<解説&考察>DC「ピースメイカー」の魅力:エログロに終わらないアメコミドラマの傑作

ポリコレに向き合う物語

近年のアメコミ実写作品では、過去にはスポットのあたらなかった人々がメインキャラクターになることが増えている。


性別や人種、国籍に囚われず、多様性を組み込んだポリティカル・コレクトネス(偏見や差別を含まない中立的な表現や用語)を意識した物語作りが重要視されるようになったからだ。

本作では、主人公・ピースメイカーが自分と異なる背景を持った人物に悪態をつき、暴言を吐く。

その設定から、本作はポリティカル・コレクトネスに抗った内容と思い込みがちだが、物語が進むにつれ、むしろ、真摯に向き合っていることが分かるだろう。



男性権威的かつ、白人至上主義な父・オーギーに育てられたピースメイカーには、様々な偏見が染みついており、その価値観を変えることは容易ではない。

しかし、親元を離れた彼は、異性や同性愛者、アフリカ系アメリカ人やアジア人、様々な動物や宇宙人に至るまで、自身とは異なる生命が共に生きる世界を知る。

時にはダイレクトな感情で他者と対話し、そうでなければ歩み寄ることを繰り返す中で、彼は1人の人間として自立し、父とは異なる人生を選ぼうと試みるのだ。

とりわけ、本作のラストシーンは、このことを踏まえて見ると、感慨深いものになるだろう。

最終回を見終えた時、私たちのピースメイカーに対する思いがどう変わっているのかにも、是非注目していただきたい。

ジェームズ・ガンという作家

ここまで述べた物語の大きなテーマは、ジェームズ・ガン監督のこれまでの経歴を知っていると、より、説得力が増すことになるだろう。

彼のキャリアは、エログロや差別的なジョーク満載の作風で知られるトロマ・エンターテインメントのもとで始まった。

その後、『ドーン・オブ・ザ・デッド』や『スリザー』といったグロテスク描写のあるホラーを手掛けたのち、『スーパー!』を監督。

ドラッグや人体破損など、大人向けヒーロー映画として一部で脚光を浴びた本作がきっかけか、続いて、マーベル映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の監督に大抜擢される。

© 2014 Marvel


以降、アメコミ映画を代表する人物として、多くの映画ファンに知られることとなった彼だが、2018年の7月、異変が起きる。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』第3作目の制作最中、彼がキャリアの初期に行っていたTwitterでの差別的発言が掘り起こされたことで、マーベル作品を担当するディズニーは彼の解雇を言い渡したのだ。

過去の自分とは大きく変わったことを釈明しつつも、当時の罪を償うために解雇を受け入れることを公表した監督。

そこで目をつけたのがDCコミックスの作品を担当するワーナーブラザーズだった。
「やりたいことをやってほしい」というメッセージと共にスタジオは彼をスカウト。

その結果、製作されたのが『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』であった。



この流れを意識したうえで『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』と、スピンオフ「ピースメイカー」を見ると、物語そのものが監督自身の経験を色濃く反映したものであることが分かるだろう。

過激なグロ描写や、一見、気持ちの悪い演出を詰め込みつつも、その表現でしかできない感動とカタルシスに到達した前者。

そして、差別主義者であった主人公が多種多様な生命と向き合い、次第に変化していく後者。

この両作は、まさしく、この経験を踏まえたうえで、ジェームズ・ガンが辿り着いた2つのアンサーと言えるだろう。

ちなみに、現在、ディズニーに再雇用された彼は、改めて『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の第3作目を製作している。

SNSの炎上が多い主演のクリス・プラットに対しては、一部のファンから「彼を降板させてほしい」という声も挙がっているが、監督はこの意見を断固として拒否。
SNSの文字情報だけでは人を判断することはできないという旨のメッセージも公表している。



以上、U-NEXTにて見放題で独占配信中の「ピースメイカー」について、紹介した。

揺るぎない信念を持った作家・ジェームズ・ガンの最高傑作という呼び声も高い本作。

ぜひ、そんな本作を一人でも多くの方に見ていただきたい。

(文:TETSU)


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