎悪ではなく好感すら抱いてしまうという不条理。この槇原が登場するだけで、観ている者の暖かな笑いを誘う。悪役なのに。

これは、常に槇原が腰ぎんちゃくとして媚びへつらう山守親分(金子信雄)にしても同様である。この2人がコンビで出ている場面は、まるでコントのようでもあり、殺伐とした物語における一服の清涼剤の役割を果たしている。

だが、忘れてはいけない。この2人が常に保身を図り、私利私欲のためだけに動くことが、いつも抗争の火種となっていることを。そのたびに、主人公・広能昌三(菅原文太)が煮え湯を飲まされていることを。

言うなれば、「いちばん悪い2人」が「笑かし役」であるということが、この物語をより複雑怪奇なものとしているのだ。

この田中邦衛と菅原文太だが、ドラマ『北の国から’92巣立ち』において、久しぶりに共演している。

この時は、息子・純(吉岡秀隆)が妊娠・堕胎させてしまった女性(裕木奈江)の叔父(菅原文太)の下に、カボチャを持って謝りに行く話だった。あの有名な「誠意って……なにかね……」のセリフが生まれた時である。

ちなみに筆者なら、女性関係の不始末を詫びに行って菅原文太が出てきたら、言われる前に指を詰める。

ともかく、かつて散々煮え湯を飲ませてくれた田中邦衛が、土下座をして詫びているのだ。菅原文太も溜飲が下がったのではないだろうか。

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

(C)東映

RANKING

SPONSORD

PICK UP!