『桜のような僕の恋人』で魅せた中島健人の“表情”


冬の晴人:深く後悔し、泣き叫ぶ



季節は冬になる。晴人は、職場の先輩に支えてもらいながら美咲との別れを乗り越えようとしていた。

そんな中、美咲の兄が突然スタジオを訪れる。晴人に美咲の病気のことを告げ、「晴人くんに会いたい」と彼女の本心が書かれた紙を見せたのだ。

じっと兄の話を聞いていた晴人が流した涙。涙はあまりにも綺麗で、優しい晴人の心を表しているようだった。

それから、会えなかった数ヶ月間の月日を埋めるかのように、晴人は美咲に会いに行った。老いた姿を晴人に見られたくない美咲を気遣って、襖越しに語りかける声はあまりにも穏やかであたたかい。ずっと聴いていたいような心地よさがあった。

ある日、先輩の写真展への参加が決まった晴人は、「君に僕が撮った写真を見てほしい」と写真展に美咲を誘った。「いつか自信作が撮れたら、その時は僕の写真を見てください」というかつての約束を果たそうとしたのだ。

襖の向こうにいる美咲に向けて、正座してまっすぐ伝えた晴人は堂々としていてかっこよかった。

初めは躊躇していた美咲だったが、勇気を振り絞り写真展に訪れる。美容室やフレンチのレストラン、公園など2人の思い出の場所を映した写真を見て、晴人に会いたいと思った美咲は、彼を探しに行く。

ちょうど同じ頃、美咲の家に到着した晴人は、行き違いになってしまったと知り急いで引き返していた。

ついに2人は、公園で再会を果たしたのだ。

だが残酷なことに、晴人は老いた美咲を見て、彼女だと気づかなかった。転んでいた美咲に「大丈夫ですか?」と手を差し伸べ、屈託のない笑顔を向けて去ってしまう。

写真展の日に美咲と会っていたと晴人が知るのは、美咲が亡くなったあとだった。彼女の部屋の中で見つけた桜色の帽子が、写真展の日に公園で会った老婆のものと同じだと思い出したからである。

帽子を見つけた瞬間、自分が美咲に気づけなかったことを悔やんで泣き叫び、その場に崩れ落ちた。深い悲しみと後悔が叫びから伝わってきて、涙が止まらなかった。

本作の中で、中島健人の演技に最も圧倒された場面だ。

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