2022年03月08日

演者と一緒に歩き回れる?何度でも見たくなる「イマーシブシアター」の魅力を聞いた

演者と一緒に歩き回れる?何度でも見たくなる「イマーシブシアター」の魅力を聞いた


東京・お台場にある商業施設 お台場ヴィーナスフォートにて、2021年6月5日(土)よりイマーシブシアター「Venus of TOKYO」が上演されている。

イマーシブシアターとは、2000年代にロンドンからスタートし、ニューヨークを中心に人気を集めている体験型の演劇のこと。観客は舞台にいる演者を鑑賞するのではなく、自分の選択で空間を歩き回りながら作品を鑑賞できる。

今回は、日本で初めてイマーシブシアターを上演したダンスカンパニー「DAZZLE」の長谷川達也氏にインタビュー。「Venus of TOKYO」やイマーシブシアターの魅力を、初心者にもわかりやすく教えてもらった。 

空間作りから始まった「Venus of TOKYO」 




――「Venus of TOKYO」を上演することになった経緯を教えてください。

長谷川達也(以下、長谷川):僕らの公演を知ってくださっていた森ビルさんから「ヴィーナスフォートの区画を使ってやってみませんか?」と提案をいただいたのがきっかけです。

――これまでに上演されたDAZZLEさんの作品は建物そのものの空間ありきの作品だったのに対し、ヴィーナスフォートの区画という自由度の高い空間での作品というのは珍しいなと感じました。

長谷川:たしかに、DAZZLEは過去に廃病院を使ったイマーシブシアターを制作したことがあって、空間が病院だったら病院をテーマにした物語を創ればよかったのですが、今回はどのような空間にするのかというところから、我々に委ねられていたのでかなり悩みました。



――今回の作品は、東京の奥深くにある秘密クラブ「VOID」で行われるオークションに、黄金の林檎が握られていたいうミロのヴィーナスの失われた左腕が出品されるという知らせが届いたのをきっかけに始まると聞いています。どのように「Venus of TOKYO」という題材にたどり着いたのでしょう?

長谷川:「Venus of TOKYO」というタイトルがまずあって、そこから、ヴィーナスというものをどう捉えていくかを考えました。ヴィーナスフォートがギリシャ神話に出てくるような造形であったことから、両腕がないミロのヴィーナス像というところにたどりつき、神話の中に出てくる黄金の林檎が見つかってオークションに出品されたとしたら、どういった物語ができるんだろうか……と決めていきました。

ニューヨークでの体験から、初心者でも楽しめる工夫も



――素朴な疑問なのですが、具体的にどのように楽しむのでしょうか?


長谷川:今回の作品の場合、10人のメインキャラクター、7人のサブキャラクターがいて、観客はそれぞれのキャラクターについて回ることができます。

通常の舞台の場合、舞台上にいる間はストーリーの中にいるけれども、舞台袖にはけたら、そのキャラクターを追いかけることはできません。でも、イマーシブシアターの場合、基本的にはけるということがないので、常に空間に存在していて、物語の中で生き続けているんです。

――なるほど。1つの空間の中で同時多発的に物事が生きているとなると、何度見ても新しい発見がありそうですね。

長谷川:おかげさまで複数回観劇してくださる方も多く、中には200回以上足を運んでくださっている方や、会場に足を運んだあとで、オンライン配信のアーカイブも見る方がいらっしゃいます。

実際、どのキャラクターを見るかによって、ヒューマンドラマに見えたり、ラブロマンスにも見えたり、SFにも見えたり、コメディに見えたり……とストーリーの印象もかなり変わるような多角的な構造にしているうえに、エンディングも観客の反応によって変えるようこだわっているので、何度でも楽しんでいただけているのは嬉しいですね。

――初めてイマーシブシアターを楽しむ方の中には「どのように動き回ろうか」と悩んでしまう方もいるのではないかと思うのですが、その不安を解消する仕掛けはありますか?

