インタビュー
TikTokクリエイター・しんのすけ:実体験で語る映画のキャリア
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TikTokクリエイター・しんのすけ:実体験で語る映画のキャリア
映画感想TikTokクリエイターのしんのすけさんを迎えた短期連載の第2回。
今回は映画監督を目指したキャリアから、現在の映画感想TikTokクリエイターになるまでを語っていただきました。
>>>前回の記事はこちら
インディーズではなく「助監督」の道へ
高校生の頃には、もっと映画を好きになっていて、進学は映画作る学校以外あまり興味がなくて。高校3年生の時に文化祭の自主制作で作品を作って、京都芸術大学の映画学科に進みました。
映画作り学生あるあるなんですけど、どうしてもインディーズで賞を取ってのし上がっていく志向が強いんです。
一方の僕はハリウッド大作大好きマンだったので、いわゆる邦画の情緒的な表現やちょっと陰鬱な雰囲気をあまり求めていませんでした。「なぜ学生たちは常にセックスを描くんだろう……」みたいなことをよく話していた気がします。
ちょっと天邪鬼的な考えもありつつ、「みんながインデーズに行くなら、じゃあメジャー行くか」と思ったんです。
小さな制作会社を立ち上げて映画を作っている人たちも後輩にいますが、大きな会社で助監督をやってる人は同期にいませんでした。
そこで僕は、スーパーオールドファッションスタイルのような京都の東映の撮影所に入って「水戸黄門」をはじめとする時代劇の助監督をやってました。
東京進出の転機
助監督の仕事は楽しかったんですが、撮影所の平均年齢が高すぎることに段々気付き始めて。「あれ?同じようなものばかり作ってるな」と。
京都の撮影所は、たまに東京からゲストで監督がふらっと来て撮影して帰っていくようなことがありました。
そのなかでも、「仮面ライダー555」(「平成仮面ライダー」の4作目)のメイン監督・田崎竜太監督が『忍たま乱太郎 夏休み宿題大作戦!の段』を撮影していたときに、僕が助監督をやっていたんです。
そのときに、田崎監督に「しんのすけは東京来ないの?」と言われて。
東京で今作られている作品や、現場でメチャメチャ使える知識を教えていただきました。「現場判断でCGの知識を持っていないと、これからは監督なんてできない」みたいな。
そこから、東京に移ってCMやMVを作る仕事をやるようになりました。
事故がきかっけで鬱病になり、現場を退く
京都から東京に移ってCMやMVの仕事をやって、そのなかでも一番長かったのは「HiGH & LOW」シリーズ。「HiGH & LOW」シリーズは助監督で4作品くらい助監督で色々やってました。
その後、とある映画の撮影初日に、乗っていた車が事故に遭いました。崖から5メートルくらい落ちて車が横転して……全員生きてはいたんですけど、怪我したので休むことになって。
でも思い返してみれば、社会人になってから休んだことなかったんです。もう毎日死ぬほど忙しかったので……。
休み始めてぼーっとしてたら、だんだん鬱々としてきて。事故からの鬱病になってしまった。事故がきっかけで半年ぐらい休んで、休み明けで少し復帰したけど、鬱病になって完全に現場から退いたんです。
無職状態になったので京都に京都に帰りました。今までずっと、「映画監督になろう」と思って人生を過ごしていたので、何もやることがないなと思いながら過ごしていました。
鬱病で外に出られなくなって、医者からも「ちょっとくらい散歩した方がいい」と言われつつも「嫌だなあ」って(笑)
ただどうしても、映画館に行くことは我慢できなくて。病院の先生としては「映画を観たら仕事のこと思い出すかもしれない」と心配してくれていたんですけど、どうしても我慢できなくて、友達に誘われて『孤狼の血』を観に行きました。
実は『孤狼の血』は、鬱病になる前からめちゃくちゃ楽しみにしてたんです。観てみたら面白くて「『孤狼の血』半端ねぇな」と。そうしたら、外に出れるようになったんです。
