<独占>「鎌倉殿の13人」新納慎也インタビュー「初登場シーンは最期へ向けた壮大な前フリだった」
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脚本・三谷幸喜、主演・小栗旬で贈る大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。
源頼朝の死により、混迷を極める鎌倉において、本日8月7日(日)放送の第30回「全成の確率」で、ついに頼朝の異母弟・阿野全成が誅殺された。
cinemas PLUSでは、全成を演じた新納慎也(にいろ・しんや)にインタビュー。ラストシーンでの秘話をはじめ、たびたび出演している“三谷組”の現場についてお話を伺った。
“悪禅師”全成が“おもしろ坊主”として描かれた理由
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――クランクアップしたときのお気持ちを聞かせてください。
新納慎也(以下、新納):1年くらいかけて撮っていたんですよ。それくらい長丁場なのは大河くらいしかないので、寂しさのほうが強かったかなあ。ああ、終わっちゃった……みたいな。
――視聴者も全成ロスを感じると思います。
新納:おもいきりロスってほしいですね(笑)。
――『真田丸』では豊臣秀吉の甥を演じられ、“秀次ロス”が起きました。それを超えるでしょうか。
新納:僕としては『真田丸』以上に惜しまれる役になりたいと思って演じていました。とはいえキャラクターが全然違うので、また違ったロスになるのではないでしょうか。毎週出ていたおもしろい人がいなくなって寂しいなという感じでもいいので、全成を忘れずにいてくれたら嬉しいと思います。
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――全成はコメディパートを担っていましたね。
新納:登場こそ面白かったですが、じつは最初、そんなに面白い役割になるとは思っていなかったんですよ。史実では全成は“悪禅師”と呼ばれていて、三谷幸喜さんからもインするだいぶ前に「豊臣秀次のときとは全然違う、悪い部分や黒い部分、男っぽい部分を出してほしい」と言われていたんです。ただ、この“悪”はいわゆる“悪”ではなくて、猛々しいとか強いとかいう意味なんです。いずれにしてもお坊さんにしてはたくましいイメージをもって現場に入り、最初の数話では、ちょっと悪い顔というか何か企んでいる顔をしたり、頼朝を冷たい目で見たりしていたのですが、何話か進むうちに、どうやらおもしろ坊主みたいな役割なのかなと思うようになりました(笑)。
――陰謀や粛清だらけなので、おもしろパートがあってホッとしました。
新納:戦時下とはいえ、家族や恋人、友人たちと平和で穏やかに暮らしたいと思っている人が多いのではないかと思うんです。実衣と全成はその代表的な人物として映ればいいかなと思って演じていました。
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――実衣は徐々に権力志向になっていきますよね。
新納:そうなんですよ。それは辛かったですね。全成としても、1視聴者としても、『実衣ちゃん、そっちにいかないで〜』という気持ちで観ています。
――全成は権力に興味はなさそうですね。
新納:最初はもちろん頼朝を助けて戦や政(まつりごと)に参加するつもりで護国寺から出て来て、彼なりの野心もあったのでしょうけれど、実衣に出会ってしまって、この人と鎌倉で穏やかに暮らしたいという気持ちになったのではないかな。たぶん、もともと性格も激しくないでしょうし、そういう意味で“愛に生きた男”なのだと思います。こうして振り返ってみると、全成は実務的にはあまり役に立ってないですよね(笑)。
三谷幸喜も想定外!?の全成の最期
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――全成の呪術や占術に関して、実際そういうことをやっていたというような史実は残っているのでしょうか。
新納:それは三谷さんの創作だと思います。当時は神仏の力が信じられていて、おそらく、権力者たちのそばには呪術的なことを担う役割をもった人がいたであろうという推測に基づいたもので。ただ全成が陰陽道を使っていることは荒唐無稽に見えるかもしれませんが、根拠があるそうです。護国寺では陰陽道の修行もしていたそうなんですよ。三谷さんが歴史考証の人に聞いたら「護国寺にいた僧侶ならありえます」とのことだったので採用したと聞きました。
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――全成の最期は、実はすごい霊力(?)があったのではと思わせます。
新納:初登場のとき(第7回)、風を起こそうとして術が効かなかったこと(「今日は難しいようです」と言う)が壮大な前フリだったと日本中のお茶の間が驚いたのではないでしょうか(笑)。僕自身、第30回の台本を読んで、初登場が前フリだったんだ、さすが三谷幸喜さん! と思いましたから。
