『バブル』日本のアニメ映画史上最高峰の“体験”ができる「5つ」の理由
5:コロナ禍の現実をほうふつとさせる設定と、希望に溢れたメッセージ
『バブル」の企画はコロナ禍の前からスタートしていた。だが、劇中の謎の泡が降る現象が起こり、世界の姿が大きく変わってしまう設定は、現実の新型コロナウイルスの蔓延をどうしても連想する。プロデューサーの川村元気も「東京がロックダウンされ、立ち入りが出来なくなる」物語に「現実がどんどん追いついていく」様は怖いほどで、東京オリンピック時のコロナ対策が「バブル方式」と呼ばれた時は本気で驚いていたと語っている。
しかも配信・劇場公開がされるタイミングで、ロシアによるウクライナ侵攻という、さらなる世界全体を揺るがす悲劇も起こっている。主人公たちだけでない「世界の人々」の姿を映す様からは、本作がボーイ・ミーツ・ガールの物語の枠に収まらない、「変わってしまった世界で生きる人たち」を描いた作品であることが、より分かるだろう。
そして、終盤に打ち出されるメッセージは、変わってしまった世界で生きる人たちに、ストレートに希望と勇気を与えるものだった。
過酷な世界で必死に生きる人々を描いてきた荒木哲郎監督と、世界に立ち向かう意志を示してきた虚淵玄脚本、それらの作家性がシンクロした結果として、今の世に必要だと心から思える尊い「願い」を、まっすぐに示してくれたことが嬉しいのだ。
余談だが、「歌」が物語の発端になっていることや、既存の人間関係に「乱入」していくエキセントリックに思えるヒロインなどは、現在先行レンタル配信がされている『アイの歌声を聴かせて』に共通しているところもある。さらに、8月6日(土)公開予定の『ONE PIECE FILM RED』でもヒロインの名前がウタだったりするなど、さらなる偶然があるのも面白い。
あえて『バブル』本編の難点をあげるならば、とある物語の根幹に関わるであろう設定が、サラッと流されるように提示されることだろうか。観客が「補完」する楽しさもあるとも言えるのだが、どちらかといえば「いったいどういうことだったんだ?」というモヤモヤの方が先立ってしまうのは、少しもったいない。各キャラクターの掘り下げももう少し欲しいとねだりたくもなってしまうし、設定のツッコミどころが気になる方もいるだろう。
とはいえ、それらを説明しすぎると冗長になってしまうだろうし、100分という上映時間でスピーディーに駆け抜けるアニメ映画としては、むしろ考え抜かれているバランスとも言える。合わせて公式サイトに掲載の「にんぎょ姫」を読めば、より理解も深まるだろう。
荒木監督は「登場する泡にも設定があって、シナリオ上の役割を視覚的に伝えていくという作業が必要でした」「泡の属性をセリフで説明できないので、画だけで誤解なく観客に伝えなければいけなかった」と語っており、説明に頼らない、アニメの表現でこそ伝える作劇を目指していたことを鑑みれば、やはり種々の描写から深く想像し考察する楽しみも得られるだろう。
結論を改めて言おう。『バブル』は徹頭徹尾、「日本のアニメ映画はものすごい」ことを改めて知ることができる、その最先端にして最高峰、センス・オブ・ワンダーに溢れた素晴らしい作品だ。
Netflixの配信で観るのももちろん良いが、映画館での鑑賞も候補に入れてほしい。初めに掲げたように、そこにはかけがえのない「体験」があるだろうから。
(文:ヒナタカ)
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