段々映画館にも通えるようになったら、結構元気になりつつありました。でもさすがに、現場に戻るのはきついと思って、1人でできることをやろうと考えました。
TikTokに出会ったきっかけ
小さなWeb CMをはじめとして、1人でできる仕事をやっていたら、知り合いから「専門学校の講師をやりませんか」という誘いが来たんです。
それならそこまでキツくないだろうと思って、専門学校の講師も始めました。基本的に映像の授業をやりつつ、「映像とSNSをうまく掛け合わせられるか」といった学科で講師をやっていました。
学生と色々話すなかで、僕は昔からSNSの特性やバズるものの特徴などを話していたときに気がついたんですよ。
「TikTokについて、マジで1ミリも知らないな」って。
確か2019年の夏休みのタイミングで、「初めてのことを30日間続けてみて結果が出るかどうか試してみよう」という課題をやってみて。学生だけにやってもらうのはフェアじゃないかなと考えて、自分でも新しいことを始めてみようと。
それが“TikTok”でした。その時はまだTikTokについて何も分からなかったけど、とりあえずやってみようと。
当時のTikTokはまだ女の子が踊るようなアプリで、「話す動画」は全然ありませんでした。
「俺が踊るのは無ぇだろう」と思って、今まで培ってきた撮影・編集のスキルを活かしてTikTokに綺麗な映像を載せてたんですけど、もうビビるくらい伸びませんでした。
炎上がきっかけで、TikTokの可能性に気づく
TikTokで試行錯誤していたタイミングで、楽しみにしていた『ONE PIECE STAMPEDE』を観て、全然面白くなくて……。ふと思い立って、「『ONE PIECE STAMPEDE』が面白くなかった。何故僕が面白くないと思ったのか」を説明する動画を出してみたんです。
まあ当然ながら、炎上するんですよね。みんなONE PIECE好きだし、年齢層ももちろん若い。「誰やねんお前」みたいなコメントがめちゃあったんです。まぁ、そりゃそうやろなって思いましたね(笑)
炎上しているなかでも、「なんとなく面白くないと思ってたけど、自分の中で言語化できなかったらすっきりしました」というコメントが沢山ありました。
特にビッグタイトルになるほど、ファンも多いので「面白くない」と言いにくい雰囲気があるんですよね。個人にとっての面白さの感想は誰でも言っていいはずなのに、「褒めなきゃいけない」という風潮があるんだな、と思いました。
僕は10年くらいTwitterをやっていて、映画の感想を言語化することにも慣れていたし、映画好きの人たちはみんな、感想を呟くことも読むことにも慣れてるんですよね。
一方で、いわゆる普通の人たちは友達同士で軽く感想を言うくらいで、深掘りした感想を聞く文化は新鮮なんだろうなと気づきました。
TikTokの特性上、他のSNSだと届かないような人にも感想が届くことに気がついて、「やる価値はあるのではないか」と思って本格的に映画感想のTikTokを始めました。
いま考えてみれば、炎上した動画がきっかけで今につながっていると言えます。
TwitterとTikTokを経験してみて、両者の違いは結構面白かったです。
Twitterは映画好き同士が盛り上がれる場所である一方で、TikTokは映画が特別好きではない人たちにも届く実感を得られました。
(語:しんのすけ/取材・構成:シネマズ編集部)
しんのすけ(映画感想TikTokクリエイター)プロフィール
1988年生まれ。京都芸術大学映画学科卒業後、「水戸黄門」や『HiGH & LOW』シリーズで助監督を務める。2019年より映画感想TikTokerとして活動。
TikTokでは主にエンタメや社会問題の情報発信を行い、人気を集める。現在は情報発信の他にもドラマ・映画の監督業をはじめとして幅広く活動。
初めての著書「シネマ・ライフハック」がKADOKAWAより好評発売中。
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