ただ、最初からあのラストを思い描いていたわけじゃなかったみたいですよ。書いているうちに全成のずっこけ感を活かしたいと思われたのかな。それで僕も、全成の最期は初登場のときの『臨兵闘者皆陣烈在前』の呪文を唱えて嵐を起こしたいと考えました。現場でスタッフからいただいた呪文はちがうものだったのですが、初登場で風を起こせなかった全成が、最期に同じ呪文で嵐を起こすことにさせていただけませんかと相談しました。一瞬、嵐が起きて、そのあと青空になって……。偶然かもしれないけど、やっと嵐の術ができたっていう喜びのなかで死んでいったように思います。
あの死に方は、僕が演じる全成らしいなと思いました。最初の構想(黒っぽい全成)と全然違うじゃないですかと三谷さんに聞いたら、「新納さんが演じてくれると、自分でも想像していなかったところに役を連れていってくれるのですごく面白いです」と言ってくださいました。
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――新納さんは『真田丸』の秀次も史実では悪人のようになっているがそうではなかった役で、全成も悪禅師のイメージではないですね。
新納:三谷さんはなぜかそういう役をくださいます。最初に三谷さんの作品に出たときからそうで、ちょっと頼りない、いい人をずっと演じ続けています。三谷さん以外のお仕事だと悪役が多かった僕から、違う面を引き出してくれたと思っています。
――ラストシーンのほかに「鎌倉殿の13人」の現場でプラスしたアイデアはありますか。
新納:例えば、SNSで話題になった紫式部の憑依ですね。台本には「モノマネする」というト書きだけしかなくて、どうしようかなと考えて「源氏物語」の一節を読むことにしました。義高のモノマネは「おもちうまかった」というようなセリフは書いてあったのですが、その読み方に悩みました。市川染五郎くんの映像をもらって、僕なりに真面目に近づけた結果です。頼朝のマネは、頼朝を演じている大泉洋さんのモノマネがたぶん、正解なのでしょうけれど、それだとかっこ良すぎて笑えないので、小栗旬くんにも相談して、大泉洋さんのモノマネをする選択をしました(笑)。
――ずいぶん時間をかけて取り組んでいるんですね。
新納:おもしろい部分こそ、かなり真面目に追求しているんですよ。
“三谷組”常連!11月からは三谷作・演出の舞台にも
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――三谷作品にたくさん出ている新納さん、11月からは舞台『ショウ・マスト・ゴー・オン』にも出演します。90年代の伝説の舞台ですが、その東京サンシャインボーイズ版はご覧になっていますか。
新納:実際に劇場で観たか劇場中継だったか曖昧なのですが観てはいます。これぞシチュエーションコメディの決定版といった内容ですよね。出演者全員が最後まで必死な様に笑いが止まらないというものは三谷幸喜さんのスタイルの原点のようものだろうと感じます。そういう作品に出ることができることは嬉しいです。
――なんの役ですか。
新納:小道具づくりの名人役です(黒木七右衛門/サンシャインボーイズ版では『鎌倉殿』で善児役をやっている梶原善が演じた)。いまはそれしかわかっていません(笑)。
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――新納さん、手先は器用ですか。
新納:全然器用じゃないんです。昔、ある劇団に客演したときに小道具作りを手伝ったことはありますが、僕は絵を描いたり、ものをつくったりする才能がないみたいなんですよ(笑)。
――小道具に関するエピソードは何かありますか。
新納:小道具ではありませんが、「鎌倉殿〜」の衣装合わせのとき、オレンジとブルーグレーの衣裳に、紐が何種類か用意されていて、「なにか巻きます?」と聞かれたので、せっかく用意してくれたのだからと、紫の紐を巻いてみることにしたら、ずっとそのまま巻くことになりました。いいアクセントになったと思います。
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――小道具や衣裳に関して思い出はありますか。
新納:衣裳やヘアメイクは演技の助けになる大事なものです。その逆で、時には役者が1ヶ月稽古して作りあげてきたものを一瞬でだめにする力もあるんですよ。例えば、よく動く役にもかかわらず動きづらい衣裳が用意されていたら、僕は意見を言わせていただきます。それだけ衣裳やヘアメイクは重要なんです。
――大河ドラマでは「真田丸」「青天を衝け」「鎌倉殿の13人」と3作出演されました。今後やってみたい歴史上の人物はいますか。
新納:難しい質問ですね。なぜならば僕は歴史に詳しくないんです(笑)。『青天』の島津斉彬は違いますが、全成も秀次も、歴史上でスポットがあまり当たってこなかった役をやらせてもらいました。そういう人たちを蘇らせるじゃないけれど、ありえたかもしれない彼らの人生を演じることが楽しかったので、これからも一般に知られてない人物に血肉を与えていくことをしていきたいと思う一方で、たまにはものすごく有名な役もやってみたいです。例えば、豊臣秀吉や明智光秀はおもしろそうだし、シルエット的には僕って織田信長のシルエットじゃないかな? とも思っているんですよ(笑)。
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(撮影=Marco Perboni/取材・文=木俣冬)
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