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『流浪の月』李相日監督が描く“運命のふたり”



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2022年5月13日に広瀬すず・松坂桃李主演で公開された『流浪の月』。家に帰れない事情がある少女と彼女を家に招いた大学生。

ふたりが過ごしたかけがえのない時間は、「女児誘拐事件」と名をつけられ、被害女児と誘拐犯とされてしまった。そんなふたりが15年後に再会する……というストーリーだ。

そして同じく李相日監督作品の『怒り』(16)『悪人』(10)にも、運命の出会いというものがあるならこんな感じなのではと思うような「運命のふたり」が出てくる。

3組とも、心が通い合う瞬間が描かれているのにさまざまな事情で引き裂かれそうになる、だからこそ余計に幸せを願わずにはいられない。

本記事では、そんな3作品の「運命のふたり」について掘り下げて、李相日監督作品の魅力を紹介する。

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『流浪の月』の更紗(広瀬すず)と文(松坂桃李)



父が亡くなり母に新しい家庭ができ、預けられている親戚の家でのとある出来事から、家に帰れない更紗(白鳥玉季)。そんな更紗に声をかけたのが大学生の文(松坂桃李)だった。

ふたりは2ヶ月一緒に過ごしたが、文は誘拐犯、更紗は被害女児となった。15年後、24歳になった更紗(広瀬すず)は恋人の亮(横浜流星)と同棲し、結婚の話も出ている。だがある日、偶然入った喫茶店で働いていたのは文だったーー。



困っている更紗を助け、彼女を尊重した文が誘拐犯にされてしまったのは、事実はこんなにも歪められてしまうことがあるのかと憤りを感じたが、きっと自分もこういう事件が報道されていたら、作品に出てくる多くの人と同じように文が悪者で更紗がかわいそうな少女だと信じただろう。そう思うと恐ろしい。

ふたりで過ごした時間はユートピアのようで、愛おしい気持ちでいっぱいになった。少なくとも、更紗は文に救われていたし、文にとっても更紗は大切な存在だった。



予告映像にもある「更紗は、更紗だけのものだ。誰にも好きにさせちゃいけない」というセリフだけでも、文が世間に思われているような人じゃないのは分かるし、関係を表していると言ってもいい。

それぞれが抱えた傷を癒やし合える、魂の深いところでつながっているふたりだと思う。文と更紗(子どもの頃)がふたりでアイスクリームを食べるシーンがとてもよかった。



さまざまな役を演じてきた松坂桃李が「今までで一番の難役」と言ったという文は、彼ではないと演じられなかったのではと思うようなはまり具合だった。

大学生のシーンも30代のシーンも違和感がない。個人的には、読書をする松坂桃李の姿はほんとに最高だなと思った。広瀬すずも、どこか子どものままの部分が残る更紗を絶妙に表現していた。

絶対に一緒にいてほしいふたりだが、やはり許されないのか、それとも……。タイトルの意味がわかるラストを、ぜひ見届けてほしい。

『怒り』の優馬(妻夫木聡)と直人(綾野剛)


(C)2016 映画「怒り」製作委員会

八王子で起きた、未解決の殺人事件。犯人は整形して逃亡中だという。東京・大阪・沖縄で、それぞれ素性の知れない男が現れる。3つのストーリーが織り交ざる。今回紹介するふたりは、東京の物語の登場人物だ。

大手企業に勤める優馬(妻夫木聡)は、ハッテン場で直人(綾野剛)に出会う。はじめこそ身体の関係から始まったものの、東京に出てきたばかりで知人の家を転々としているという彼を家に置いてやり、仲を深める。

たまたま会社帰りに買い物帰りの直人を見つけた優馬が、お弁当の入った袋が傾いてしまって必死に直そうとする直人を愛おしそうに見つめ、お弁当以外が入った袋を全部持ってやり「好きなだけ直せよ」というシーンはほっこりする。


(C)2016 映画「怒り」製作委員会

「昼間もいていいよ。でも俺全然お前のこと信用してないから、何か盗んだりしたら遠慮なく通報するけど」という優馬に「信用してくれてるってことだろ。信じてくれてありがとう」と返す直人に心を掴まれる。

