映画コラム

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2022年04月23日

『ZAPPA』ギターはマシンガンより軽く、音楽は銃弾よりも速く我々を貫く

『ZAPPA』ギターはマシンガンより軽く、音楽は銃弾よりも速く我々を貫く



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「銃弾の方が音速より速いだろ」と脳内で合成された読者が光の速さで突っ込んで来たがちょっと待って欲しい。そんなことくらい解っている。よって「これを書いた人間はブローニングM2重機関銃の銃口初速よりも音の方が速いと思っているのだ」というのは誤解だ。

筆者について知らない人は、今のところ「こいつは映画について何か書いていて、脳内で勝手に読者を合成し突っ込ませている気の毒な奴である」と思われるかもしれない。

気の毒に関してはそれほど勘違いではないのが心苦しいが、とにかく、人はパズルを組み立てるようにあらゆる断片から「その人」のイメージを作り上げるしかない。生成されたイメージには必ず、多かれ少なかれ「誤解」を含んでいる。



この文章はフランク・ザッパを扱った音楽ドキュメンタリー映画『ZAPPA』について書かれているが、当初は「誤解」をキーワードとして、ミシェル・ペトルチアーニの『情熱のピアニズム』などを引き合いに、ミュージシャンのイメージがガラっと変わったり、多くの人の誤解が解けたりするような作品を並列して紹介していく予定だった。

「予定だった」というのは、この記事が出る頃にはロシアのウクライナ侵攻が終息していると思っていたからである。だが、現在も戦争は続いている。

なぜ予定が変わり、ウクライナ侵攻の話が出たのか。それは『ZAPPA』の冒頭シーンに由来する。

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1991年、チェコ共和国、プラハ



映画は1991年のライブ映像(ライブ前の楽屋)から始まる。ザッパは「仕事じゃないんだ。ただ音楽をやればいい」と言い、ギターを持ってステージに立ち、煙草をヘッドに挟んでチューニングを始める。

このライブはソ連軍のチェコスロバキアからの撤退を祝う式典で、プラハで開催された。ザッパはゲストとして招かれており、その数日後には同じくソ連が撤退したハンガリーでも演奏している。

筆者が試写を観たのは、まさにロシアがウクライナに侵攻を始めた直後だった。プーチンが「特殊軍事作戦」を決定したのは2月24日で、オンライン試写の視聴用リンクを受け取ったのが2月25日だ。その時は「おお、すごい偶然だな」と軽く感じていた程度で「まあすぐに落ち着くのでは」と考えていた。

そのため、先程の「誤解」をテーマにライトな感じで書こうとしていたのである。企画を通さないといけないので「ザッパだけじゃヒキが弱いんで、他の作品も併せて紹介するっていうのはどうですかね? なんか◯選みたいに」と弱火の提案をしていた。

だが、戦争は強火で続いている。もう先の提案など知るか。何がヒキだ。この時期に、あまりにタイムリー過ぎる冒頭がブチ込まれる『ZAPPA』が日本公開される。これ以上のヒキがどこにあるというのか。だから、ここからはフランク・ザッパに絞って話す。

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