「鎌倉殿の13人」の、イケオジたちの魅力にむせ返れ!
田中泯~厳しさの向こう側~
「鎌倉殿の13人」(C)NHK
田中泯演じる藤原秀衡。奥州の実力者であり、源義経(菅田将暉)の良き理解者でありながら、裏の顔を匂わせる不気味さを合わせ持つ。
田中泯には、「厳しさ」が似合う。生半可な厳しさではない。岩に刻み込まれたような、深い深い厳しさだ。
本来の田中泯は、俳優である前に「舞踏家」だ。「舞踏」というストイックなジャンルを選び、そして踊り続けてきた人生が、その厳しさを醸し出しているのではないか。同じく「俳優もする舞踏家」である麿赤児と、同種の匂いがする。
(C)2013「永遠の0」製作委員会
その田中泯の、“厳しさの遥か向こう側にある温かさ”を体感できる作品が、『永遠の0』('13)だ。
フリーライターの姉(吹石一恵)の依頼を受け、特攻隊で戦死した祖父の人生を調べる健太郎(三浦春馬)。祖父の戦友を取材して回る中、ヤクザの組長である景浦(田中泯)にたどり着く。
景浦は戦時中、健太郎の祖父・宮部久蔵(岡田准一)と同じく、ゼロ戦のパイロットであった(当時の景浦=新井浩文)。軍人でありながら、家族のために「生きて帰る」ことを望む宮部を軽蔑し、しかしながらその随一の空戦能力をライバル視してもいた。
この辺りの構図は、佐藤浩市の項で書いた『壬生義士伝』における斎藤一と吉村貫一郎の関係性に似ている。
米軍との戦闘後、宮部に空戦を挑んだ景浦は、圧倒的な実力差を見せられ、敗れる。いつの日か宮部に復讐するために、宮部を米兵に殺させるわけにはいかない。
「どんなことをしてでも、最後まで宮部を守り抜く。敵の銃弾は一発も当てさせねぇ。宮部に襲い掛かる敵は、すべて俺が撃ち落とす。弾がなくなれば、体当たりしてでも落とす……」
だが、景浦の機はエンジン・トラブルを起こして戦線離脱。宮部は、特攻して死んだ。
話し終えた景浦は、おもむろに健太郎を引き寄せ、抱きしめる。終始厳しい顔を崩さなかった景浦が、穏やかな優しい顔をして。
「俺は若い男が好きでな」
そう言って笑った景浦は、健太郎に宮部の面影を見たのだろう。
自分にも他人にも厳しい(であろう)田中泯が、垣間見せる優しさ。その優しさを見たいがために、これからも彼の作品を観続けたい。
衝撃
「鎌倉殿の13人」(C)NHK
残念ながら、國村隼演じる大庭景親は死んでしまったが、本ドラマでの今後の佐藤浩市と田中泯の活躍に期待したい……と結ぼうと思っていた矢先の4月17日。
この日の『鎌倉殿の13人』において、佐藤浩市演じる上総広常が謀殺された。改めて頼朝(大泉洋)に忠誠を誓った翌日、その頼朝の命により、無慈悲に殺された。
上総広常を、「コワモテながらも実はいい人」に描き、さんざん感情移入させたタイミングでの、この展開。三谷幸喜は鬼である。
日本中の大河ドラマファンが、茫然自失した夜であったと思われる。
「頼朝憎し」の矛先が、現実の大泉洋に向かうのではないか。そんな心配までしてしまうほどの、驚きの演出である。
だが、日本中が立ち直れないほどのショックを受けて眠りについた夜、密かにほくそ笑んでいたであろう男がいる。
佐藤浩市だ。自分の演技で、日本中にこれだけの衝撃を与えたのだ。放送された瞬間、三谷幸喜と乾杯しててもおかしくはない。
「鎌倉殿の13人」(C)NHK
今思えば、上総広常=佐藤浩市が大庭景親=國村隼を処刑する際、景親が言っていた。
「あの時頼朝を殺しておけばと、お前もそう思う時が来るかもしれん。上総介、せいぜい気をつけることだ」
すでにフラグは立っていた……! 広常が殺された瞬間、このシーンを思い出した方も多いのではないだろうか。
いずれ、義経も頼朝に殺される。その時、義経の親代わりのような存在であった藤原秀衡=田中泯は、どんな顔をするのか。必ずやって来るであろう「その日」が怖いが、楽しみでもある。
気がつけば、カッコいいジジイたちの手のひらで転がされている。だが、それが心地いい。
(文:ハシマトシヒロ)
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