長谷川:たしかに「自由にどうぞ」と言われると、どう動いていいのかわからず、逆に不自由さを感じてしまう方はいると思います。実際、僕自身、ニューヨークで初めてイマーシブシアターを体験した時に、アーティスティックでとてもすばらしい体験ができた一方、広い空間を自由に歩き回る中でキャストに出会えない、出会えたとしても人だかりになっていて見えないというところは自由がゆえに課題だなと感じてしまったことがあります。

そこで、初心者の方でも楽しめる工夫というのはかなり意識しています。具体的に今回の場合は、前半パートでどの空間にどのキャラクターがいて、どんなことが行なわれているのかを見せるようなチュートリアル的な動きを入れるようにしました。初心者の方でも没入してもらえている手応えは感じています。 

現実と非現実の間を体感できるイマーシブシアターの魅力


――まだまだ未知な点も多いイマーシブシアターですが、長谷川さんが考える魅力を教えてください。


長谷川:まず自分の選択で物語を楽しめるのは、イマーシブシアターの醍醐味だと思います。秘密を垣間見るような、ハラハラする感覚や、物語の一員として作品に参加することで得られる没入感は、ほかの演劇作品では、なかなか体験できないような体験だとも思います。

――長谷川さん自身、イマーシブシアター作品を手掛ける際にこだわっているポイントがあれば教えてください。

長谷川:現実と非現実の間というのは強く意識しています。あまりに現実的すぎる作品だと「見に行く必要がないな」と思ってしまう一方、突飛すぎる非現実具合だと没入しづらいと思うので、その間を狙うような作品にするということを心がけているんです。

また、リアルで見にきた方の五感を刺激するような工夫もしています。やはり聴覚や視覚だけでなく、味覚や嗅覚、触覚を刺激することはより強い体験になると思うんですよね。例えるなら、動物図鑑を見るよりも、動物園に行くことの方が、どんな匂いがしただとか、どんな肌触りだっただとかが、情報量も多いと思うんです。今回の作品の場合はシェフが焼いている肉はちゃんと肉の香りがしますし、それぞれの空間も香水で香りの違いをつけているので、そういった体験の魅力を感じてもらいたいです。



――ありがとうございます。残りの公演期間「Venus of TOKYO」がどのようになるのか、教えていただける範囲で教えてください。

長谷川:実は、まだ解決していない、語りきれていないところが多くあるんです。それを徐々に公開していこうと思っているので、ぜひ楽しんでほしいですね。また、リアル空間で見ただけではわからないような作りにもしているので、オンラインで何が行なわれているのか、リアルでは何が行なわれているか両方見ることで、真実に辿り着けるよう、残り1ヶ月で畳み掛けようかなとも思っています。

あとは、今回オークションが題材になっているのですが、入場時に渡される専用の通貨で実際にオークションに参加できるようになっているので、新しい出品物をどんどん出したいなと考えています。獲得したい方は、ぜひ通っていただいて通貨を集めていただきたいです。

――最終日まで何度でも楽しめそうですね。最後に「Venus of TOKYO」の公演終了後にやってみたいことがあれば教えてください。

長谷川:今回の作品で、常設で上演するという経験を手に入れられたので、この経験を糧に各地で新たな常設公演を作りたいなとは思っています。常設公演を作ることは、長く作品を愛せるという魅力はもちろん、ダンスを生業にしている人たちにとってもメリットがあって、雇用機会を創出することにも繋がっていることに気づけたんですよね。

やはりダンサーが1番輝ける場所は、舞台かなと思っています。イマーシブシアターは、少し特殊なステージではありますが、常設で上演することができれば、いろんなダンサーのパフォーマンスできる場所が増えていくのかなとも思いますので、そういった場所をたくさん作って、魅力的なダンサーの方が輝ける場所、いろんな人に見てもらえる機会を作っていければと考えています。

(取材・文=於ありさ)


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