予定を詰めて忙しくするのが好きだった優馬は「お前といるとのんびりするんだよな」と帰宅も早くなり土日も家にいるようになったり、特別な存在なんだと伝わってくる。

だがとあることをきっかけに直人と連絡が取れなくなり……。ふたりの「お墓の話」がもう、たまらない。



このために綾野剛は9キロ減量し、実際にふたりで共同生活をして役作りしたという。徹底的な役作りから生まれたふたりの空気感は、観ているこちらもゆったりとした気持ちになり、重苦しい全体のストーリーの合間に挟まれる癒しの時間だった。

作品によってはかなり男臭い激しい役を演じることもある綾野剛の、線の細い、静かだが印象的な直人役は、彼の演技の幅の広さをあらためて知らしめた。

同性という壁を感じるエピソードもあり、直人の受け止め方が印象的だった。また妻夫木聡の感情のメーターが振り切れたときの演技は、観る者を引き込む力がある。彼らがこの役を演じてくれた奇跡に感謝したい。

公開から6年経つ今でも、これまで観てきた作品の中でも印象的な、愛おしいふたりだ。

全体のテーマで敬遠する方もいる作品かもしれないが、このふたりの物語を観るためだけにでも観てほしいくらいだ。

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『悪人』祐一(妻夫木聡)と光代(深津絵里)


(C)2010「悪人」製作委員会

祐一(妻夫木聡)は、出会い系で知り合った佳乃(満島ひかり)という女に嘘のレイプ被害で訴えると言われ彼女を絞殺してしまう。

その後出会い系で知り合った光代(深津絵里)と身体の関係を持つが、お金を渡そうとした祐一に私は真剣に出会いを求めにきたと怒って帰った光代に後日謝罪する。

このふたりは、出会う順番がちょっと違えば……と思わずにはいられない。もちろん殺人は絶対にいけないが、殺された佳乃が本当に自分勝手で嫌な女で、祐一がカッとなったのも分からなくはなく、むしろ同情する部分もある。

殺人を告白し自首しようとした祐一を光代が引き止め、ふたりの逃避行が始まる。今まで真面目に生きてきた彼女がそんな行動に出てしまったことからは、女の情念のようなものを感じた。


(C)2010「悪人」製作委員会

母の愛を感じられず闇を抱えていた祐一は、光代と出会ったことではじめて人間らしい感情や罪の意識を持てるようになった。人を殺したのだから逮捕され、償わなければならないのは当然だ。

だが、おそらく今まで埋まらなかった部分を埋め合えるような、新鮮な幸せに触れるふたりを観ているうちに、「捕まらないでずっと一緒にいられたらいいのに」と願ってしまう自分がいた。

どちらかといえばモテる役のイメージがある妻夫木聡が、人とのコミュニケーションに難がある祐一を演じたのはちょっと意外だったが、ぎこちなく話すところや、うまくいかないときに自ら頭を打ち付ける様子など、細かい仕草まで秀逸だった。あまり見ない金髪も、驚いたが新鮮で似合っていた。

深津絵里の凛とした存在感も印象的だった。取り押さえられた祐一の手が忘れられない。

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『流浪の月』のふたりの行く末は?



今回紹介した3組の「ふたり」は、それぞれ欠けたピースを埋め合うような、他に替えの効かない「運命のふたり」である。そのうえで、それぞれ「許されない」部分があり、仲を引き裂かれそうになる。

『悪人』と『怒り』のふたりは離れ離れになってしまったが、『流浪の月』のふたりはどうなるだろうか。筆者は更紗と文の物語を観ながら、祐一と光代、優馬と直人のことも思い出した。

ぜひ映画館で、ふたりの結末を見届けてほしい。
そして『怒り』『悪人』が少しでも気になった方は、ぜひ鑑賞してみてほしい。

李相日監督の描く「ふたり」は、作品が違っても観るものを惹きつける魅力がある。監督の次の作品にはどんな「ふたり」が出てくるのかも、期待してしまう。

(文:ぐみ)

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